本当の気持ち
限界近くまで力を出したせいかシオンの右腕には少し痺れが残った。そんな彼の腕をアリシアが引っ張る。
「ちょっと来て」
「なんだ」
アリシアは、フィリカとガトルを残してシオンを店の外へと連れ出した。
「心配するな。勝ったからってすぐに俺の女になれとは言わないから」
「当然でしょう!? あんな賭けに乗るなんてあなたらしくないわ」
「だったら、何故ブランクルで自らを賭けの対象にした?」
痛いところを突かれてアリシアは言葉に詰まった。
「あれは、人助けで……」
「俺かガトルとやらにお前さんの全てを捧げるんだから似たようなものだろう」
「私の意思はどうなるの!?」
壁に勢いよく両手をつくとアリシアに覆い被さる形となった。
「じゃあ、俺の意思はどうなるんだ?」
彼女の顔を覗き込んだシオンとの距離は互いの息が掛かるほど近い。シオンと壁に挟まれて身動きが取れないアリシアは肩を小さくした。
「シ、シオン……?」
普段は優しく飄々としているが、時折大胆に迫る彼にたじろぐ。
「俺が負けた方がよかったのか」
その台詞にアリシアの頬が赤く染まったのは一瞬、シオンに勝ってほしいと思った自分がいたからだ。
「アリシアは正直だな」
意地悪く笑って体を開けると、解放されたアリシアは大きく息を吐いた。
一方、テーブルへ残されたガトルとフィリカは二人の帰りを待っている間に食事を続けた。
「あの二人どうなっているんだ」
右手にチキン、左手にジョッキと器用に口へ運んで行く様をフィリカが唖然としていると訊いてきた。
「さあ。勝負に負けたんだから気にすることもないでしょう?」
「そりゃそうだが」
「私と出会う前から二人は一緒に旅していたみたいよ」
「ふうん」
と、相槌を打ち改めて正面の彼女を見る。蜂蜜色の髪のツインテール、菫色の大きな瞳は少女の愛らしさを引き出していた。
これまでアリシアにしか目がいかなかったが彼女もなかなかの美貌の持ち主だ。
手を止めてこちらを凝視しているガトルに怪訝な顔をする。
「な、なによ!?」
「お前さん、可愛いな」
フィリカは瞬きを二、三回すると一気に赤面した。
「あんたもシオンと一緒ね!! 誰構わず口説くなんて!!」
「口説いちゃいないし褒めているのに何故怒るんだ?」
正直な感想を述べたのにフィリカに怒鳴られて、釈然としないガトルは眉を寄せて栗色の短髪をかきむしった。