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初戦

帝国暦294年1月5日 帝国南部都市ランダル


新年早々だというのにここには剣戟の音がやかましいくらいこだましている。

赤地にロゼッタの皇族紋の旗と黒地にユニコーンの旗が一地方都市ランダルで干戈を交えたのだ。

「百鬼軍もやりますね」

オリゼは前面に広がる戦場を見回しながらこういった。帝国南部に進軍を開始するとすぐさま反応したのが地元の豪族軍団 百鬼軍である。中でも比較的北部に勢力を持つノースロップ一族が一族郎党を集め、義勇軍の侵入を妨害したのだ。

ここにいるのは義勇軍2800、百鬼軍2500と人数は義勇軍の方が多かったが、比較的軽装備であり、人数は少ないものの重装備な百鬼軍と完全に拮抗状態。このまま長期戦になると予想された。

「相手は長期戦を望んでいることは明らかだよ」

そういったのはヒカルである。さすが百戦錬磨の元傭兵。相手が決戦よりも長期戦を望んでいることを明敏に察していた。

「百鬼軍はその総戦力が広く分布していることが大きな強みです。初期戦力で膠着状態にさせ、新たに集結させた戦力で包囲、というのがパターンですね」

オリゼはなんということもない感じでそう答えた。

「じゃ、さっさとかたずけるかね。・・・よし、全軍後退するよ」

「お手並みを拝見します。最高指揮官どの」

ヒカル義勇軍最高指揮官は干戈を交えてからわずか3時間で後退命令を出した。



「なに?義勇軍は撤退し始めただと?」

ノースロップ・ハウゼンはノースロップ一族の当主で帝国に滅ぼされたホーク王国の有力貴族であった男だ。その声望の高さから帝国も首を斬ることのできなかったほどでもう初老といっていい歳だが体も精神も一切のたるみはない鋼のような男である。

「・・・・いったい何をたくらんでいるのか・・・」

顎髭に手をあてて思考する。

「さすがに分が悪いと後退したのではないのでしょうか?」

実際、彼らには拠点たるランダルという都市がある。当時の都市は基本的に城塞都市でランダルも小型ながら数千人規模で籠城することができる。つまりこの野戦で敗れても一向に構わないのだ。一方、義勇軍は未だ有力な拠点は持たず(一応、トレカの町はあるのだがまだ大分距離がある。彼らはもちろんこのことを知らない)もし、この野戦で敗れると最悪、全軍崩壊しかねない。

「やはり、烏合の衆!一気に叩き潰してしまうべきです」

「追撃で少しでも敵戦力を減らしていくべきです」

「しかし、罠かもしれん」

参謀役の一族の勇ましい意見を聞きながらノースロップ氏は慎重論を唱えた。これほど早く後退するからには何か理由があるはずだと氏は考えたのである。

「申し上げます!敵は三軍に分れ、別個に後退を開始しました」

「なんだと!?」

慌てて立ち上がるノースロップ氏、みると900名規模の群れが三つ、それぞれ別方向に逃げだしているように見えた。

「あれは!閣下!!敵は内紛でも起こったのでしょう!今から追撃をかければ我らの必勝は疑いようがありません!!」

一族の言葉にノースロップ氏は大きく頷く。こちらも三軍に分けるノーマット!ドーントレス!貴官たちに800ずつ預ける!見事に敵を蹴散らしてこい!」

「「はっ!!」」

「ワシも撃ってでる!敵を蹴散らし次第合流せよ!」

「「はっ!戦果をご期待ください!」」

こうして百鬼軍も三軍に分れて追撃した。


「ちぃい!!追いつけんのか!!」

ノースロップ氏は叫ぶ。有利で有るように見られた百鬼軍は不利であるはずの義勇軍になかなか追いつけずにいた為だ。戦闘が始まって早々に後退したので義勇軍は疲労が少なく、さらに軽装備であったため逃げ足は速かった。一方、百鬼軍は重装備で疲労は同じく少なかったものの、重さで義勇軍ほど進軍速度が出ない。少数の騎兵部隊での突撃も行われたが相手のスピードを鈍らせるには至っていない。

