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最終一話 勇者ヤマモトVS魔王ヴァラッドル!

初めましての方は初めまして。開いてくださりありがとうございます。

「ここが、魔王の居る部屋……!」


 異世界に召喚されてから、凡そ五年。十七歳だった俺ももう二十ニだ。

「ようやくだな。……長い旅だったぜ」


 最初から同じパーティーの男、顔に斜めの傷がある最強の戦士ウルテが出した感慨深い声に頷く。声には故郷を思う顔に合わない甘さが見え隠れしている。

 当時二十七だったこいつも最近はちょっと歳を食ったとぼやいていた。故郷に許婚が待っているから、無事に魔王を倒せたら結婚だろう。


「あの時、ヤマモト様に会ってから二年。長く苦しい道のりでした」


 最初にパーティーに居た神官は王子の心を射止めて途中で脱落となった。

 代わりに入ったのが聖女と呼ばれる若干十五歳の少女マランア。今は十七歳になり、幼さが残っていた風貌も随分と変わった。

 世間の辛さと厳しさを知った聖女は、より一層気高くなった。その証拠に、今も厳しい目で扉の向こうを見ている。想うのはきっと魔王の手で殺された人々だろう。


「あたし、無事に家に帰ったらママにありがとうって言うんだ」

「おいやめろそれ死亡フラグだ」


 てへ、と擬音でもつきそうな表情で舌を出したのは小柄な賢者。七歳で魔法使いと呼ばれた少女。冒険の途中でギックリ腰のため旅が不可能になった大魔導士オルヴァーヌの代わりに入ったエレーヌ。

 旅の最中、三魔将を打ち破る際に編み出した魔法により史上最年少の賢者と呼ばれるようになった少女だ。


「死亡フラグ、結構じゃねぇか。俺らが向かうのは、あの魔王なんだぜ?」

「神のご加護があります。言うなればそう……散っていったクマルナ様とオルヴェーヌ様の加護が」

「師匠もあの生臭婆も死んでないってば! 聖女さんはなんかいつも適当だよね」


 三人とも凄いな。俺なんかビビりまくりだっていうのに。手だって震えそうだし、気を抜けば歯の音も合わなくなる。

 扉の奥から聞こえる音も、魔王城に漂う瘴気も。俺の光魔法による緩和がなければもう命がない状態だ。

 相手が今までに類を見ないほどの強敵だって言うことが肌が痛いほどにわかる。


「ヤマモト。責任は重いが、そう気負うなよ。俺が付いてるんだぜ? あの三魔将随一の剣士『楼閣』のダーヌキとやりあったこの俺が」

「そうですとも。そこの小さい賢者も魔力は随一です。それにヤマモト様も、貴方の力は本物です」


 ……そう、だよな。ああ。そうだ。

 振り向けば三人の仲間は俺を信頼した視線で見つめてくる。皆、俺と同じ気持ちなのは顔を見ればわかる。

 長い付き合いだ。それでも表に出さないのは、俺を信じてくれているから。


「さぁ。扉を開けてよヤマモト。私の火力、バカ戦士の手数、アホ聖女の回復力。そしてヤマモトの万能さがあればほとんど楽勝だからさ」


 頷く。そうだとも。俺たちは、負けない。

 背負う奴らのためにも。散っていった奴らのためにも。


「魔王、貴様を討ち取りに来たぞ!」


 扉に伝説の聖剣を叩きつけて斬り開ければ暗黒の瘴気が漏れ出ると同時に強烈な殺意。五年前の俺だったらこの殺意だけで死んでいた。


「よくぞ来た、勇者よ」


 冥府の底から響くような低い声。

 開けた先の広間はどこの王宮かと見紛う程に華美なものだ。

 けれど、空気は今まで立ち寄った王宮の比ではなく重く、苦しい。今にもこの空気が自分たちを殺してしまいそうな恐怖。


「――よくぞ来た、勇者よ」


 再度、魔王は言い放ち迫る殺気が俺の身体が震える。

 内に生まれた怯懦は、隣に立ってくれている仲間が居るから振り払える。


「魔王! 貴様に滅ぼされし国と貴様に殺されし万の民らの無念を雪ぎに来たぞ!」


 聖剣を振りぬけば輝きが広間に漂う瘴気を全て吹き飛ばす。

 晴れた広間の先に見えるは、魔王。

 黒い身体は鉄で作られているかのように黒く、十メートルに届くほどに大きい。

 腕による一撃が直撃すれば並の人間では粉砕し、左手に持つ人間の苦悶から作られたといわれる魔王の剣が振るわれれば大気が逃避する。

 最強の魔族にして人類の天敵。そして、俺の倒すべき敵だ。


「我は魔王、ヴァラッドル! 勇者よ。我の手駒となるならば世界の半分をくれてやろう」


 古今東西あらゆる魔王が口にする常套句。それは自信の表れだ。

 勇者という存在が敵でないならばすぐさま世界を手中に収められるという絶対的な自信。

 けどつまりそれは。


「俺が居ないと世界も取れないようならお前の味方はしたくない」


 あえて笑う。怯える理由はある。恐れる理由もある。

 けど、それらは逃げる理由にならない。


「エレーヌ! 

