フェザーの思い
フェザーは、真実を語り終えると大きく息を吐いてグラスに口を付けた。
どのくらい時が経ったのだろうか。いつしか双子の声もしなくなり、夫人の手料理もすっかり冷めてしまった。
目頭が熱くなってきたフェザーは、話題を変えようとやや明るい声で話し掛ける。
「不躾な質問をして申し訳ないが、アリシア様と好き合った仲かね?」
「何故です?」
「あんな去り方をしたお方だ。帰郷するには断腸の思いであっただろう。貴殿がいたからこそ決心なさったと感じたのだが」
礼拝堂で、一緒にいるから勇気が出たとか素敵な剣士と自分のことを語ってくれたアリシアの台詞が頭をよぎったが、それは自身の胸だけに仕舞っておく。
「残念ながら俺の片想いで、彼女にはその気はないようです」
軽く笑うシオンのグラスにフェザーが酒を注いだ。
「まだお気持ちが癒えていないのだろう。時間が掛かっても、アリシア様のお傍にいてほしい」
イルセの代から仕えていた彼は、アリシア達が生まれた時から成長を見守っていただけに親心に近い心境なのかも知れない。
「しかし、親子とはこれほど似るものだろうか。常に、屈強な剣士と行動を共にするとは」
「イルセ殿が嫁ぐ前の話ですか?」
「ああ。『蒼き獅子』ブベッセンスと『雷光』ブーゲン。このお二人と戦を駆け回ったと聞いている」
二人の剣士の名にシオンのグラスを持ち手が止まったが、フェザーは気付かず夫人の料理を肴につまんでいた。
「クッソはアリシア様には過ぎた男だ。恐れながらと進言したこともあったが、あの方は最後まで信じて已まなかった」
やりきれないとばかりに一気に酒を飲み干したので、シオンが注ごうとすると手で制した。
「今夜は飲み過ぎた。相手がいると酒も進む」
言うほど酔ってはいなかったが、三年間胸に秘めた積怨の念を吐き出したせいか脱力感に見舞われた。宮中では、気を張り詰め孤立無援に近い状況で過ごしてきたのだから無理はない。
「すっかり長居をしてしまいました。今夜はこれで失礼します」
「こちらこそ遅くまで付き合わせて済まなかった。久し振りに楽しい酒だったよ」
タンジェリン夫妻が玄関先でいつまでも見送ってくれた。
満天の星の下、シオンは馬上でアリシアが抱えていた心の傷の深さを思い知った。
真実のピースがまた一つはまり、次第に埋まっていくオマスティアの歴史をこの数日で受け止めるにはシオンは若過ぎた。その証拠に、浅い眠りに着いたのは東の空が白々と明けた頃だった。
食欲がなかったので朝食を軽めに済ませると、気分転換に外の空気を吸いに部屋を出た。
その途中で、クッソが腕組みをして待ち構えていた。
「シオン・フォレストだな!? 貴様、アリシアとはどういう関係なんだ!?」
開口一番、クッソが叫んだ。
こいつがアリシアを捨てたクッソ・ミリオンか……。
昨夜の話を思い出して腹が立ったせいかこちらも口調が荒くなる。
「貴様こそなんだ。少しは礼儀を弁えろ」
あまりにも横柄な態度にシオンの我慢は限界に達していた。




