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ヒエン、その記憶

話は再びヒエンたちに戻る


遺跡にたどりついくなり、食い入るように見つめるアンリを見ながら、ヒエンはなるほど彼女も探究者なのだと感心すらしていた。

「やっぱり同型の施設ね」

アンリはそういうと何度も柱や壁を丹念に確認する。

「前も思ったが、かなり古いはずなのになんでこんなに綺麗なままなんだ?」

確かに埃やカビ臭くない。

「ああ、それは始祖精霊の遺跡は祝福もちだからよ」

アンリが言うには祝福が付いた遺跡はちょっとしたキズや破損は自動修復するし、埃やカビといったものも寄せ付きにくくなるそうだ。

「余程、始祖精霊様は強い力を持っていた証拠の一つよ。だからって無暗に壊さないでね。精霊国内だったら例外なく重要文化財扱い以上になるんだからね」

「「了解」」

三人は注意深く遺跡の奥へと向かう。奥に進めば進むほど遺跡は綺麗な状態になってゆき、一部は鏡のように姿が映るほどだった。

「・・・・驚いたわね・・・精霊国にもここまで状態の良い遺跡は少ないわ」

「そうなのか?確かに綺麗な遺跡だと思うが・・」

「ねえ・・・ヒエン・・・」

「ん?」

「ワイバーンが壊した壁はどこ?天井は!?」

「「!!」」

マイの発言に驚く二人。そうなのだ。結構奥まで来たはずなのに壊れたはずの壁や天井はない。

「それは・・・ね」

「「「!!!!!?」」」

聞きなれない声に驚く三人。しかし、その姿は見えない。気付くと周りにはうっすら霧がかかったように白く染まっていたからだ。

「何者!」

ヒエンが警戒するように前にでて腰の剣に手をかける。

「それは無粋だよ」

「な!!」

今度はヒエンの構えていたはずの剣が消える。

「ヒエン!!」「いったいなんなのよ!?」

一気に白いもやが一気に濃くなる。それは自身の指先すら見ることのできない濃厚なものだった。

「いったい、どうしたっていうのよ!?」

「ヒエン、大丈夫?」

「・・・ああ、何とか・・しかし、ここはどこだ?」

「ホントだ・・」「転移魔法!?失われた秘術魔法じゃない!?」

見回すと多少白いもやが晴れたとはいえ、明らかに先ほどとは違う場所だとわかる。

「ん?いやいやこれはそんな大したものじゃないよ?ダダの立体画像をそちらに送っただけだよ?」

「「「!!」」」

気づくと三人の背後に音もなく一人の仮面を付けた男が立っていた。慌てて距離をとる三人。が、それを気にした様子もなく仮面の男は飄々と突っ立っていた。

「・・・・何者だ?あんた」

「ん?心当たりくらいあるんだろ?」

「・・・あんたがレインか・・・」

「ピンポーン?」

ヒエンの問いかけに自信なさげに答える仮面の男。

「なんで疑問形なんだよ!あんたのことだろうが!」

「いや、こう見えて名前の多い人物なのだよ。私は」

どこか誇らしそうですらある仮面の男の態度にとりあえず敵対する意思はなさそうだと判断したヒエンたち三人はお互い目くばせすると同意するように頷いた。

「・・・とりあえず私たちがレインと呼んでいる人物なのですね」

代表してアンリが仮面の男に話しかける。

「んん?確かにレインは私を定義する言葉の一つだよ?」

アンリは息をするのを忘れたかのように仮面の男に見入っている。そして

「では、あなたは始祖精霊様なのですか?」

意を決したかのように添う言葉を放つアンリ。

「懐かしい言葉だね・・・おや、良く見たら君はエルフか・・・なるほどな・・・君たちの種族にはまだそのころの情報が残っていたんだね・・・まあいいか・・・確かに私は君たちを作った始祖の一人、レインと呼ばれた男だ」

その言葉を聞くなり跪くアンリ。

「始祖様だとは気づかず、数々の御無礼をお許しください。私はコウリの第二子、アンリと申します。そしてここにいるのがこの地の現地人、ヒエンとマイ。共に探索ギルドに所属する者たちでございます」

