障害 2
間借りに戻ると、シオンがコーヒー片手に寛いでいた。
「どうだった?」
リンダがアリシア相手に恋の相談をしていたことはお見通しだったらしい。
「シオンの言う通り、二人は恋人同士だったわ」
そうだろう、と得意げにカップに口を付けた。
「トータムって剣士の御両親は身分違いだと反対しているそうよ」
「ふうん」と、相槌を打った次の瞬間シオンの顔が険しくなる。
「まさか、また首を突っ込むんじゃないだろうな?」
「……」
返事がないということは図星である。この点に関してはアリシアは実に分かり易い。
「言っておくがこればかりは本人達の問題だ。よそ者が出しゃばっていいはずがない」
「二人の気持ちは変わらないわ。だから、周りを説得すれば……」
「俺達がいる間はどうにかなるかも知れない。じゃあ、俺達がいなくなった後はどうするつもりだ。また、二人の為に駆けつけるか?」
いつになく手厳しく正論を述べるシオンにアリシアは返す言葉がなく黙るしかなかった。
「身分の違いは今に始まったことじゃない。二人で乗り越えなければ意味がない」
それはシオン自身に言い聞かせた台詞だった。今回の帰郷でアリシアはオマスティアの王女としての復権を果たした。
今は剣士として生きているが、また国が乱れるようなことがあれば今度こそ人生の全てを捧げるに違いない。
ー王女と剣士ー
忘れていた、否忘れたかった現実を思い知らせられる。身分違いはシオン達も同じなのだ。
『俺がアリシアを護る。この命に代えてもな』
以前、クッソに言った言葉は偽りはない。だが、アリシアがオマスティアを選んだら自分はどうするだろうか。
もう手が触れられない場所に行ってしまったら、自身の代わりに誰かが彼女を護るのか……。
リンダが自身と重なり苛立っているシオンにアリシアは食い下がる。
「乗り越えられなかったら?」
「それだけの愛だったと諦めるんだな」
「もしあなたが同じ立場だったら諦めるの!?」
その一言にシオンは鋭い目でアリシアを睨むと、アリシアもブランデー色の瞳で正面から受け止めた。
「俺の話をしているんじゃない。リンダ達の話をしているんだ」
先に目を逸らしたのはシオンだった。
「俺は手助けはしない。いいな?」
無表情で部屋を出たシオンをアリシアは差し出した手を振り払われた寂しさを感じた。
ブランクルやオマスティアの時は助けてくれたのに、一体何が違うというのか。そして、何故シオンが苛立っているのかアリシアはまだ気付かない。
四人の想いを秘めてカスピアの夜は更けていく。




