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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第二章 過去への帰郷
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国境ラルーンの悲劇 1

『美しき死神』イルセの武勇伝が語られます。

 シナリアがいなくなると、そっくりな容姿を利用して姉の友人までを取り込もうとする浅ましさにシオンは軽く身震いした。

 これだから、女は怖い。

「よくぞ姉妹の違いに気付きなさった」

 暗闇から不意に現れた老婆にシオンは咄嗟に剣に置いた手を外した。

「わしは、先代の王から仕えているエバというものじゃ」

 一枚の布からなっている民族衣装のフードを頭から外したエバは高齢で、首には占いに使う色とりどりの宝石の数珠を提げている。背が低いのでシオンをかなり見上げなければならない。

「エバ殿とやら、いつからいらしていたのか。人が悪い」

「すまんのう。アリシア達は孫同然なんじゃが時々間違えてしまう。だから、他人があの姉妹を見分けられるか興味があったものでな」

「惚れた女を間違える筈がない」と、強気な態度にエバはほっほと喉の奥で笑った。

「剣士ならイルセの武勇伝は知っておろう? 何故、シナリアが実の姉をあれほど憎むのか元凶はそこにある。訊きたいか?」

 シオンは詳しく武勇伝のことは知らない。彼の師も何故かこの話になるとはぐらかしてしまうので興味はある。

 頷くと、エバはぽつりぽつりと語り始めた。


 双子の母イルセ・シャムロックはあらゆる戦場で名を馳せた剣士だった。彼女もブランデー色の髪と瞳の美しい女性でアリシア達は母親に似ている。

 その美貌からは想像がつかないほど戦いにおいては非情に徹していた。

 白い肌を返り血で赤く染めながら剣を振るう彼女を剣士達は『美しき死神』と呼んで恐れていた。

 現在の王であるブラッケン・シャムロックと結婚して双子を儲けた後も母として妻として、そして騎士団長として公私ともにオマスティアを支えてきた。

 シナリアは、剣には全く興味がなく普通の少女として成長したが、アリシアは幼い頃から母を師と仰ぎ同じ剣士の道を選び剣術に明け暮れる毎日だった。

 その実力と才能は、騎士団の中でも群を抜いており男の剣士すら敵わないものとなっていた。

 だが、イルセの後継者として皆から期待されるほどシナリアの心は憎しみが増していく。

 独占欲の強い彼女は、イルセとアリシアが一緒にいる時間が長い分、自分への母の愛情は薄いと思い始めていた。実際には、イルセは惜しげ気もなくシナリアにも愛情を注いでいたが、嫉妬という種を心に宿した娘には届くことはなかった。

 そして、姉妹が十五歳の時、オマスティア最大の危機が訪れた。

 豊富な資源を虎視眈々と狙っていた隣国ホルセンが進軍してきたのだ。しかも、去年、資源を提供する代わりにブラッケンが王位に就いている間は戦争はしないという協定を結んだのにも関わらず、ブラッケンが危篤との情報を嗅ぎつけての暴挙だった。

 敵軍がもうすぐ国境に到達するという監視兵の報告にオマスティアは揺らいだ。更に不運なことに四万の兵のうち半分が同盟国の遠征に向かったばかりである。

「第一から第四分隊は城を警固! 残りは私と共に国境へ向かう!!」

 イルセの凛とした指示が本陣に響き渡るなか、副団長のフェザーは続々と集まる状況を的確に把握して地図に書き込んでいく。

「それにしても、我が国がこうもあっさり進軍を許すとは」

 今までホルセンの動きが掴めなかったフェザーは苛立ちを隠せない様子だ。


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