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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第三章 アリシア、立つ
35/201

愛の終わり

クッソとの愛の結末に揺らぐアリシア。

 腰が抜けたのか、立ち上がれないクッソにアリシアは片膝をついて手を差し伸べた。

 その細く白い腕を掴まれて不意に抱き締められた。

「僕達、やり直さないか」

 意外な一言だった。

「あの男を見ただろう? 口では君を護ると言いながら戦いを楽しんでいたじゃないか!」

「それは私も同じ。人である前に剣士なのよ、私達……」

 自身もシオンと同じで、純粋に強い者と戦って喜びを得る。残酷でどうしようもないがこれももう一人の自分だ。この感情を持つ自分を全て受け入れてくれた愛だと信じて止まなかった。三年前までは……。

「僕と静かに暮らそう。君を愛しているんだ」

「……どうして今言うの?」

「えっ?」

「どうして、あの時言ってくれなかったの!?」

 クッソから体を離したアリシアの頬は涙で濡れていた。

「でも、君はシナリアとの関係を黙って許してくれたじゃないか!!」

「許す? 泣いてすがれば戻って来てくれたの!? シナリアは妹なのよ!! また奪い返して何が残るっていうのよ!!」

 当時のつらく悔しい記憶が鮮明に蘇り、胸に仕舞っていた感情が一気に溢れ出して涙が止まらない。

 泣き叫ぶアリシアにクッソはただ戸惑うばかりだ。

「結局、私は愛されていなかった……」

 最後は声が震えて言葉にならなかった。

 勢いよく立ち上がったアリシアはクッソを残してこの場を走り去った。


「話は終わったかい?」

 中庭を過ぎるとシオンが待っていた。その表情はいついなく優しくて切ない。

 何故、シオンがクッソの安っぽい挑発に乗ったのか。それは、全て自分の為と彼との私闘で感じていた。この国に渦巻く因縁という鎖を断ち切る機会を与えてくれたシオンの優しさが心に沁みる。

 いつもそうだ。困っているといつも助けてくれる。しかし、そんな優しさが時に残酷だとクッソとの愛で思い知らされた。

 だから、シオンの優しさが怖い。

 いつか裏切られると怯えている自分も嫌だ。

 愛する者を護るのが剣士だとシオンが断言したことがある。

 私は愛される資格なんてないのに……。

 彼の大きな掌が涙で濡れた白い頬を包んだ。

「いい女が台無しだ」

 シオンの親指が溢れる涙をそっと拭うと、アリシアはその厚い胸に泣き崩れた。

 もう、迷うな。俺がお前の傍にいるから。

 シオンが囁くとアリシアは何度も頷いた。

 剣士ではなく独りの女性アリシア・シャムロックとして初めて見せた姿にシオンは力強く抱き締めた。

  

 クッソとの愛が、三年の時を経てようやく終わりを告げた。

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