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リンドブルム攻略作戦

「あれがリンドブルムか・・・・思ったよりさびれた街だな・・」

聖十字騎士団の指揮官はほんのわずかだが眉をひそめた。しかし、決してリンドブルムがさびれているわけではない。彼の知る聖地は華美で大きな建物が建っており、一目見てそれが特別な場所とわかるようになっている場合がほとんどだったからだ。実際は決して華美ではないものの綺麗に清掃された古い教会が林立するなかなか趣深い街だ。人口も2万人が生活しており、辺鄙な土地にしてはなかなか立派な規模なのだ。

「しかし、聖地です。下手に力ずくで落とすわけにはいきません」

「分かっておる。予定通り横陣を取れ。あれの用意はできているか?」

幕僚の苦言をあっさりと聞き流しながらしきりに段取りを確認する。彼も多少、聖地を責めることに抵抗があるらしかった。

「・・・ほんとうにあれを使うのですか?」

「あれこそ、我々が神の軍隊だと印象づけるのだ!!」

「しかし!」

「これしか、我らが街を落とすことはできない・・しかし、そのことが我らが神に愛された軍であることが証明するのだ」

確かに彼らは追い詰められている。事実上、負けはしなかったもののその被害は多い。多すぎるのだ。彼らがラーム神聖国から受けたのは華麗な勝利そのものなのだ。このことが彼らから撤退や後退を決断しにくくしている。

「手筈通り行うぞ」

「はっ!陣形を整えろ!リンドブルムの解放作戦を開始する!!」



リンドブルムの城壁上には複数の影があった。それはここにいないはずのヒエンたちであった。彼らはアッツに到着するなり街の3頭ずつ軍馬を徴用し、全力で走りつづけ馬が疲れるとすぐさま乗り換え、わずか半日足らずで到着し、先行していた聖十字騎士団より1日半も早く到着することができたのだ。

「なるほど・・・確かにこの方法ならこの街は落ちかねなかったな」

ヒエンはリンドブルムの城壁の上から聖十字騎士団の行軍光景に思わず舌を巻いた。

リンドブルム解放作戦 それは矢の一本も飛んでこず、剣戟の音一つ聞こえない。代わりに聞こえてくるのはまさかの讃美歌。男声合唱団のような、なかなか渋い声。攻め込んでくると知らなければヒエンでさえ、わからなかったかもしれない。しかも一応聖十字騎士団員は修道士であり、敬虔な信徒の多いリンドブルムでは攻撃することをためらうものも多いだろう。相手が攻撃をせずにしかも讃美歌を歌ってくるだけとあってはなおさらだ。しかも聖十字騎士団はさらに絡めても用意していた。

それは巨大な十字架であり、そしてその先端には古ぼけた大きな書物が丁寧に(?)括り付けられているものだった。

「あれは一体なんだ?」

ヒエンのつぶやきは答えを求めたものではなかったが、意外なところからその答えが返ってきた。

「あれは初期型の聖書よ。オリジナルかしら?」

なんと驚いたことにエルフのアンリだ。

「さすがは真実の目の大幹部。よく御存じで」

「そりゃそうよ。あれ発見したの真実の目だからね」

「?どういう?」

「ああ、あれって遺跡で発見されたものなのよ。もう何百年も前のことらしいけどね・・で、あれがそこで発見された本の一冊よ」

「それがオリジナルか・・・よほど後に引けなかったんだな。そんなもんを渡すくらいだからな・・しっかし、そんなものまで出されるとは・・これは本当に陥落させられるところだったな」

まさしく教会権威の象徴というべき十字架と聖遺物というべき聖書のオリジナルだ。信徒ならば攻撃することすら思いつかないのではないだろうか

「信徒ならば・・・でしょ」

「ああ、信徒ならばな。火をつけろ!」

ヒエンは手に持っていた矢に火をともすと

「弓構え!」

そういうと城壁の上にいた18名が弓を構えた。そして

「神とやらがこの行いを認めるというならばこの矢は必中する。放て!!」

そのヒエンのセリフは贖罪や懺悔の気持ちで言ったのではない。城壁上で落ち着かないようにおどおどしているリンドブルムの守備兵に言い聞かせているのだ。

全部で19本の矢が炎を上げて突き進む。そしてそれは神の加護でもあったかのように、ことごとく命中した。



「な!!」

それを見た聖十字騎士団指揮官はその光景に絶句した。何本もの火矢がこちらに向かって放たれたのだ。

しかもそのうちの一本は先頭におかれていた巨大十字架、しかもあろうことかオリジナル聖書に突き刺さっていた。

「け、消せ!早く火を消すのだ!!」

あわてて火を消しに走る聖十字騎士団。しかし、そこに無慈悲に矢が降り注いだ。今度は50本以上とその数を増やしていた。



「放て!打って打って打ちまくれ!!」

打ち始めるとたかが外れてきたのか次々と弓を放つ。そしてその数も徐々に増え、気付くとその数は600名ほどになっていた。さすがにこんな状況にあっても頑なに攻撃を拒否する者も多かったが、そういうものは攻撃ではなく矢の補充や街の警備に回ってもらっている。

