シオンの私闘
シオンの鋭い眼光にたじろぎつつもクッソも精一杯睨み返した。
「いいから答えろ!! 貴様、アリシアを愛しているのか!?」
「だったらなんだ」
答えるのも面倒とばかりに吐き捨てた。
何故、三年前にアリシアを信じてやれなかった!? だから、お前に愛する資格はないんだよ、と心で毒づく。
「貴様のような男を受け入れる筈がないじゃない!!」
言い終わるが速く、シオンはクッソの胸ぐらを掴むと引き寄せた。その形相はまさしく戦場での剣士だ。
「分かったような口を聞くな!! 今頃惜しくなるなら、何故裏切った!?」
責め立てる激しい口調に、クッソは返す言葉もなく項垂れてしまった。
「俺がアリシアを護る。この命に代えてもな」
荒々しくクッソを離すと、シオンは足早に立ち去った。
もしイルセが生きていたら、アリシアはクッソと添い遂げて幸せに暮らしていたかも知れない。そうしたら、国を去らずに済んだし自分と出逢うこともなかった。
いささか感傷的になったところでフェザーがシオンを呼んだ。
「先日は、急な誘いにも関わらず来てくれて有り難う」
「いえ。色々話が聞けてよかったです」
「ところで、慣れぬ土地で退屈だろう」
「ええ、体も鈍ってます」
「だったら、この者に稽古をつけてはくれぬか」
フェザーは、横にいたあどけなさが残る青年を紹介した。
「シオン・フォレスト様ですよね?」
憧れの剣士を目の前にした青年の瞳はきらきらと輝いている。
「俺を知っているのか」
「はい。アリシア様とシオン様はご高名ですから」
「副団長であるフェザー殿を差し置いて俺が出しゃばるのも気が引けるし、あの団長殿がなんて言うか」
溜息交じりに言うと、フェザーも軽く息を吐いて頷いた。
「部下には、もっと色々な剣士と一戦交えて経験を積んで欲しいのだが、団長であるクッソはそれを良しとしない。まさに、我が騎士団は井の中の蛙といってところだ」
嘆かわしい、とフェザーは空を仰いだ。
シナリアの一存でクッソが騎士団長に任命されたが、実力と人望のあるアリシアとの差は火を見るより明らかだった。それでも尚、彼が団長を今日まで務められたのは王の代理であるシナリアの権威の庇護下にあったからといえる。
自分を見る侮辱の視線から逃れようと、虚栄を張り他国の騎士団とも交流を絶ってきた経緯がある。
騎士団の大半はアリシアを敬愛していただけに、裏切った上に取って代わったクッソを快く思う者は少なくない。そして、そのことがクッソにとって更に居心地を悪くさせていた。
「クッソ団長は……」
青年は言い掛けて口を噤んだ。
「厳しいことを言うと、クッソでは埒が明かん。実力、名実共に秀でているアリシア様と比べる方が酷だがな」
全く、その通りだとシオンも頷いた。