「まさか、他の部隊もそうなのか?」

彼は千里眼ではなかったものの他の部隊でも状況は似たりよったりだ。むしろ街道を使ったコースを利用している分、ノースロップ氏の本隊の方が状況はましだ。

ノーマッド隊もドーントレス隊も森林や丘陵地帯を抜けているので寧ろヒエンやオリゼが故意にスピードを落とさなければ見失ってすらいただろう。

「!!閣下!!敵のスピードが落ちています!!」

「!やっとへばりおったか!!全軍陣形を整えろ!突撃する!」

「はっ!各隊、紡錘陣に移行!突撃用意!」

各隊に命令が伝えられ、素早く陣形が整えられる。そして

「突撃!!」

一斉に駈け出す兵たち。勢い、装備、練度、士気、そのすべてが敵を上回っているとノースロップ氏は確信していた。しかし、

「偽装外せ!弓兵前へ!!」

突然、義勇軍の方から掛け声が聞こえる。

「閣下!!」

「馬鹿な!」

目の前には浅いが堀を備えた砦がその姿を現した。いや、砦というには貧相だが二重三重の柵と堀が眼前をふさぐように存在していた。

「!!いかん!!総員後退!」

しかし、勢いのついた兵士は急には止まれない。

「うわあ!」

「いかん!下がれ下がれ!」

「いや、このまま柵を乗り越えろ!あんな貧相な柵くらい楽勝だ!!」

次々と弓矢に倒れる兵士たち。そして後退するもの、あくまで突撃突破を図る者、百鬼軍前線は混乱した。

「いかん!・・・我らも前線に向かう!混乱を収拾するのだ」

ノースロップ氏は直卒30名を率いて前線に乗り出した。

「後退!後退して陣形を再編する!!」

前線で声を張る老兵。もちろんそれを狙って何本もの矢が飛んできたが直卒の30名は精鋭でそのことごとくを弾いた。

「後退!後退!」

「か、閣下!後方より敵です!」

「な!なんだと!」

百鬼軍後方に現れたのはヒカル率いる騎兵120名であった。

義勇軍は百鬼軍と会敵する前、工兵を中心とする1000名を後方で柵の製作を行っていた。そして完成させると工兵は東部辺境領に撤退、護衛をしていた兵はヒカルたち本隊と合流、さらに騎兵だけを抽出、後方に大きく迂回し、こうして前後に挟撃することに成功したのであった。


「さあ、今度はこちらの番だよ!」

「ひるむな!耐えればすぐに援軍が来るぞ!全軍密集隊形!負傷者は中央部へ!弓兵、敵を近づけるな!!」

歴戦の傭兵と老兵は共に全力を傾けあった。ひょっとしたら純能力的にはノースロップ氏のほうが上回っていたかもしれない。しかし、ほんの少しの状況の違いがここで両者を勝者と敗者に振り分けようとしていた。


(騎兵があれほど多かったとは・・!!)

ノースロップ氏は自己の認識の甘さを歯ぎしりしながら呪っていた。

遭遇戦では持てる最大限の戦力を投入し、敵の戦意を低下させる。それが用兵の基本である。ノースロップ氏はその基本に従い最大戦力を時間のかぎりかき集め、そして各方面に後詰めを要請した。てっきり敵も持ちゆる最大戦力を投入していると考え、索敵でほぼ同数の2800、騎兵は100足らずという情報を得たとき、ノースロップ氏は勝利を確信していた。同数の敵ならば負けない自信があったし、多少苦戦しても野戦を持って戦線を構築し、圧倒的多数の後詰めを持って勝利を得ようと考えたのであった。ところが敵は後方に陣地を構築しており、さらに自軍の倍近い騎兵を有していたのだ。無理をせず籠城を選んでいれば勝者と敗者はその場所を入れ替えていただろう。

(いや、だからこそ、ぎりぎりの戦力で挑んだのか・・・儂の自信に足をすくわれるとは!!)

兵を叱咤激励しながら次々と味方がやられる姿はとても見るに堪えないものであった。すると

「「「「わあ!!」」」「「閣下!!」」

ノースロップ氏を強固に守ってくれた陣形が一気に崩された。反射的に突き出された槍を剣を持って防ぐノースロップ氏

「あんたが総大将のノースロップかい?」

ノースロップ氏が見上げるとそこには馬上で槍を構えたヒカル義勇軍総指揮官がそこにいた。


途中まで書いていたデータが飛びました。orz

新しく書き直しましたが、心が折れた分、文章がマズイかもしれません。

感想とか評価とか誤字の指摘とか御願します。

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