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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第三章 アリシア、立つ
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無念の決意

 フェザーはおもむろにアリシアの方を振り向いた。

 顔は青ざめ、瞳は今にも涙がこぼれそうなほど潤んでいる美しき団長の姿は痛々しい。

「部下の罪は、上官すなわち私の罪。責めは私が一切負うわ。だから、フェザー殿は騎士団に留まらせて」

 アリシアが跪いてシナリアに懇願している光景に騒然とした。

「お止め下さい!! 私は少しも悔いはございません!」

 肩を抱いて起こそうとする彼の手に自身の手を重ねる。

「あなたには護るべき家族がいるでしょう?」

 結婚して十数年目でやっと授かった双子の娘達の笑顔が浮かんだフェザーは項垂れた。

 二人の様子を窺っていたシナリアは思わぬ好機にほくそ笑む。

「そこまで言うのなら考え直してもよくてよ。でも、刑自体を取り消すことは出来ない」

「分かってるわ」 

「お姉様には騎士団長を辞した後に諸国を視察のため国を離れてもらうわ。無期限でね」

 つまり、国外追放である。

 皆、どよめいたが今のシナリアに逆らえる筈もなくただ黙っているだけだ。

 何故、恋人を奪われて尚祖国を追われなけばならないのか……。

 この時初めて、シナリアの自身に対する深い憎悪を知った。

「アリシア様、いけません。王女であるあなた様が何故、祖国を去らねばならないのですか!?」

「全ての元は私にあるの」

 これ以上ない酷い仕打ちにも関わらず気丈にも微笑むアリシアが不憫でしようがない。

「勘違いしないで。あなたの刑に比べればあまりある譲歩よね、お姉様」

 フェザーや騎士団そしてオマスティアを救うには、従うしか手立てはないとアリシアは唇を噛んだ。

 後に、傷心のアリシアに追い打ちをかけるが如く明後日出発せよとの命が下った。


 当日、諸国の視察と銘打った国外追放の罪を甘んじて受けたアリシアを見送ろうと数十人の者が裏門に集まった。罪人を見送ることは重罪に値するが、彼女に一目会って贐をとの一心だった。しかも、あのエバもいるので護衛兵も黙認している。

「アリシア様、お身体に気を付けて」

 屈強の剣士フェザーの目から涙が零れた。自身の為に罪を負ってしまった彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいである。

「騎士団を頼みます」

 騎士団の剣士やアリシアを慕っていた城の者達が口々に別れを惜しむと、見惚れる動きで白馬に跨った彼女が馬上で一礼すると風の如く走り去った。


 一体、どこへいけばいいのか当てがないまま一目散に駆けて、やがてオマスティアが一望できる甲高い丘へ辿り着いた。

 母イルセが命を賭けて守ったこの国を去ろうとはこれまで想像もしなかった。

 不意に白い頬から一筋の涙が流れた。

 実の妹と恋人に裏切られた哀しみ、切なさ、憎しみ、そして絶望……。

 アリシアは堰を切ったように号泣した。国境ラルーンの時と同じ、大粒の涙を拭うことなく泣き続けた。

 この醜い感情を涙で全て洗い流して、明日から剣士アリシア・シャムロックであり続けるために……。

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