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同盟、野望の第一歩

帝国暦 293年12月18日


予定以上に時間のかかった旅は苦労の連続であった。おもにヒエンの苦労であったが。

「やっと着いたわね」

気軽な感じでそう言った馬上の美女はアンリ。その横で忌まわしき塔を無言で見上げているのはマイである。

「・・・お前が寄り道ばっかしているからだろう」

疲れた感じでそういう青年はヒエンである。実際、その道中は好奇心と行動力の塊のようなアンリの突飛よしもない行動でヒエンのマイの二人を散々振り回したのだ。いくら真実の目の最高幹部だとは言ってもこのあまりに時間がかかっていることからどれほど大変な旅だったか容易に想像がつく。

「若、ですが、まあ、おかげで十分時間は取れましたし・・・」

それでも二人がアンリに対して怒りを向けないのは薄々、それが気遣いなのだとわかっているからだ。現にヒエンとマイは近づくにつれ表面には出さないようにしていたつもりでも不安や焦燥などが行動の節々からアンリにすら読み取れたのだ。彼女も少し急ぎすぎたと考えた結果、時間をよりかけることで二人のコンディションを整えようとしたのだ。

「あれが・・・件の遺跡ね」

「ああ、つい最近のはずなのにもうずいぶん久しぶりな・・・・感じだな」

ヒエンはぼやくように言った。目の前には巨大な遺跡がまるで何事もなかったかのようにそこにあった。


同日、東部辺境領


「・・・・ヒエンはそろそろ帰り道かい?」

「さあ、存じ上げませんわ」

ヒカルのぼやきにロゼッタは全く気のない返事を返した。ちなみに彼女らの前には書類が満載されており今でも進行形で書類を処理している。

「・・・・これ・・あとどのくらいあるんだい?」

「・・・・いままでのざっと3倍ですわ」

そして二人そろって深い溜息をつく。辺境領のマンパワーの不足は深刻だ。

「・・・・彼らが来ていればね・・・・・」

ヒカルがそういうのも無理はない。頼りにしていた傭兵仲間が皆、契約中であることを理由に全員断ってきたのだ。

「はあ、まったく、貴女なんかの人望に期待した私がバカでしたわ」

「何を!!」

にらみ合う二人。が、しばらくしてお互い深い溜息を一つつくと再び黙々と書類をかたずけ始めた。ちょうどその瞬間

「失礼します!!緊急の来客です!!」

ノックという文化を全く知らない兵士一号が入ってきた。

「・・・そんなことはいいからこれ手伝え」

そういって書類の束を差し出すヒカルであったが

「いえ!!自分は字が読めませんので!!来客は南部商人を名乗るオリゼというものです。エドワード副隊長に確認してもらったところ確からしいとのことです」

「なんだ。商人か・・・・だったらいつものようにエドワードに処理してもらってくれ・・・いろいろ忙しいのでな」」

「いえ・・・それが・・確かに南部商人は商人なんですが・・・今は領民軍の幹部だそうです」

「・・・そうなのかい?」

歩く人物図鑑ロゼッタに確認を求める。だが

「さあ、さすがに反乱軍の内部情報までは・・・ですが南部商人オリゼの名前は聞いたことがあります。確か穀物商としてかなり有名な方ですよ」

そのものずばりと言った情報ではなかったものの一応名のしれた人物であることに少し安心するヒカル。

「まあ、エドワードが確認したんなら間違いないだろう」

「そういえばエドワードさんって方は?」

記憶にない名前に疑問を持ったロゼッタがそう口を開いた。

「ああ、そういえばあったことはなかったね。エドワードは昔から傭兵団にいた古株だよ。さすがに年を取って引退して商人になっているよ。まあ、下手な傭兵より強いし頭も回るしね。こっちの仕事をいろいろ頼んでいるんだよ」

