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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第三章 アリシア、立つ
37/201

あなたと一緒に…

オマスティア編、ついに完結。

 シオン殿がいたからアリシア様はこのつらい地に足を踏み入れる勇気が持てたのです。

 エバはフェザーから聞いた言葉を思い出す。

 『漆黒の剣士』の噂はエバも小耳に挟んでいた。そして、イルセと繋がりがあることは本人達はまだ知らない。

 クッソとの愛は裏切りという最悪な結末だったが、もし、また誰かを愛するのならシオンのような真の強さを持つ男がいいとアリシアに話したことがあった。

「そんな関係じゃありませんよ」と、笑っていたがシオンの存在は確実に彼女の中で大きくなっている。

「あやつに借りができたようじゃ」

 エバは笑いながら部屋を出て行ったので、アリシアは一礼して見送った。


 旅立ちの朝、アリシア達を見送るために十数人が集まった。その輪の中にクッソとシナリアの姿はない。

 皆、国に残るよう懇願したが彼女の決意は変わらなかった。

「エバ様、お身体に気を付けて」

「今度こそ命を引き換えにしても国を守る。だから、安心して参れ」

 アリシアは微笑んで愛馬に跨るとシオンもそれに続いた。

「シオンとやら。アリシアを頼んだぞ」

「承知した」

 自信に満ちた声にエバが満足気に頷いた。

 各々、別れを済ませて疾風の如く走り去る二頭の馬をエバ達は視界から消えても尚見送っていた。



 オマスティアの城下が小さくなってきたので、シオンが馬上のアリシアに声を掛けた。

「これでよかったのか?」

 アリシアが一カ月近く心血注いで立案した政策は、結局シナリアの名で公布された。

 姉の帰郷で妹が改心したと国民の間で噂され、シナリア自身の評価も少しずつだが上がってきている。

 クッソが自ら団長を辞任した後、その座をフェザーに推薦したが最後まで渋っていたので彼女が説得して無事収まった。

 あれだけ傷つき苦しめられた二人に、自身の功績を無償で与えるなどと人がいいにも程があると憤然していたシオンだが、そこが彼女のいい所でもあると納得するしかない。

「ええ。これでよかったのよ」

 国を離れて三年。オマスティアを再建するに当たり、不本意だった放浪も無駄ではなかったと実感した。旅先で、様々な体制や事情を抱える町や国を見てきてかなりの情報を得ることが出来た。

 あのまま国にいても分からなかった旅の経験は、アリシアにとってはまさに宝である。

「もし、私が政を行っていたとしても結果は同じだったかも知れない。きっと、世の中を知らずに自己満足で生きていたわ」

「お前さんがいいなら、何も言わんさ」

 まだ言葉の端々に不満が残っているが、それでもシオンはいつも護ってくれる。常に護る側だったアリシアには、彼の存在が随分と心の支えとなったと言っても過言ではない。クッソとの過去も、シオンと一戦交えて未練を断ち切れた。

 だから、シナリア達を恨む気持ちは次第に姿を消していくだろう。

「あの政策の結果が出るのはまだ先の話よ。また混乱が生じれば帰らなきゃいけない日が来るかも。その時まで、しっかりと情勢を見極める力を養っておきたいし、それに……」

 途中で言葉を切った彼女をシオンは怪訝そうに見つめる。

「それに?」

 抱き締めたシオンが自身に囁いたあの言葉が耳元で甦る。

「色々な風景をあなたと一緒に見たいの」

 清々しいほどの笑顔に、漆黒の剣士の胸は痛いほどときめいた。

次話から第四章に入ります。アリシアとシオンの距離が近づくにつれて障害も多くなるようです。

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