慌ててアンリのマネをして跪く二人。少なくとも礼儀正しくしておくことに損はない。

「ヒエンです」「マイ・・です」

「久しぶりですね。ここまで順調に育つとは・・・予測はしていましたが、どうやらかなりべストに近い選択ができたようです」

レインと呼ばれる男の言葉に三人は首をかしげる。誰もあったことも話したことも記憶になかったからだ。

「・・・あの・・・いったい何をおっしゃっているのです?」

アンリはおずおずと言った感じでそう尋ねた。

「おや?記憶が戻っていないのですか?・・・・おかしいですね・・・あなたは手に入れているのでしょ?うしなわれた半身を」

レインの視線が、ついでアンリとマイの視線がヒエンに集まる。

「俺・・・ですか?いやでも半身って?」

「まだ、定着が甘いのかな?・・・まあ、時間をかければ良いという物でもありませんし、う~ん、少し痛みますよ?」

レインはそう宣言するなり、何とも表記しづらい音をその口から発した。

「?一体何を?って、なんだ?!これは!!」

みると彼の左手に青白く光る微細な模様が浮き出ていた。そしてそれはみるみる全身を侵食していった。

「あ!!」

糸の切れたようにその場に崩れ落ちるヒエン。慌ててマイが駆けよるが青白い光に阻まれるようにヒエンに触ることさえできない。

「一体何をしたの!!」

マイはこの世の終わりが来たかのように大声でしかも切実な声を出した。

「なに、ちょっと同期させているだけさ」

仮面で良くは分らないもののレインと呼ばれる男は仮面の下でうっすらと笑っている気配を敏感にさっしたマイは

「!!すぐにやめさせなさい!」

得意の投げナイフを取り出すと威嚇するように、いや、威嚇だ。何本かすでにレインに放たれている。だが

「無粋だって、それにもうすぐ終わるよ」

放たれたナイフは1メートルもしいないうちに空中に静止した。そして力尽きたかのようにその場に音を立てて落ちた。



(俺はどこにいる?)

日頃、眠りから覚めるときにヒエンが思うことだ。目を開けると知らない場所かもしれない。知らない人がいるかもしれない。いや、もしかしたら死んでいるのかもしれない。そんな根拠のない、だが、ないとも言い切れないような漠然とした不安が頭をよぎる。

ヒエンはそれは赤ん坊のころ、捨てられたことを覚えているせいだと思っていたがどうやらそうではないようだ。

(ここはどこだ?いや、でも見覚えはあるな)

ヒエンはそう思うのも無理はない。時折みていた夢の光景だと気づくのには時間がかかったようだが。

(ここは・・・液体の中・・か)

動くことはできない体なのに生温かい液体の中にいるようで奇妙な浮遊感をヒエンは覚えていた。すると、

「・・・・・・!!・・・・!」

「・・・?・・・・・・」

言い争う声が聞こえる。ヒエンの意識は視線と声のした方に向けられる。そして一瞬、怪しい光が部屋を照らす。気づくと言い争っていたうちの一人がうずくまるように倒れていた。

(撃たれた!)

ヒエンは驚いた。自分で自分が何を考えたのか分らなかったからだ。

(撃たれる?撃たれるとはなんだ?あれは一体何だ?)

(銃、拳銃、BMA社製LNP38)

(銃、拳銃?)

(銃、何らかの力学的エネルギーを相手に向かい放出する兵器、その中でも小型の物を銃という)

知らないはずの情報が自分の中からあふれてくる。そんな意味のわからない状況にヒエンは混乱した。そしてある意味禁断の疑問を思ってしまう。俺は何者かっと。そしてヒエンは自身の中からあふれる情報によって知ってしまう。

(製造番号100092-71、プロトタイプ“聖騎士”“操獣士” 現在、稼働している数少ないオリジナル№)

ヒエンは驚きつつも悲しみつつも本能的に正しいと分ってしまった。こうしてヒエンは自分が人間でないことを知った。いや、自覚した。

そして人間ではないことを知覚した魂は半身たる青白く光る正八面体、現在は左腕に擬態しているそれを本格的に取り込み始める。そうしてヒエンは思い出す。作られた目的をそして記憶を封印されていたわけを・・・そして自身の罪を・・・・・ヒエンの目には意図しない水が溢れてこぼれおちた。