「ファイアスコール!」


 賢者エレーヌへと叫ぶと同時に戦士ウルテと一緒に走る。それが開戦の合図となった。






 聖剣と魔王の持つ魔剣が互いにへし折れ、後は拳での殴り合いとなる。

 地力で不利なのはわかっていた。けれど、だけど。


「――ッ!」

「この程度か、勇者よ!」


 魔王が切り落とされた片腕を忘れたように腕を振るう。ウルテの一撃によって落とされた腕だ。切り落とした本人は俺の後ろで虫の息。


「セブンスウォール!」


 エレーネが叫べば七色の光が生まれて、一瞬の内にそれは消え去る。

 対象だけを滅ぼす虹の魔法。賢者と呼ばれるようになった所以だ。渾身の魔力を振り絞ったそれも。


「流石は人界の魔人と呼ばれる女だ。この俺の皮膚を全て焼くか」


 魔力が尽きて倒れるエレーネへと振り返る時間すら惜しい!


「マランア! 援護を!」

「はい! 癒し、救え、ヒール!」


 俺が立ってられるのはマランアの回復魔法と援護魔法があるからだ。なかったら、きっともう立ってられなかった。

 周囲にある瓦礫のように粉砕されていたはずだ。


「四人で俺と同等か」

「落胆したか!」


 魔王に拳を放つ。さっきまでと違って通る感触があった。いける、これなら、このままいけば魔王を倒せる!


「いいや。魔界でも居なかったな。クク、いいぞ。このために人間共を殺した甲斐があった!」

「貴様!」


 そんな、己が楽しみたいだけのためにこいつはあんな虐殺を引き起こしたっていうのか!

 許せない。そして許されないことだ!


「いい怒りの拳だ。ははは……。いいなぁ。楽しいなぁ。なればこそ、俺の真の力を見せてやるときが来たようだ!」


 魔王が片足を地面へと突き刺すようにすれば、城が揺れる。

 まさか、嘘だろ。この状態から第二形態があるっていうのか!


「この魔力は……!」

「くっ……!」


 ドス黒い瘴気が魔王の身体から噴出して、身体が変化する。

 腕は膨れ上がり、爪が生える。

 鉄のようだった皮膚は、まるで鋼のように光沢を持ち。

 膨れ上がった身体は俺を一呑みできそうな程。

 生えた尻尾は厚く、揃う牙は俺を噛み殺すのに足るものだ。


「……ドラゴンって、正気かよ」

「そんな」


 歯を噛み締める。第二形態とか、最近は流行らないってのに。くそ、この状況で一体どうすればいい。

 考えろ。聖剣はない、二人も倒れている。

 後ろのマランアも怖気づいた気配がする。きっと顔には絶望が浮かんでいるはずだ。

なら、でも、俺は。


「いい趣味だけど知ってるか、魔王。変身した敵は、大体負けるんだ」


 虚勢でも何でも張ってみせる。それが出来てこそ勇者で、勇者はそういうものだ。

 五年で学んだ唯一のこと。

 どんなに怖くても、どんなに逃げたくても。勇者は逃げちゃいけない。

 希望だから、絶望に立ち向かっていないとダメなんだ。


「ククク。流石勇者と褒めておこう。我の腕にて永遠の死を受け取れ!」


 振り下ろされる竜の巨大な腕。それを、正面から受け止める。

 重いッ。骨が軋みを挙げて内臓まで響く。


「諦めろ、そして死ね勇者よ!」


 深く息を吸うのは灼熱のブレスが来る前兆。咄嗟に光魔法で防御の膜を張るがきっと吹き飛ばされてしまう。

 わかってる、けど、これ以上は!


「フッ。まさか負けるつもりか、勇者よ!」


 背後から声がする。それは――




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次回予告


 かつて戦った偽勇者や、引退したはずの大魔導士、また別れた仲間たち。

 その数およそ三万。

 数の力とみんなの信じる力で魔王を圧倒した勇者たちは凱旋する。

 そして魔王との戦いから数ヶ月。

 まさかの男が裏切りを果たす。それは金のためか、愛のためか。

 次回最終話『戦士ウルテ驚愕の裏切り。全てはアレがいけなかった』

 果たして、裏切り者は誰だ。


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