決着!
「グアアアアアアアア!!」
重たい甲冑を内側からはぎ取ると、一息ついたのかヨーツェンヘイムと呼ばれた怪物は大きく咆哮した。どうやら変形?(この場合は変態というべきか?)が終ったらしく、様子を見ていてもそれ以上の変化はない。とはいえ、皮膚は白色から黒色へ、よく見ると長い毛が全身を覆っていてそれが黒色に見えるようだ。さらに身長は優に3メートルは超え、見上げんばかりの大男となっていた。しかも1メートル以上も身長が伸びたにもかかわらず体はひょろい感じではなくがっしりとした筋肉に覆われている。さらに犬歯が大きく発達し、見る者を威圧する。それだけでも人外だというのに目が4つもあり、しかもそのうちの2つは周囲を警戒しているのか常時、明後日の方を別々に見つめている。シルエット的には人間的と言えなくもないので、この目は特に嫌悪感をそそる。
「ハハハハ、本当の化け物かよ・・・」
ヒエンはそう呟いたが、彼の半身がすぐさまこれを否定する。
(MMM社製ムーンソルジャ 通常時、ヒューマンタイプとして活動。非常時には巨人化することによって攻撃力、防御力が劇的に上昇する。西暦2530年、人型兵器に関する国際条約(つくば条約)により製造中止)
(あれも人が作ったっていうのか!?とんでもない化け物技術だな…)
そう思いながらも隙だらけのようにみえた化け物に向かって剣を振るった。
「!マジか・・・」
強化された一撃をあっさりと受け止める化け物。しかも素手であるにもかかわらず、ヒエンはまるで肉を切った感触がまるでなかったようでひそかに刃を確かめる。しかし、数か所、刃こぼれはしているものの十分使える状態であったのだ。
(想像以上の防御力だな・・・)
それもそのはず、ムーンソルジャが活躍していた頃は銃器全盛の時代である。貫通力では圧倒的に劣る剣ではそう簡単に貫けるわけがない。
「それもやり方次第だけどな!!」
すぐに気持ちを持ち直し、空いた距離を一気に詰める。しかし、それは相手も同じであった。
「グロロロロロロロロ!!!」
「こんにゃろう!!」
交差する影と影。強化された身体能力一杯に一撃離脱を繰り返すヒエン。圧倒的攻撃力で一撃必殺を狙う化け物。その攻防は幻想的ですらあった。だが、その終わりは一瞬であった。
(やはり上下の反応が鈍い!)
前後左右の動きにはかなり強いものの、わずかではあるが上下の動きに上下の動きに弱いことを見切ったヒエンは2重3重のフェイントを駆使してとうとうその首筋に剣を突き立てることに成功した。
「グロロロロロロロ!!!!!」
首は強靭な毛も皮も薄いことを見越しての一撃だった。そしてそれは成功したかに思えた。
「!!」
が、その剣先はなかなか刺さらない。見ると斬られたそばから傷が再生している。
「グロロロロ・・」
ニヤリと怪物が笑ったような気がした。それに反応したのか
「なめんな!!」
ヒエンがすぐさま反応する。が、化け物は余裕をかましているのか反応が薄い。その余裕が怪物の命取りとなった
「グロロロロ!!!!!」
ヒエンは剣をはなしたかと思うと全力で剣の柄を思いっきり蹴りぬいた。そして剣はその喉を切り裂いた。
「ゴオオオオオオ!!」
あふれる血流が首筋をその喉を瞬く間に染めてゆく。はたから見てもそれは致命傷だった。だが、化け物は信じられないことにその状態でヒエンに向かって右手を振りぬいた。
「いい加減にくたばれ!」
あっさりとその攻撃を開始すると再び柄を蹴り上げた。
「ゴ!・・」
そういうと化け物の首と胴体が分かれた。そしてそこからは真っ赤な奔流が宙を舞った。
「俺の勝ちだ!」
そういってヒエンは気を失った。
「「「うわあああああ!!」」」「「「うわあああ・・・・」」」
双方から同時に歓声が上がる。前者は皇女軍の文字通りの歓声、後者は聖十字騎士団の絶望の声だ。そして
「突撃!!」「防げ!!」
新たな戦いの幕が下ろされた。
「「「押せえええええ!!!」」」「「「防げええ!!一歩も中に入れるな!!」」」
先ほどより一方的に展開する戦闘。しかし、決定打が足りない。
「ウォーターレイン!!」
「なんだ!?」「あ、雨?」「なんで急に?!」
文字通りの水入り、あて利の熱気は徐々に冷める。
「撤収!とっとと帰るよ!」
アンリが大きな声を上げた。それは不思議なほど戦場を静かに掛けた。
「て、撤収?」「撤収!」「後退するぞ」
最初は戸惑ったようだが、当初の作戦を思い出したのかすぐさま相手との距離を取る。そして
「撤収!後方部隊と合流だ!」「「「おおう!!!!」」」
それはほれぼれするような逃げっぷりだったとのちに帰還した聖十字騎士は語った。
短いです。