「使える人材いたんですね。今からでも召集したら・・・」

そうロゼッタが言うとヒカルは苦笑して

「・・・もうめいいっぱい頼んでるよ・・・これ以上増やしたら殺すぞっていわれるくらい、ね」

「・・・・WOW」

「・・・あの・・・」

なぜかまだいた兵士がおずおずといった感じで声を上げた。

「なんだい」「なにかしら」

疲れとイライラでナチュラルに黒い雰囲気が出せるようになった二人から同時に言葉を浴びせられる兵士。かなりおびえながらも彼は職務に忠実だった。

「ひい!!あ、あの・・・その・・オリゼ様からご伝言でして・・傭兵仲間の引き抜きを妨害しているのは・・私だと・・!!!」

言い終わる前に二人は無言で席を立つ。

「どこだい?」

「ひぃ!!あの応接室にお通し!!」

気付くと二人はもう部屋を出て行った後だった。余りの早業に兵士も言葉も出ないようであった。


「あんたかい!人様の事業を妨害したって野郎は」

ロゼッタを引き連れたヒカルが応接室に怒鳴り込んでくるとそこには飄々とヒカルの怒声を受け流すオリゼの姿があった。

「お目にかかれて光栄です。皇女殿下、伯爵閣下。私はしがない南部商人のオリゼと申します」

オリゼはそういうと人好きする満面の笑顔を二人に向けた。思わぬ反応に機先を制された二人は不機嫌さを隠さずにオリゼとは反対側の席に腰を下ろした。

「いったいしがない南部商人が何のようだい?おかげさまでいろいろ忙しい身の上なんだよ」

「ええ、存じ上げております。我々、商人ギルドも日夜、帝国のため、身を粉にして働いている身でして」

ヒカルの皮肉にオリゼは暗に苦労しているのはお前たちだけではないと言い返す。

「あら、商人ギルドには随分と便宜を図っているとお聞きしましたが?」

こんどはロゼッタが返す。実際、商人ギルド、特に幹部クラスの大商人ともなると莫大な商談が帝国から舞い込むことも多い。

「ええ、よく存じております。ですから我々としても帝国が内乱状態であることは望ましくはないのです」

「あら、反乱軍の使いとしてきたのではないのかしら?」

「いえいえ、滅相もない。ここに来たのは商談ためにございます」

本当にとんでもないとオリゼは何度も腕を大きく横に振る

「商談?っていうと何かい?こんな辺鄙で貧乏なところにいろいろと忙しい商人が売るもんがあるっていうのかい?お笑い草だよ。オリゼ殿」

くくくっと手を口に当て笑うヒカル。それに対しオリゼは

「もちろんでございます。我々は商人。必要なものがありましたらそれを売るのが商人、です。我々はいろいろと用意できます」

と自信たっぷりだ。

「・・・・ほお、じゃあアンタは一体なにを売ってくれるんだい?」

すこし興味が出てきたのかヒカルはほんのわずかに身を乗り出す。

「・・・すべての領民からの支持と商人系ギルドからの支援、そして大義名分をです」

「「な!!」」

想像すらしていなかった答えに絶句する二人。

「どうでしょう?」

お買い得でしょ?と言わんばかりの笑みを浮かべるオリゼ。それをみてようやく落ち着きを素早く取り戻すヒカルは

「・・ずいぶん面白いものをうっているのだね・・・で?」

「で?とは」

「対価はって聞いているんだよ。タダってわけじゃないんだろ?あんまり景気が良くないって聞いているもんでね」

ヒカルは人の悪い笑みを浮かべながらそう毒を吐く。

「・・・南部商人はこのままじゃジリ貧だってことは多少なり耳にしたことあるんでしょうね。西部商人は要塞関係の武器商人、北部は大陸北部との貿易商人、中央では帝都を中心とした大消費地を要する大商人たち、一方、東部、南部には辺鄙な上に内乱のおかげで小規模な商人ばかり。ええ、このままでは我々はいずれ中央の商人の傘下に入るか現在よりもかなり業務を縮小されるでしょう・・・・そこで奇貨です」