「怒ってる怒ってる。あ、ヒエン敵が突撃してきたわよ」

見ると敵右翼部隊の一部が感情に任せたのか隊列も組まず、突撃してきた。

「攻撃を集中させろ。それで十分だ」

すぐさま何百本という矢が次々と降り注いだ。結局は後退したもののヒエンやアンリも驚くほどハリネズミになっても突撃をやめない兵も多く、肝を少し冷やしていた。

「さすがね・・・」

「あんまり、うれしくはないがな・・」

アンリの問いにヒエンは苦笑しながら答える。

「敵、第二陣突入してきます」

今度は中央部隊と左翼部隊が隊列を組んで流石、精鋭部隊といわんばかりに堂々と突撃してきた。今度は隙間なく楯を並べての突撃で、雨のように降るそそぐ矢も十分な効果を上げてはいない。

「・・・・こんなに正面から来られると、さすがに手ごわいわね・・」

陣形を保ちつつ楯を隙間なく掲げ、じわりじわりと距離を詰めるという戦法は一朝一夕では習得できない。このことからも聖十字騎士団が極めて純軍事的に正当な教育を受けた集団であることがわかる。

「・・・予定よりも早いな・・ここを頼んでいいか?」

「まっかせなさいとは言えないけれど、短時間なら問題ないわ」

「じゃあ、頼んだ。おい!お前らいくぞ」

「「「「おおう!!」」」

率いるのはわずか20騎のアッツからヒエンと共に急襲してきた皇女軍きっての精鋭騎兵だ。

「開門!!突撃する!!」

20騎の騎兵と共にリンドブルムの城壁を飛び出すヒエン。が、馬には丈夫な縄が何本くくり付けられており、それは小型の荷馬車というか荷台につながっていた。他の馬にも同様の物があり、どうやら2頭で1台の荷台を引く設計のようだ。それが10台、聖十字騎士団の中央部隊に突撃していった。



聖十字騎士団は密集隊形をとったままゆっくりと前進を続けていた。この戦法の欠点は鉄壁の防御力と引き換えに機動力が恐ろしいほど低いことだ。中央部隊、右翼部隊はそれぞれ700名ほどの部隊、それぞれ横70名×10列の陣形をとっている。

聖十字騎士団の陣形はこうなっている。


           ■ 本隊 

   右翼部隊  中央部隊   左翼部隊(再編中)

   ■■■■  ■■■■   ■■■



「指揮官殿!敵の騎兵が出てきました!!」

「敵は少数だ!槍を掲げて敵の突入を許すな!!」

聖十字騎士団はあっという間に槍衾のように多数の槍が突き出してきた。その威圧感は半端ではない。

「!!指揮官殿!敵騎兵は何か引いています!」

戦車(チャリオット)だったのか!?構わん!現状を維持し突撃を続行せよ!!」

「はっ!」

確かに一般にファランクスと呼ばれる密集戦法は非常に強力だ。特に弓矢に対し、鉄壁と思える防御力は魅力的だ。さらに強固な陣形は騎兵の最大の持ち味である突破力をほぼ無力化さえする。これは戦車でも同じことなのだ。もちろん相手が兵の損失を考えずに行うなら状況は変わってくるが。

「!!敵戦車!分離します!!」

「なに!!」

見ると戦車と騎兵が次々と分裂した。そして戦車部分は慣性の法則に基づいてそのまま中央部隊に突撃した。



「グペッ!」

聖十字騎士団中央部隊は混乱の真っただ中に突き落とされた。10台の荷台が結構なスピードで突撃し、十数名が引かれ、数人が現在進行形で荷台の下敷きになっている。

「早く助けだすんだ!」

荷台は結構進んでおり中には7列先まで投入に成功した物もある。こうして崩れた陣形に矢は容赦なく降り注ぐ。

「くそ!陣形を立て直せ!これ以上被害を増やすな!!」

たちまち崩れた陣形が修復する。が、その腹には荷台を乗せたままだった。盾と槍が隙間なく(荷台部分は除く)並べられ、そして荷台部分では懸命の救助作業が行われていた。


「大丈夫だ!しっかりしろ!」

荷台を数人掛かりで持ち上げ、なんとか下敷きになっていた団員を助け出す。

「・・・なんだ。こいつ酒くせえぞ!」

「酒でも持ち込んでいたのかよ・・」

「いや、違うぞ。これを見てみろよ」

ひっくり返された荷台から濃厚な酒の匂いが漂ってきた。

「奴らめ!こんな物を送りつけてくるとは!」

騎士団の一人が憤慨する。当時、戦傷で助からない者には酒を飲ませて殺すという習慣があったからだ。これは医療が発達するに従って徐々になくなってゆくのだが、この時代はごく当たり前に行われていた。しかも、敵から酒が届くというのはこの時代に置いて非常に挑発的行動なのだ。死ぬものに酒を送る、すなわちお前ら全員ここで死ぬと言っているようなものだからだ。

「奴らめ!目に物を見せてくれ・・・・!!!」

憤慨した騎士の最後に見た物は紅蓮の炎であった。



「な!!」

聖十字騎士団の指揮官はその光景に理解が追いつかなかった。

中央部隊の各所から爆発としか言えないものが次々とおこったからだ。これは風通しの悪い中で高濃度のアルコールが気化し、そこに火矢が次々と打ち込まれた為に起こった爆発であった。

死者は100名近くに及び、やけどなどの負傷者はその3倍以上に達した。思わぬ被害に指揮官はすぐさま戦闘を中止し、部隊を後退させた。

こうして聖十字騎士団のリンドブルム攻略第一日目は終了した。


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