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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第四章 二人の距離
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障害

 「また来るよ」と、話を畳んだトータムはアリシア達に一礼して人ごみに紛れて行った。

「アリシアさん、見学していきませんか?」

 無理に作ったリンダの笑顔にアリシアは頷いてシオンに向き直った。

「ちょっと長くなるから先に行っててくれる?」

 シオンも何かを感じたのか片手を上げて店を後にする。


「アリシア様……」

「アリシアでいいわ。なに?」

 明るく仕事をこなすリンダが沈んだ声だ。

「アリシアさんはどうして剣士になったんですか?」

「母が剣士だったの。だから、物心ついた頃から剣士になるって決めてたわ」

「私も武具屋で育ったから、なんの疑いもなくこの仕事を選びました」

 いつの間にか作業する手を止めて近くの椅子をアリシアに勧めると自身も並んで座った。

「でも、トータム様と出逢ってから疑問に思い始めて……」

 アリシアはシオンの仮説を思い切って訊いてみる。

「彼のこと好きなの?」

 リンダは頬を赤らめて頷いた。

「最初はお客様で来てたんです。話しているうちに楽しいなあって、それから段々好きになって……」

 私もそうだった、とアリシアはクッソと出逢った頃を思い出していた。

 若くして騎士団長に任命されて以来、周りから一目置かれた存在になったがクッソは一人の女性として接してくれた。

 互いに共通の話題で盛り上がりそして恋に落ちた。

 今でも彼のことを想うと切なくなるが、もう負の感情は襲ってこない。

「アリシアさんとシオンさんは剣士同志だから、何の障害もないんですよね」

「彼とはそんな関係じゃないわ。頼りにはしているけど」

 シオンとの出会いは本当に偶然だった。『宝船』で騒動に巻き込まれたアリシアに加勢したのがシオンで、それからの付き合いだ。

 彼女が窮地に陥ると必ず護ってくれる『漆黒の剣士』。

 その揺るぎない太刀筋は彼の漆黒の瞳に似て真っすぐで鋭い。

 だから、シオンと行くことを選んだ。

「二人の交際を反対されているの?」

「トータム様のご両親が身分違いだって反対しています。私は平気ですが、その度に彼が間に入って悩んでいるんです」


 身分違いの恋ー


 シオンは自身がオマスティアの王女と分かっても態度は変えなかった。それはクッソも同じだったが、やはり何かが違う。

 強さ、自信、実績……、いずれも当てはまらない。

「なら、諦める?」

 リンダは力強く首を左右に振るとアリシアは優しく微笑んだ。

「あなたの力になりたい。私でよければ力を貸すわ」

「ほんとですか!?」

 目を輝かせて手を取り喜んでいるリンダに、アリシアの脳裏に「また安請け合いして」と苦笑するシオンが浮かんだ。

 

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