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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第四章 二人の距離
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今のままで…

 それならとアリシアは胸を撫で下ろした。

 シオンが馬を取りに行ったのを見計らって、トータムがアリシアの横に来た。

「シオンさんにはきつく口止めされたんですけど」と、前置きをして彼が話し始める。

「実は騎士団の件、リンダ達の武具屋にとシオンさんが直談判にいってくれたんです」

「シオンが!?」

 この事実にアリシアの声が知らずと高くなる。今回は一切手助けはしないと断言した彼が、見ず知らずの騎士団に単身乗り込んで尽力してくれたとは思いも寄らなかった。

「『漆黒の剣士』に言われては官僚方も従わざるを得ないですから」

 半分脅迫めいていたけど、と笑いながら付け足す。

「……そうだったの」

 また、シオンに助けられた。

 アリシアの心は熱くなる。

「僕もいつかシオンさんのような強くて立派な剣士になりたい」

 トータムの熱く澄んだ瞳にアリシアは頷いた。

「あなたならなれるわ。護るべき人がいるから」

 そこへシオンが現れたので二人はさりげなく離れた。

「お気を付けて」

「有り難うございました!!」

 馬に跨り武具屋を後にしたが、二人並んで手を振る姿は微笑ましくアリシアもまた何度も振り向いて手を振り続けた。


 アリシアは馬上のシオンを見ていた。いつものように漆黒の髪を靡かせて威風堂々である。


 ーこれは二人の問題だ。よそ者が出しゃばっていいはずがないー


 リンダ達の恋を手助けすると言ったアリシアにシオンが一喝した台詞だ。

 本当にその通りだった。

 でも、あの二人なら大丈夫。自分達の力で困難を乗り越えたのだから。

 シオンも同じことを考えていたのだろうか、馬上で二人の目が合った。

「なんだ」

「有り難う」

「何を?」

「その、リンダ達のこと」

 騎士団の件は彼の意地もあるだろうから伏せておく。

「アリシアの誠意が通じたんだ。俺は何もしていない」

 私のやり方が間違っていないと背中を押してくれたから信じて進めたのよ。

 と、口に出せば彼はどんな顔をするだろうか。

「今回のことで私も考えさせられたわ。もう少し慎重に……」

「アリシアは今のままでいい」

 シオンが彼女の言葉を遮った。

「躓いたら二人で悩めばいいし、傷ついたら俺の胸で泣けばいい。だから、お前はアリシア・シャムロックでいてくれ」

 オマスティアの王女ではなく剣士として出逢った頃のアリシアでいて欲しいとシオンは強く願わずにいられない。

「シオン……」

 悲しげで切ない漆黒の瞳にアリシアは彼の真意を読み取ろうと凝視する。

 いつの間にか二頭の歩みが止まり二人の距離が近付いた。

 シオンの大きな手がアリシアのブランデー色の髪を撫で、やがて白い頬を包むとアリシアは静かに目を閉じた。



 

 

次話から、シオンの過去に関わる人物が登場します。


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