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カライド大橋の攻防

遅くなりました。

帝国暦295年2月7日


予定より2日多くかかってついにモルケ男爵率いる神聖ヴェール帝国軍2万はついに目的のコロイドわずか4キロ地点、コロイド川付近に展開していた。目的はコロイド川にかかるカライド大橋を占拠するためだ。

しかし、そこには予定にない部隊が展開を終えていた。

皇女軍機動部隊4000である。


「モルケ様どうしましょう!?」

部下の騎士の一人が動揺した声を上げた。

「うろたえるな!予定通りにいくものではない!!どちらにしろここを突破しなければ我々に後はない!」

すでに携帯していた物資はかなり消耗していた。別ルートに転身するにしても後退して態勢を整えるにしても十分な物資ではない。しかし、このコロイド川を突破すれば後に有力な防衛施設はない。コロイドの街の城壁の一部は街の拡張のため取り壊されていたからだ。

「ここだ!ここさえ突破すれば我らには栄光が待っている!!」

モルケ男爵はそう叫ぶと抜刀し、よく通る太い声で叫んだ。

「突撃!!!!」

「「「「「「をおおおおおお!!!」」」」」

こうしてヴェール帝国史上でも名勝負と名高い『カライド橋の戦い』が開始された。



「・・・思ったより早かったな・・・」

カライド橋が見渡せる丘の上でヒエンはつぶやいた。彼ら皇女軍はわずか一週間で道のりにして200キロの踏破に成功し、神聖ヴェール帝国軍の先回りに成功したのだ。この時代でこのスピードは驚異的だ。

「相手は徒歩といっても最短コースだったからね。でも精鋭部隊2万だよ。楽に勝てる相手じゃないわよ」

最近、すっかり参謀役が板についてきたアンリが対岸に大きく広がる2万の大軍を見渡しながらそんなことを言った。

「ああ・・」

しかし、ヒエンの顔には初陣の時にあった焦りの色はなく、落ち着いた心持で2万の大軍を眺めていた。



「さすがに硬いな・・・」

モルケ男爵は皇女軍の想像以上の堅い守りに驚いていた。馬車や障害物、柵などを利用した即興の防壁、練度の高い弓兵、軽装歩兵は脅威度としては低いものの彼らの持つ斧槍(ハルバート)が意外と有用な兵器であることを証明していた。

ハルバートは2メートル程度と非常に短い槍であった。これは馬車での移動を考えたとき、長槍は長すぎて移動に向かず、さらに城壁や市街地での戦闘を考え、取り回しがきき、多彩な攻撃が可能な斧槍に歩兵主力兵器の白羽の矢が立ったのだ。

集団戦には向かないもののこういった防衛戦では想像以上に効果的だ。

「閣下。どうされます?このままでは損害もバカになりません」

傍らにいた兵士の一人がそう尋ねてきた。すでに突撃を開始してからすでに2時間経過しているが、突破できそうな気配はなく、いたずらに物資と時間を浪費していた。

(確かにこのままではまずいな・・)

モルケ男爵はその圧倒的兵力差を利用して強行突破を狙っていた。しかし、皇女軍は兵力差にひるむことなく持ちこたえ、逆撃にさえ成功していた。

「・・・やむえんな・・全軍、後退するぞ!」

「え!しかし、相手は少数ですぞ」

「構わん!一度、後退する」


帝国暦295年2月8日、神聖ヴェール帝国軍はその姿を消した。



帝国暦295年2月10日


「第一小隊は上流を、第三小隊は下流に向かえ!第二小隊はコロイドに警戒をするように伝えてくれ!」

「「「はっ!!」」」

姿を消した神聖ヴェール帝国軍を求め、ヒエンは各地に部隊を展開させていた。しかし、未だ発見できていない。このカライド大橋以外の橋は木製の橋で、すでに帝国、皇女軍の手によって破壊されていた。2万という大軍を効率よく移動させるには橋は不可欠なのだ。

「ここに来るはずなんだけどね・・・神聖ヴェール帝国軍は何を考えているんだか・・」

すでに神聖ヴェール帝国軍が姿を消してすでに2日が経過している。未だに発見の報告はない。

ヒエンはリスクの高い対岸への偵察部隊の派遣を真剣に検討していたその時、

「ヒエン!あれ!!」

アンリの言葉で現実に引き戻されたヒエンの目に飛び込んできたのは数メートルの高さのある木製の兵器だった。

「!!そう来たか!!」

ヒエンはそう叫ぶと全部隊に散開するように命令を下した。



「撃って!撃って撃って撃ちまくれ!!!」

神聖ヴェール帝国軍が後方に下がったのはこれを用意するためであった。それは全長3m強の木製の兵器で実に数百m先まで重さ数十キロの岩を打ち込むことができる投石機と呼ばれる兵器であった。それを実に5台も制作していたのだ。

一度に百数十キロもの岩塊が容赦なく皇女軍陣地を破壊してゆく。主に木材で作られた陣地ということもあるが、もっと大きい原因は皇女軍陣地が急造されたものである点だ。とはいえ、簡単に落ちないと判断するなり、急造陣地に攻城兵器を素早く導入したモルケ男爵が決断力にとんだ指揮官であることは事実であろう。

「このまま打ち続けろ!!あれを破壊してから突撃する!!」

「「「おおおう!!!」」」

不利な状況から一転、好転して戦場で神聖ヴェール帝国軍の士気はいやがおうにも上がる。

岩塊が飛び去るたびに確実に相手の強固だった陣地が崩壊してゆくのだ。それは当然の反応だろう。しかし、皇女軍もまた、ただやられていたわけではなかった。




「中央正面を優先しろ!!」

ヒエンたちは前面にわずか数百名の弓兵、歩兵を分散して置いて残りの大部分は投石機の射程外へと避難していた。陣地そのものを目隠しにして後方に下がること成功していたのだ。残った兵たちは寡兵であることがばれないよう箒を使って土煙を上げさせ、軍旗を右へ左へと移動させていた。彼らは数時間おきに交替し、疲労しないように努めていた。

「今は我慢だ。いずれ奴らは突撃してくる。それまでは我慢だ」

ヒエンは被害を最小に押しととめながら、必ず来る反撃の機会までその牙をひたすら研ぎ続けるのであった。


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