姉と妹 2
決して交わることのない二人の思い。
シオン達が去ると、アリシアとシナリアは向き合った。
「シオンを巻き込むのはやめて」
「恋人がそんなに大事?」
「彼とはそんな関係じゃないわ。だから……」
「相変わらず、人の気持ちを弄ぶのがお上手ね」
聞き捨てならない台詞にアリシアの表情が険しくなった。
「どういう意味?」
すると、シナリアの態度が一転して忌々しく吐き捨てた。
「その気もないのに、笑顔を振りまいて気を持たせるなって言っているのよ!」
妹の憎悪に満ちた瞳に、アリシアは拳を強く握って耐えた。どんな思いで、この地に足を踏み入れたか分かろうとしないシナリアに、一瞬あの忌まわしい感情が甦る。
「私もこんなに早く帰るとは思わなかったわ。あなたのお陰ね」
シナリアの横を通り過ぎる際に耳元で囁いた普段のアリシアらしからぬ皮肉な言葉に、目を吊り上げ怒りに崩れたシナリアの形相はもはや一国の王女のものではなかった。
あれから姉妹は互いを避けるかのように会うことなかった。
シオンとは夕食を一緒にしただけで、少しでも早く三年間の空白を埋めようと自室に閉じこもり各分野の記録を読み漁った。
そして、久々に自分のベッドで朝を迎えたアリシアは課題が山積している現実に気が重かった。
普段、鎧の下に着ている軽装ではなく、派手な装飾がないシンプルなデザインのドレスに着替えて部屋を出ると、鎧を纏った四十代半ばの剣士が待っていた。
「お帰りなさい、アリシア様」
「フェザー殿!!」
銀色の髪に青い瞳を持つ剣士にアリシアの顔が輝く。
彼の名前は、フェザー・タンジェリン。
イルセ、アリシアと親子二代に亘って騎士団長の補佐として公私ともに支えてきた人物である。剣士としても一流で、団の右腕として活躍していたが、三年前、ある出来事により彼の処罰と引き換えにアリシアは国を去った経緯がある。
「よく騎士団を守ってくれました」
「ですが、この有り様をどうお詫びしたらよいか……」
悔しさに声を震わせているフェザーの手にアリシアはそっと自身の手を重ねた。
「私こそあなたに謝らなければならないわ。残された者の屈辱は計り知れないのに、敢えてその道を押しつけてしまうなんて」
恐縮したフェザーが顔を上げると、そこには三年前と変わらぬ美しいアリシアの笑顔があった。
「騎士団の改革も行います。その時はまた私を助けて下さい」
「御意」
ドレスの裾を翻して大理石の床を歩いて行くアリシアは紛れもなくオマスティアの王女なのだとフェザーは感銘を受けた。