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戦いは終わり、新たな開幕のベルは鳴る

(何あの爆発!?)

ヒエンは自身が起こしたのであろう爆発を騎乗で見て驚いていた。当初の予定でも高濃度アルコールの酒に引火させて陣形を崩すことを目的にしており、爆発は純然たる事故だったのだ。

まあ、結果的に当初の予定より早く敵を後退させられたことは大きく、ヒエンも結果オーライと受け止めていた。

しかし、事故の結果は深刻な事態を引き起こしていた。現状|(ヒエンや指揮官も正確には知らないが)すでに聖十字騎士団は戦力を2400程度にまで減少しており、しかも聖遺物であるオリジナル聖書も喪失。聖十字騎士団は追い詰められていたのだ。一方、ヒエンはそれほどの被害が出ているとは分らず、しばらくはにらみ合い、もしくは撤退するのではないかと楽観していた。それは油断というのは酷だろう。この時代、というか多くの戦場では手痛い歓迎をうけてそれでもすぐに反撃に出ることは稀だ。しかも聖十字騎士団は戦力的に劣勢を強いられているのだ。この状況で備えはしても用心以上のことはそうできるものではない。なぜこんなことを書いてあるかというと、それは


帝国暦294年7月11日 明け方前


聖十字騎士団による夜襲である。

もちろんリンドブルム方も用心(・・)はしていた。具体的には通常以上の見張り役をたたせていた。しかし、どこか油断があったのだろう。通常よりかなり近距離で発見、警鐘をならした。

ものの数分で迎撃態勢を整え始める。しかし

『ガリ』

岩を削る音が聞こえたかと思うと、そこには数本の梯子が城壁にかかっていた。

「「「をおおおおおおお!!」」」

鬨の声をあげて突撃する聖十字騎士団。

「「「押し返せ!!」」」

反撃するリンドブルム守備隊。薄暗い中、狭い城壁の上では一進一退の攻防が繰り広げられていた。



やっと空が明るくなり始めた頃、戦況はややリンドブルム守備隊が有利に思えた。数本かかっているとはいえ、城壁上に上ってくる聖十字騎士の数は非常に少なかったし、なにより、リンドブルム守備隊の士気が高かったためだ。

ヒエンは当初、さすがに斬り合いともなればリンドブルム守備隊の士気は上がらないと見ていたが、好ましいことに最初の攻撃で聖十字騎士団は決して神の軍隊ではないことが分り、常日頃からラーム神聖国教会関係者が神の名の下に行っていた数々の悪口がここにきて爆発したのであった。(例えば、リンドブルムの教会に保管されていた聖遺物を一方的に取り上げられる。寄進された財物の横領、寄進の強制、さらにはリンドブルムが誇った大聖堂の装飾品の強奪さえ行っていた)

結果、まさかのリンドブルム有利ではあったが、ヒエンはこのままのはずはないと直感していた。



『ドゴン!!!!』『バキバキッ』

突然、城門から強力な打撃音とそれに耐えかねている門扉からの破滅的な断裂音が響き渡った。

「やはりか!」

ヒエンは叫ぶなり、城壁から屋根伝いに飛び降りていた。(城壁の内側は城壁ギリギリまで家が建っているので)

すでに城門の前には十数人の兵士が丸太などを持って門扉を支え、さらに十数人が槍や弓などを構え突入に備えていた。

『バリバキバリバリッ』

門扉の木材が最後の抵抗を終えると扉はそれを支えていた十数人の兵士とともに吹っ飛んだ。

「グロロロロロロロ!!」

そして現れてのは数日前死闘を繰り広げた化け物、ムーンソルジャだった。

「って、まだいたのかよ!!」

見渡すとすでに兵士たちが決死の反撃を行っていた。

「この!化け物が!!」「この聖地を何だと思って居やがる!!」

そう叫びながら槍や剣を振り回し、何本もの矢が宙を舞った。しかし、そのことごとくを黒い体毛がはじく。さらに

「突撃!!」

城門が破壊されてのを見て数十人の聖十字騎士が突撃してきた。たちまち辺りは混戦となる。ムーンソルジャは数人の兵士と対峙したが、精鋭数十人分といわれる戦力はほんの僅かな抵抗では足止めにもならなかった。

「グロロロロロロ!!」

血糊の付いた戦斧を掲げながらさらに血潮を求めて一歩踏み出す。ちょうどその瞬間、

『ザシュッ!!』

「ゴロルロロロロ!!!!!!」

ムーンソルジャは首から槍の穂先をきらめかせた。

「悪いな!お前と正々堂々なんてやってられんのでな!」

返り血を浴びたヒエンが首の後ろから飛び降りる。ヒエンは数人の兵士を犠牲に屋根上からの奇襲を成功させたのだ。

「ゴロオロロロロロ!!!!」

瀕死の重傷であるはずのムーンソルジャはそれでも瞳に戦意をたぎらせていたが、緩慢な攻撃は3分間の超常状態(ウルトラタイマー)をすでに発現させたヒエンにかすることもできなかった。

「止め!!」

「ゴオオオオオ!!」

ヒエンは未だにムーンソルジャに刺さっている槍に手を置くと梃子の原理を利用して食道を、気管を、動脈を、そして最後に延髄を切り裂いた。さすがに首を落とすことはできなかったがムーンソルジャの瞳から命の炎をけすことには成功していた。

