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最終二話 裏切った理由は金のため

 商店街でエレーヌと買い物をしている。何故こうなったのか。

 正直わからないが、多分荷物持ちだ。エレーネもマランアも事あるごとに俺を連れ出して荷物もちにする。

 いやさ、俺だって鈍感じゃない。恋愛とかの視線には気づく。街娘っぽい子とか俺を見てるけど、アレは俺に惚れてるはず。

 でもエレーヌとマランアはそういうのない。一切ない。甘い雰囲気になった事が一回もない。


「何を邪な事を考えてるのヤマモト。アタシが可愛いからって犯罪だよ?」

「自覚ある奴って性質悪いよなぁ。……くそ、俺に春よこーい!」

「童貞臭いから無理じゃないかなぁ」


 へいへい。わぁってるよ。くそ、いつか超絶可愛い美少女ととんでもなく可愛い美幼女とかのハーレムを作ってやる。


「つーか、本当に。お前もいい迷惑だよなー」

「いや、構わない。こうした空気は久しぶりだ。……長い戦いだったからな」

「ああ。本当にな」


 二人して店の外でエレーヌが服を見定めるのを眺める。こうして端から見てればアイツも歳相応で可愛いってのに。

 愛想がもう少しでも良くなればいいんだけど、そこは言ってもしゃーないか。


「もうなぁ。マランアなんかどっかに行っちゃうし。どうしてくれるよ」

「そう気にする事でもないだろう。こうして穏やかな一日を過ごす。それこそ最上の幸せなのだからな」

「重さが違うね、流石」


 ぼーっと静かに眺める。数ヶ月前はこうしていることなんて想像していなかったけど。

 いざなってみると心地いいな。しばらくはこうやってゆっくりと骨を休めよう。


「夜は何を食べるか……ヤマモト、危ない!」


 突き飛ばされて後ろを見れば、血が舞っていた。それは、仲間の血。


「何が……! ……何、してんの、何してんのよアンタ!」


 エレーネが歯を食いしばりながら問う。

俺はそれを呆然と見ているだけだ。ヴァラッドルが俺を庇って倒れる瞬間を、五年も共に旅をしていた最強の戦士ウルテが容易く切り捨てた瞬間を。

 倒れるヴァラッドルはすでに虫の息。これじゃ、もう、都合よくマランアが来ない限りは助からない。


「……ふっ。このような所で終わるとは……。ヤマモト……貴様との旅をした日々……中々悪くなかった」

「待て、待てよヴァラッドル! 俺たち、まだ一緒に風呂も覗いて……!」

「いいのだ。それよりも……ウルテに、気をつけ……」


 黒い巨大な腕から、俺を守ってくれていた魔王ヴァラッドルの身体から力が失せて。

 ドスンという音と共に、命が消えたことを実感させた。


「……ウルテ、何でだ。何で、いきなりこんな――!」


 血で身体を濡らして。

 最強の戦士ウルテは、笑う。どうしようもない社会に絶望したような、借金取りに追われて首をつらないといけないような顔で静かに笑った。


「理由、か。……そうだな。お前を倒してこそ最強の戦士になれる。そんな気がした。それだけじゃ、ダメか?」


 浮かべる笑みには強烈な殺意があった。数ヶ月前に魔王と対峙した時と同じような、いやそれ以上に濃密な殺意。

 吐き気がするし、頭もクラクラする。それがウルテの本気を俺に思い知らせる。


「何で。別に、名誉なんて!」

「いいや、大事な事だヤマモト。誰が一番強いのか。それを見なけりゃ、男じゃねぇんだよ」


 鬼気迫るって言うのは、こういう事なんだな。

 旅の途中でウルテと戦った男たちも、こういう顔をしていた。あの三魔将も同じように。

 借金に負われる男もまた、こうして必死な目をしていた。


「……わかった」

「ヤマモト!? ダメよ、私が遠距離から仕留めれば死体も残らないわ!」

「ダメだ。それは凄い魅力的だけど絶対グロいし。それよりも……ヴァラッドルの埋葬を頼む」


 気がつけば周囲に人の気配がなくなっていた。きっとヴァラッドルが死んだ時点で叫び声も上がっていたんだろう。

 それに俺が気づかなかっただけで。


「……魔法の使用は無しだ。それでいい」

「ありがてぇハンデだ。さぁ、殺しあおうぜ、勇者ヤマモト!」


 ウルテが一歩を踏み出し。

 あっという間に距離を詰められる! 流石、最速にして最強の戦士だ!


