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先人の遺産

森林国はユーガラテス大陸の西部から中央部にかけて広がる大森林帯を国土とする国である。一般の人は森林国という名前と精霊族の幻想的な雰囲気から森林そのものに住んでいると思われがちだが実際には半地下、地面を掘り下げた窪地に町を造りそこで生活していた。精霊族、特に森林国で多いのは耳が尖っているエルフと呼ばれる種族である。長寿で外見上の歳はほとんどとらない。さすがに子供と大人の区別はつくが20歳と90歳の違いは少なくとも外見的特徴では分らない。しかし、エルフにも寿命があり、すでに始祖精霊と呼ばれる第一世代のエルフはすべて死に絶え長老と呼ばれる者も第五世代にはいる者たちばかりだ。また始祖精霊に関する文書は極端に少なく知的好奇心を刺激されるエルフは多く、彼らは自分たちを 観察者 とよび、彼らが研究成果や情報を共有する互助組織 真実の目 を結成、各地に支部を設けるまでになっていた。

森林国南部 に一人の観察者がいた。名前はアンリ、第六世代のエルフである。彼女は半生を始祖精霊の研究に費やしていた生粋の観察者であった。特に彼女は森林国南部にある遺跡、通称 カッシードの砦 研究の第一人者であった。彼女はこの遺跡が始祖精霊の最初期の建造物の一つだと確信していた。だが、彼女は確信を持ちながらも合理的な説明がつかないことにいら立っていた。

「ああもう、また~」

彼女の行く手には垂直の通路がまるで彼女の進入を拒むかのようにそびえたっている。

「ロープは・・・・・もうないか、他に道具は・・・・・・」

彼女はロングブーツに肌に密着する薄手のインナーにマントをはおったような格好をしていた。ぱっと見、特に道具らしきものは見えないが、どこからともなく次々とハンマーや小刀、着火剤や針や糸などが次々と出てきた

「やっぱりつかえそうなのはないわね」

そう言うとゆっくりと右手の中指に着けた指輪を口元に持っていくと何やら聞きなれない言葉を小声で語りだした。

「αδω・・・・・・・・オン」

すると指輪が輝きだし周囲に複雑な図形と文言が映し出された。そしてそれらが足元まで下がっていくと今度はアンリの体が浮きだした。垂直の通路を進んでいくアンリ。10mほど上がったところに再び横に広がる通路が現れた。

(とりあえずここまででいいわね)

そう考えると口元から指輪を離す。すると輝きは消え、同時に周囲に展開していた魔法陣も姿を消した。再び二本の足で歩き始めたアンリは2,3回のカーブと壊れて開きっぱなしの扉をくぐり、50mほど進んだ。そして発見する。

「これ、は・・・」

遺体である。それも何百という数だ。そのすべてがエルフ族の特徴である先端がとがった長耳をしている。

「一体、なにが・・・・・」

茫然とするアンリ、答えてくれるものはもちろんいない。


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