毒に対して冷静に返すオリゼ。その姿にはまったく動揺は見られない。

「奇貨ですか・・・東部にはいったい何があるんです?」

今度はロゼッタが発言した。

「・・・貴女はご存知かもしれませんが・・帝国の今の南部地域に進攻を開始したのは我々、南部商人が後押したという面があったのです」

「おいおい。そんなことがあったのかい?」

「ええ、存じております。なんでも新たな商業圏を求めたとか・・」

驚くヒカルに落ち着いた様子のロゼッタ。

「まあ、帝国の商業ギルドとも話はついていたのですが・・・帝国貴族が制御不能でして・・」

「「ああ~~」」

オリゼの発言に思わず同意してしまう二人。それほど現在の貴族の多くは定見がない。それは別に暴虐というわけではないのだが

「無計画としか思えない占領。戦費を回収するために多発される関所に税金・・この状況で反乱がおきないわけがなかったのです」

深くため息をつきながらそういうオリゼ。彼らとしてもここまで混迷するとは思っていなかったに違いない。少しでも回復させようとする為の物が前の互助団体 領民軍であり、そして現在の反乱軍 領民軍なのだろう。

「つまり何かい?泥縄的に展開していったものを何とか収集したいと、そういうわけかい?」

「まあ、そういうわけです。我々としては従来の計画のように大陸南部から帝国を経由して大陸北部に輸送するという計画を完遂したいのです。ですが」

「なるほど・・・でも、南部ではもう貴族勢力の駆逐は不可能じゃないのかい?」

「そこでロゼッタ皇女を要する東部辺境領と組む意味があります」

なるほどっといった感じでヒカル、ロゼッタの二人に理解の色が広がる。つまり東部辺境領と組むことで貴族勢力を押さえ、さらに中央の商業ギルドとは一定の距離を保つことができる。確かにお互いにとって悪くはない取引といえるだろう。だが、

「それだけじゃあ、不満だね」「ええ、私もそう思います」

「な!いえいえいえいえ!!これほど優位な取引はありませんよ」

かなり焦った様子で答えるオリゼ。それはそうだろう。彼にとってもこれは賭けなのだ。現状はまさしく泥縄、しかもにっちもさっちもいかない状況なのだ。南部商業ギルドもいまいち危機感が薄いのだ。悪化する戦況、膨れ上がる予算、何よりまずいのは圧倒的な前線指揮官の不足だ。今後、戦線が複雑化するにしたがってますますこれは深刻化する。しかも前線指揮官の不足はそのまま領民軍の影響力の低下に直結するのだ。今でさえ最弱の反乱勢力なのだ。領民への影響力が下がればすぐに母体たる南部の商業ギルドごと消滅させられてしまう。オリゼはそれだけは阻止したかった。もし、負けるにしても負け方っていうものがある。少なくとも南部商業ギルドは残さねばならない。オリゼは祖考えていたのだ。

しかし、そのことまで考えが及んでいたわけではないが、ヒカルもロゼッタもわかってしまったのだ。それだけでは彼女たちの望む世界は作れないのだ。

そして彼女たちはオリゼに提案をする。それはより過激で蜂蜜より甘い香りのする提案だった。最初はただ驚いていただけのオリゼではあったがその顔は徐々に深い理解が広がっていた。

そして

「・・・・面白い、面白いですね。確かにそっちの提案の方がうまみが有りますな。しかし、こちらのリスクも高い」

「ですが、このまま行ってもそちらの立場は悪くなる一方だということは理解できると思いますが」

ロゼッタはきっぱりと言い切る。

「あんたにも目的があるように私らにも目的があるんだよ。それにこれは確かに賭けだけど、その分あたりもデカい。それをどう取るのかはあんた次第さ」

何気ない感じでヒカルは言うが彼女らにとっても正念場だ。もともと南部商人をはじめ帝国南部とは協調していく予定だったのだ。既に密偵を放ち、地方領主にも勧誘を進めていたのだ。ここで南部商業ギルドを取り込むメリットはかなり大きいのだ。

ここでオリゼを逃すことは致命的だ。だが、ずるずると主導権を奪われるわけにもいかない。それはぎりぎりの攻防なのだ。三者三様の面持ちで見つめあう三人。そして

「・・・・わかりました。私も商人です。利益は多い方がいい」

そういってオリゼはそっと右手を差し出した。

「こちらこそ」「よろしくな」

三人は堅い握手を交わした。後のトレカ通商同盟誕生の瞬間であった。



暑さに倒れた作者です。今年の夏はなんかきつい!やる気アップと気力アップにつながりますので感想、評価などなどよろしくお願いします。

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