「ヒエン!!」

ヒエンが目覚めるとそこには良く知った人が抱きついてくる瞬間であった。そしてその向こうには表情の読めない仮面の男と硬い表情のアンリが見えた。

「・・・・ここは・・・」

ヒエンは今、自分がどこにいるかすぐには認識できなかった。それほど過去の追憶は生々しいものであったか分かる。

「あいつに何かされたとおもったらそのまま倒れちゃったんだよ」

マイのセリフでヒエンは急速に今を知覚した。

「てめぇ・・・・・!!」

「どうだい?衝撃の追憶体験は?」

「!!・・・あんたは知っているのか?あれを!て、ゆうかあれはホントにあったことなのか?俺はあんなところいたはずはねえぞ!」

「おや?そうかい?ほんの3500年くらい前の話だよ?君は忘れることなんてできないように作られているんだよ?知らないはずはないよ?」

「・・・・確かにまるで体験したかのような体験だった・・・だが!!」

そしてヒエンは激しい眼光でレインを睨みつける。

「おれは、高野ヒカルの子!ヒエンだ!その記憶が俺を作りあげている!!」

少しふらつきながらも立ち上がるヒエン。そして拳を握りしめると心の中から湧き上がる激情に任せてレインを殴りつけようと振りかぶった。

「俺はお前の思う通りには・・・」

握りしめた拳は体重を乗せ、

「ならない!!」

すさまじい勢いで繰り出された。しかし、

「無粋だよ」

そういうなりレインはヒエンの目の前から消えた。

「な!!」

そして目標を見失った拳はそのまま背後の壁を文字通り粉砕した。

「素晴らしい攻撃だ。私が生身であったらヤバかったかもしれない・・・・で、君はそれだけやっても・・・ただの人間だというのかい?因みにそれは石壁ではないよ。宇宙船に使われる高分子結晶壁だよ?それこそドラゴンクラスの一撃でもなければ崩れるものではないんだよ」

消えたと思ったレインは何事もなかったようにそこに立っていた。

「・・・・・・・」

自分の起こした結果に言葉もなく立ち尽くすヒエン。

「おい!聞いているのかい?立体映像だよ!君の攻撃は素晴らしかったよ!そう落ち込まないでくれ、若者をいたぶっている爺さんのような気分になる」

そう頓珍漢なことを言っているレイン。

そしてしばらくの沈黙が落ちた。


数瞬の沈黙ではあったが、その沈黙はヒエンから破った

「俺は・・・・」

「ん?」

「俺は人間じゃないのか?」

その顔には苦痛があふれている。

「まさか!君は人間だよ。ただちょっとばかり特殊な生い立ちなだけだ」

相変わらずこちらの表情は読めない。

「・・・・だが、俺には・・・俺の半身には・・・」

「そう、だから私は君に人の体を与えた」

「・・・・・・」

「私は君に意志、というものを持ってもらいたかった。滅びた人間ではなくこれから生きる人間に・・・・意味は分かるね?」

「・・・・ああ、なんとなく・・・・だがな」

そういってヒエンは先ほどの気迫をどこかに忘れてきたような目でレインを見つめた。

「俺は・・・・どうしたら・・・いい」

「それは決められない。決めるのは君だ。だが、時が来れば山地国に向かってほしい。まあ、最後のお願いってやつだよ」

「そこには何が?」

「君がいらないと思うかもしれないものさ。使わないことにこしたことはないんだけどね」

「・・・・・・・」



「じゃあ、年寄はここで失礼するよ。これでも忙しんでね」

そういって今度こそ姿を消そうとするレイン

「ちょ!!!お待ちください!」

必死でそれを止めるアンリ。

「わた、私たちには説明nothingですか!!私はあなた方の研究に生涯をかけてきたんです!!お願いします!いろいろ教えください!」

その姿は土下座寸前だ。

「ちょ!!これじゃあ私が悪者みたいじゃないか!!・・・・!!そうだ!君もヒエンについていくといいよ!そして何かわかったら・・・十分、私の話が分かると思ったらこれを使いなさい」

そういって手のひらサイズの真っ黒なキューブを空中に出現させた。

「これは一回限りの使い捨て通信機だ。この惑星上だったらどこからでも私に通信できる。そこで明かそう」

キューブはそのままアンリの手に落ちてきた。

「わわっと!なんですぐに教えてくれないんですか!?」

「・・・・ごめんね?前提となる知識が多すぎてとても説明できないんだよね・・・・・・メンドクサイシ」

最後の方はかなり小声だったが、ばっちりアンリには聞こえたらしい。

「今、めんどくさいって言いましたよね!!?」

「さらばだ!!」

アンリが言い終わるや否やそのまま姿を消すレイン。そして立体画像はすべて消え、再び元の場所に戻った。壁は粉砕されていたが・・・

そこには呆然と考えのまとまらないヒエンとその様子を心配そうに見つめるマイ。そして憤慨しているアンリの三人が残されるだけだった。

「・・・結局、あんた何者なの?」

アンリはヒエンに尋ねる。それは返事を期待したものではなかったが

「それは俺も知りたい・・・・いや」

「いや?」

「・・・・俺は人間だ」

見ると手のひらにはうっすら赤い血が痛みとともに滲んでいたのであった。

「俺は人間なんだ」

その独白は虚空を揺らし、吸い込まれていった。


習作を兼ねている作品ですが、一向に上達しません(泣)

もうちょっと思いつきで書かない方がいいですね。ここまで来てやっと悟った作者です。

でも、ちゃんと完結させますよ!あっ、ジエンドも放置していた・・・orz

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