フリーターと真夏日(日常編II)
僕は炎天下の道を会社に向かって歩いていた。まだ午前中だというのに太陽は容赦なく僕に降り注ぐ。茹だるような、溶けてしまいそうな暑さで僕は汗だくだった。全く、夏なんて迷惑な季節いらないのに……とそんなことを考えていても暑さは消えないわけで。僕は自分の髪をワシャワシャと掻きながらとにかく会社までの道のりを歩いた。わずか15分程度だが、夏場はほんとうに拷問である。
会社に着き中に入ると体中に冷房の恩恵をうける。この瞬間が日常の中で一番の幸せかもしれない。
社内は中央付近にデスクが4台あり、部屋に入って左側の壁沿いにプリンタ、スキャナなどが並んでいる。窓際に社長席があり、そのうしろのブラインドは常に下りている。そんな様子の、特に飾り気もない殺風景なオフィスである。
「よぉ、コウイチ!今日もお勤めごくろうさん!」
ニヤニヤしながら大きな声で僕に話しかけてくるのは、ここの代表者で僕をここに雇ってくれた男。
彼は梅田雄次。23歳童貞。身長が高く、かなりガッチリした体格の男だ。彼は僕の兄の同級生だった。兄と仲が良く、僕も一緒に遊ぶことがあり、だんだん彼と親しくなっていった。今も彼とは親しくやっており、人手が足りず困っていたとき、僕に白羽の矢が立ち、彼の会社で手伝いをしているというわけだ。
「朝から元気ですね、ユウジさんは。こっちは暑さで死にそうですよ。」
「まぁまぁ、ここは冷房入ってるんだしいいじゃねぇか。」
そんな会話を交わしながら僕は自分のデスクについた。時計と一台のパソコンが置いてあるだけのさびしい机で、ここに座るとなんだか憂鬱な感じがしてしまう。ただ、極度の面倒くさがりの僕には、家からインテリアを持ってきてデスクに置くなんてことも億劫なわけで、憂鬱になりながらも黙々と仕事をこなすのが日課だった。
「ところでよぉ、コウイチ、お前さっきのニュース見たか?」
「ニュース?何のですか?」
「世紀の大発明のことだよ!」
ユウジはそのニュースがよほど衝撃的だったのか、いつもにもまして大きな声で、興奮した様子で話している。一方の僕は会社までの道のりで死にそうだった。
「そんなニュースなら…そういえば見た気がしますね………暑くて暑くてそのことで頭がいっぱいでニュースのことなんてほとんど覚えてませんけど………」
僕は机に突っ伏して顔だけをユウジさんの方に向けてそう言った。
「なんだ見てねぇのかコウイチ…なんでもな、その世紀の発明とやらはな、脳みそに含まれるなんとか細胞とやらを使って、死んだ人間を、生きていた時の記憶を保ったままパソコンの中に取り込むことができるらしい。」
「え!?いったいそれってどんな原理なんですか?」
正直かなり驚く話だ。現代科学の力は偉大だと思うが、こんなSFじみたことが本当に実現してしまうというのだろうか…
「詳しい原理だとかはオレもしらねぇよ。ただそういうものができたとだけニュースではいってたな。それから今は何でも本当にシステムが安全かどうかのテスト中らしくてな。今月いっぱいはどこぞで死んじまった不幸な奴を集めて例のシステムにぶち込んで動作確認をするんだとよ。」
「へぇ、すごく興味ありますねそういうの!死にたくないので勘弁してほしいですけど。」
そんな会話をしていると始業の時間になった。僕はユウジさんとの会話を切り上げてパソコンのディスプレイとにらめっこを始めるのだった。