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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第二章 過去への帰郷
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姉と妹 3

 シオンはというと、一人だと落ち着かない広く豪華な客間でしばらく過ごすことになった。

 このところアリシアとずっと一緒だったので、コーラム以来の孤独な夜に寝酒が度を過ぎたらしくぼんやりとした朝を迎えた。

 アリシアの友人ということで宮中での行動に規制はなかったが、常に監視されている気配が鬱陶しい。それを除けばオマスティアはのどかで静かな場所だ。

 城内を散策していたシオンは、いつか話をした若い侍女がいたので挨拶すると周りにいた同年代の侍女達から「きゃあ」と黄色い悲鳴を上がった。

 漆黒の髪と瞳を持つ長身の剣士はここでも目立っているようで、アリシアの同伴者として入城したのが余計印象づけたらしい。

「シオン様……ですよね?」

 ああ、と答えると彼女達のテンションと声のトーンが一段と高くなった。

「アリシア様を支えて下さい」

「私達、アリシア様の味方ですから」

 侍女達は一礼すると小走りで宮中へ向かっていった。賑やかさが一気に去るとシオンはやれやれと前髪をかき上げた。

 そして、三年経って尚侍女達にも慕われているアリシアに想いを馳せる。

 双子であろうと姉のアリシアが王位を継ぐのが世の常だがそうはならなかった。骨肉の争いを嫌う彼女が権利を放棄したのなら話は別だが、シナリアの姉に対する酷い態度は合点がいかない。真実を本人の口から聞こうとも、肝心のアリシアはエバとやらに呼ばれて未だ会えずじまいだ。


 一通り城内を歩き回りその都度色々な人から声を掛けられて、部屋で寛く頃には夜空に星が輝いていた。それだけオマスティアの城は広大だった。

 見事な満月の光が部屋を照らし始めたのでシオンは窓の外を覗いた。

 アリシアと月見でもするか。

 部屋を出て長い外廊下を一人歩いた。ここにくればアリシアに逢える気がしたからだ。

 何を話そうか。ただ黙って一緒に月を眺めるのもいいだろう。それでアリシアの心が癒されるなら……

 そろそろ、外廊下も終わりにさしかかってきた頃だった。

「アリシア?」

 柱の陰から現れた人物を凝視する。

「どうしたの? こんな所で」

 だが、想い人の声にシオンは答えない。

「シオン!!」

 長いブランデー色の髪を靡かせて抱きついてきたが、彼女の体を引き離すと咎める口調で言った。

「悪いがアリシアを待っているんだ」

「だから、私がアリシ……」

否定しているシオンの目に気付くと、アリシアの姿をした女性はふうと息を吐いた。

「お姉様じゃないってどこで分かったの?」

「簡単なことだ。剣士は締まった体をしているのさ」

 剣士として鍛えているアリシアと上辺だけ取り繕っているシナリアの体とは根本的に違うとシオンなりの皮肉な台詞に激怒した。

「剣士が何よ!! あんな大人しい顔して平気で人を殺している女の方がいいってわけ!?」

「なら、俺も同類だ。二人で地獄へ落ちるのも悪くないな」

シオンが静かに笑った。月明かりでも分かる穏やかで強い瞳に姉への揺るぎない想いを知ったシナリアはますます苛立った。自分はここまで一人の男性に愛されたことがあっただろうか。

 シナリアは唇を強く噛んでシオンを睨みつけると荒々しく足音をたてて暗闇に消えていった。

次話からイルセの武勇伝が語られます。

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