「不意打ちで最強と認められるもんなのか、ウルテ! そのためにヴァラッドルは犠牲になったんだぞ!」

「アイツが守るって言う確信もあったが、何より。お前と正面からやりあえるとは思ってなかったもんでな!」


 雨のように剣が降り注ぐ。一撃一撃は軽いけど、数が多すぎる。

 嵐を正面から受け止めているようだ。

 これを受けていた敵は賞賛されてもいい。もう少し認め直そう。


「ハァッ!」


 僅かな隙を縫って剣を力任せに振るう。聖剣だからこそ為せる暴挙だ。並みの剣だったら折れていた。


「さっすが、力は化物だなぁ! いいぜ、名誉のために死んでくれ!」

「けど、ウルテ! 俺を殺して最強になってどうするんだ!」


 俺を殺したら、少なくともエレーヌとマランアは俺を殺したウルテを殺すはずだ。

 いや、でもどうだろう。マランアあたりは聖女だし許しそうな気がする。エレーネも服とか飯とか奢れば案外許しそうだ。

 っと。あっぶね、首掠った。


「決まってる。……か……最強である事を誇れる、それ以上の名誉がこの世に存在するのか! ハッ、最強の座に居る男は言うことが違うなぁ!」


 一足で後方へ飛び退いて、ウルガが剣を構えた。

 見た事がある、これは……。

 コイツが誇る最強の剣技『流星剣百裂星』か!

 星が流れるのを見て閃いたという最強の剣技。わかる。剣に闘気が篭るのが。

 冷や汗が流れるのを禁じえない。


「溜めに時間はかかるが、待っててくれるだろ?」


 最大の弱点は溜めが終わるまでの三十秒。微動だにしてはいけないのが欠点だけど、その威力はあの魔王ヴァラッドルの腕すらも切り落とした一撃だ。

 それを破るのはおそらく、俺でも不可能。だから、笑い、頷く。


「ああ。待ってやる。それでこそ、勇者だ」


 聖剣を構える。狙うはカウンター。

 それしかコイツに勝つ方法はない。


「流石だぜ、勇者――死んでも恨むなよ!」


 星が、見えた。

 キンッ、という音と共に剣が折れて空を舞う。

 流石だ。すげぇよウルテ。


「……ハッ。俺ぁ、最強に近い男だ」


 自画自賛も許される。何せ、俺の聖剣を折ったんだから。


「何か、残す言葉は?」


 折れた聖剣はそれでも役目を果たした。刃の半ばから先は空を舞ったけど柄から先はウルテの胸を貫く。

 代わりに俺も腕が折れたけど安い代償、か。


「……アイツに、愛していると。それとすまなかったって伝えてくれ。バカな男で、よ」


 静かな笑みと共に、ウルテの身体から力が抜けて死んだのだと言うことを実感させる。

 五年も共にいて、俺はコイツの何を知っていたというのか。


「ヤマモト様!」

「……マランア……。ウルテが」

「……わかっています。だから、行きましょう」


 行く? 行くって。ウルテが死んだって言うのに、一体何処に。


「こうなった原因は、金貸王キン・カーンの仕業なのです!」



次回予告


 風俗にはまったウルテが金を借りた相手、金貸王キン・カーンはなんとまさかの魔物だった! すでに魔王も退治されたはずの世界に何故魔物が!

 疑問に答える声は意外なところから現れる。

「魔界百二十八星の仕業だろうな……」

 呟いたヴァラッドルの言葉に勇者ヤマモトは頷き、ウルテ、エレーネ、マランアの四人に言う。

「行こう皆。次は温泉だ!」

 次回最終話『温泉から始まる世界滅亡』

 その温泉に待つのは宇宙破壊爆弾。


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