旅は道連れ世は情け 4
賭けに勝ったアリシア達。だけど、シオンに異変が!?
そんなアリシアの心配をよそに、「ここで待っていてくれ」と言い残して人ごみに紛れて行くベストの男を追い掛けた。
一方、ベストの男は路地裏にいた。しかも、先程まで被害者だったあの頬がこけた男も一緒だ。
実はこの二人グルで、ああやって一芝居打ち人の善意を食いものにする輩だったのだ。
「くそっ! もう少しであの女が手に入ったのに!!」
「それにしてもお人好しもいいところだ。とんだ鴨だぜ」
「俺も同感だ。だが、そこがアリシアのいい処でね」
第三者の声が背後から聞こえてきた。
男は首筋に刃物のひんやりとした感触にぎこちなく振り向くと、険しい表情で剣先をこちらに向けている漆黒の髪の剣士にぎょっとした。
「ど、どうしてここに!?」
当初はシオンも二人の関係には気付いていなかったが、時々目配せし合う様子に疑問を持った。二人が騒ぎに乗じて姿を消したので後を追ってきて確信したというわけだ。
「お前達の猿芝居に気付かないとでも思ったのか」
更に詰め寄ると、青ざめてその場に座り込んだ。
「い、命だけは助けてくれ! 金ならやる!」
この期に及んで、己の過ちを反省しない男達が腹立たしかった。
何よりも彼等を一切疑わず、我が身を犠牲にしたアリシアの純粋な心を踏みにじられたようで悔しかった。
「剣士様は丸腰の相手はお斬りにならないですよね……?」
「ああ。けどな、今の俺は酔っているんでね。理性がないかも知れんぞ」
言うが速くシオンが剣を横一線振ると、ベストの男の背中と痩せた男の左頬に赤く深い一筋の傷がついた。その激痛に二人はのたうち回った。
「アリシアは体を賭けた! お前等も己の体で償え!!」
刀傷は深く、一生消えずことある毎に疼くに違いない。だが、このことを知ったらアリシアの心はもっと深く傷つく筈だ。
この程度で済んで有り難く思えよ、と言い捨てて路地裏を去った。
待ち合わせ場所にアリシアが立っていたので片手をあげた。
「用は済んだの?」
「ああ。待たせて済まなかった」
あの二人に対してまだ怒りが治まらないが、結末を悟られないために努めて平常心で接した。
今度こそ、アリシア達は足早に後味の悪い町を馬に乗って走り去った。
二人並んで馬を走らせて湖の畔を通り過ぎようとした時、アリシアがシオンの異変に気付いた。
「顔色が悪いわ。ここで休みましょう」
「酔いが回ってきたようだ。そうさせてもらうよ」
馬を降りるにもおぼつかない動作にアリシアは手を貸した。
あれだけの酒を一気に飲んだのだから、体調を崩さない方がおかしい。
「ごめんなさい。私の為に」
「どうってことないさ。一休みすれば元に戻るよ」
シオンを草むらに寝かせようとした時だった。彼の体重を支えきれず二人はもつれるように倒れた。
シオンの胸に顔をうずめる格好となったアリシアは慌てて離れたが、今の彼は余裕もないのか息が荒く苦しい形相だ。
アリシアはタオルを湖に浸してシオンの額に置いた。
なんだかんだ言って、助けてくれるシオンは優しくて頼もしい。
強引だが時折見せる優しさが温かい彼みたいなタイプは二十三年間身近にいなかったので戸惑いながらも気になる存在だ。
「惚れた」だの「抱きたい」といった公言は差し控えてもらいたいが、己の思いを素直に口にするシオンが羨ましくもある。
ふらついたシオンを抱き止めた際ふっと男性の匂いに異性を意識してしまったことを思い出して顔が上気した。
彼女の気持ちを察したのか爽やかな風が二人の間を駆け抜けた。
そろそろ第二章に入ります。いよいよアリシアの身の上が明らかになります。真実を知ってシオンの想いは……。