「「「「をおおおおおお!!!」」」」

敵の進入を許したリンドブルム守備兵から鬨の声が上がる。おされぎみだった戦線も徐々に膠着へと変わっていく。

「さあ、敵を押し返すぞ!!」

大量の血糊を付けたままヒエンは聖十字騎士に襲いかかる。

「ひ、ひいいいい!!」

一歩、ヒエンが踏み出すたびに進入した聖十字騎士が一歩下がる。そして駆けだすと

「に、逃げろ!!」

騎士は敵に背を向けて逃げ出した。結果論ではあるが、もしここで聖十字騎士が踏ん張って戦い抜いたらヒエンを打ち取ることもできたかもしれない。事実、ウルトラタイマーはその効力を失っている。制限時間が来たのではない。彼の発現した特殊能力はムーンソルジャのような古代兵器、もしくはそれに匹敵する脅威がないと発現しないものだったからだ。

制限時間前に能力の発動が終わったため比較的余力が残っていたものの、あと数人の精鋭を相手にすることは厳しかったのだ。

そのことはヒエン自身が良く解っており、内心

(張ったりってきくな・・・)

と、しみじみ思っていたのであった。



帝国暦294年7月14日


リンドブルム攻略開始から3日が経過していた。城門や城壁の一部は崩壊し、すでに聖十字騎士団の占拠下にあった。しかし、リンドブルム守備隊は想像以上に頑強な抵抗をしており、市街地の一部を陣地を形成し、未だ抵抗をあきらめていなかった。(市民や聖職者の一部は聖十字騎士団が来襲する前に脱出していた)

「落とせ!落とすのだ!!」

聖十字騎士団指揮官は焦っていた。リンドブルムの抵抗が予想以上であったことと、すでに同行していた神兵2人が全滅していたからだ。

これほどの被害を出して街の一つ落とせないものならば、本国に帰ってからの彼の居場所はない。そうした感情が視野狭窄を引き起こし、すでに彼の頭にはリンドブルムを制圧することしか頭になかった。市街地の一部を占拠したことも大きいのだろうが。

「!!閣下!!南から狼煙です!」

「なに!!」

見上げると南から狼煙が上がっている。

「ふ、恐れるな!!あれは偽兵だ!!」

すぐさま判断を下す指揮官。侵攻前の情報ではこの方面には予備兵力はないことを知っていたためだ。しかし、指揮官は南には初戦で当たった遊撃兵力1800が展開していることを知らなかった。だが、この程度ならばまだ対応のしようがあった。だが、次の瞬間

「き、北からも狼煙です!!」

「馬鹿な!!」

こうして一気に戦闘は終局を迎えた。


すでに全面攻勢に出ていた聖十字騎士団は、すぐに陣形を立て直すことも撤退することもできないまま、北から10000の皇女軍本隊、南からアッツから部隊を補充した2000の皇女軍遊撃隊がリンドブルムを完全に包囲、内部に残存している600と共にすでに2200まで兵力を減らしていた聖十字騎士団と戦闘を開始した。圧倒的兵力差と完全な包囲下にあったため、流石の聖十字騎士団も半日も持たず壊滅。指揮官以下数十名の捕虜を得、ここにラーム神聖国による皇女領侵攻は終結した。


帝国暦294年8月12日 ラーム神聖国


この日、ラーム神聖国が誇る大聖堂は狂乱に満ちていた。

「誤報ではないのか?」

「3000もの我が騎士団が壊滅したというのか!!バカな!ありえん!!」

「聖地侵攻だと!恥知らずが!!教会をなんだと思っているのか」

口々に叫ぶ出兵反対派。しかし、その眼はこの事態をうれいている者はいない。相手を引き落とし、既得権益をこちら側へより多く引き込もうという聖職者にあるまじき目だった。

「しかし、現実問題としてこの始末をどうつけるのか頭の痛い話じゃの」

大聖堂の中で長老格とみられる枢機卿はぼそりとつぶやくように言った。それは決して大きな声ではなかったが、不思議としみいるように各員の耳に響いた。

「・・・そうですな。まずはそこを決めねばなりますまい」

「やはり、誰かひとり、退任していただく方がいいのでは?」

そういうとその場にいた全員の視線が一点に集まる。それは華麗な勝利を約束した枢機卿であった。彼は身を震わせると

「あなたも!あなたも!!賛成したではないか!!」

と、声高く叫んだが

「後任は誰がよいですかな?」

「レンド商国の大司教はどうですかな?」

「いやいや、あと5年育ててカウドラ王国の大司祭がいいのでは」

と、誰も相手にせず、こうして彼のキャリアは終わった。



後日、聖十字騎士団の派遣はラーム神聖国の一部勢力の独断とされ、関係者の処罰が発表された。しかし、謝罪や補償などは一切なかった。



帝国暦294年9月10日 ヴェール帝国 帝都


「神の軍隊とやらも存外情けない物ね」

そうつぶやいたのはアティナ第一皇女である。彼女は心底、残念そうに眉を顰め、温かい湯気を出している紅茶を飲み干した。

「はっ、しかし、このような状況で藪をつついたラーム神聖国の上層部こそ責めるべきです。聖十字騎士団が精兵だったことは疑いないのですが・・・」

そう答えたのは新たに彼女が起こした親衛隊の隊員である。親衛隊は宰相府、騎士団、さらには近衛兵からこれぞという人材をかき集めて作られた彼女直轄の武装組織だ。

「そうなのかもね・・・貴族連合軍の戦いはどうだったかしら?」

「やはり連携に大きな問題があります。個々には武勇を誇る部隊もあったのですか・・・」

「帝国軍の正規部隊と比べるとどうかしら?」

「圧倒的に帝国軍だと。ロゼッタ様の皇女軍の方がまだ強いというのが親衛隊の結論です」

「・・・わかったわ・・そろそろあれに役立ってもらいましょうか」

「・・・・はっ!ただちに!!」


・・・何とか投稿。拙文ですが温かい目でお願いします^^;

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