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明かされる謎

帝国暦293年12月3日 早朝 東部辺境領


昨夜の衝撃の告白は様々なリアクションを聞いていたすべての人物に与えた。いや、実際には木札に記録された各画像が告白が事実である明確な証拠が出てきたときだが。

マイは真っ青になり、部屋から出てこなくなった。おそらく自分を責めているのだろう。ヒカルはかなり動揺したもののアンリの探査魔法で現状では何の不都合は見つからないとの報告を聞いてほっと一安心したのだろう。ヒエンの肩にそっと手をおくと、よかった、と一言いうとその場をアンリ一人に任せた。アンリはその後も様々な方法で資料を集めるとヒエンに十分に休むように伝えると様々な資料を呼び出し、部屋にこもった。そして現在、アンリの目は黒いクマがくっきりと表れていた。

「ふう・・・・」

いたむ目頭をもむように手を動かしながらアンリは深い溜息を付いた。

(おそらく、あれは始祖精霊の遺産・・・だろうね・・・・おそらくだが・)

だが気になることもある。同じ始祖精霊の遺跡であったカッシードの砦、外観はほぼ同じであるのにあれがなかったことだ。アンリは昨日のやり取りを思い出す。

ヒエンの信じがたい話を聞いたアンリは左腕に一通りの探査魔法をかけると弾丸のように様々な質問を浴びせた。

彼女にとっては意外なことであったが、ヒエンは質問の内容に的確に返し、アンリを非常に満足させることにさえ成功していた。そして最後にアンリはこう聞いた。

「・・・・・そこに遺体はあったのか?」

「え?」

「その遺跡に遺体はあったのかと聞いている」

戸惑うヒエンを横目に語気を強めて尋ねた。あれほどの数の遺体を見逃したとは考えがたかったのである。

「・・・すべての部屋を回ったわけではありませんが・・・・遺体なんかはなかったと思います」

「そうか・・・・」

そして認証コードを聞き出すとそのまま部屋を借り、そこで徹夜での解析をしていたのだ。

そして再び思考は現在へと戻る。そして2,3度、頭を振ると

「・・・だめね・・・」

とつぶやくように言った。やはりここでの分析には限界がある。さすがのアンリも限界があった。特にヒエンの左腕に関しては過去の文献や調査報告をさかのぼってみても類似する事例は皆無、さらに遺跡についても分析を行うには情報が少なすぎた。

「・・・・彼を連れてもう一度行くしかないわね」

彼女にとっても未だ若木にすらなっていない若者を利用するようで心苦しかったのだが、彼女の奥底で何かが叫ぶのだ。

このままにしてはいけない と、

彼女はその叫びに強く揺り動かされている事実にまだ気づいていない。



ヒエンが目覚めたのはいつもよりだいぶ遅い時間帯だった。ちょうどその瞬間、控えめに扉をノックする音が部屋に響いた。

「おう、起きているぞ」

そう答えるなり入ってきたのはメイド服を着たマイであった。

「・・・・・ヒエン」

不安そうな様子のマイ。ヒエンの腕が何かに置き換わっていることを知ってかなり動揺したらしく昨夜は部屋にこもりっきりでむしろヒエンなんかよりも余程、皆に心配させた。

「ごめん・・・私にもっと力があったら・・・」

そういって崩れ落ちるマイ。見ると扉にもたれかかるように泣き崩れていた。

「マイ!」

あわてて駆け寄るヒエンではあったが、駆け寄ったところで彼にできることは何もなかった。

「・・・・・大丈夫だよ。マイ」

そういって左手を差し出す。記録上、すでにないはずの腕は当たり前のようにそこにあった。マイもアンリも木札に記録された画像がなければ信じなかっただろう。だが、木札には左手が吹き飛んだ様子も青白い光を放つ八面体が取りつくように左腕を作っていった様子も記録されていた。医術が未発達なこの世界において体がほかの何かに置き換えられるという現象は想像以上の忌み嫌われるものだ。想像してほしい。義手や義足が当たり前にある時代においても腕を失い、義肢を当たり前のように受け入れることは相当なストレスとなるだろう。しかもここではそんな技術は存在さえしないのだ。ヒエンが隠したいと思うこともマイが自分を責めるのもこの時代ではきわめて常識的対応だといえる。ヒカルのように図太い対応はできないのだ。

「ごめんね・・・ヒエン」

「大丈夫だよ」

ヒエンはマイの震える背中を抱きしめて耳元で安心させるように言い続けた。



「ヒエン!!!・・・・おっとお邪魔だったわね」

そんな中いきなり乱入してきたのはアンリ、そしてその光景をみてすぐさま状況を盛大に勘違いし引っ込もうとした。

「ちょ、違いますよ」

慌てて声をかけるがまるで聞こえていないかのように去ろうとする。

「そうです。私と若はまだそんな関係じゃありません!!」

頭に血が上ったせいかすっかり元の調子を取り戻したマイ。

「へえ・・・まだね」

にやりと顔をゆがめるアンリと今度は違う意味で顔を赤くしたマイ。さすがにまずいと思ったのかヒエンは強引に話に割り込んだ。

「で、一体何の用です?」

「おっと、そうだったわ。ヒエンと・・・・マイちゃん・・だったわね。あなたにギルド幹部として正式に依頼するわ。遺跡の再調査をね」

!!

二人の間に電流が走った。

「ちょ、ちょっと待ってください!ヒエンはあそこで大怪我をしたんですよ!?こんなに早く再調査しなくたって!!」

マイは激情に駆られ、思いのまま言葉をぶつける。

「・・・・・マイの意見に賛成するわけではありませんが・・・」

マイが激情に駆られるのを見て幾分落ち着いたヒエンはそう前書きしたうえで

「こんな早期に調査する必要性が本当にあるのですか?遺跡の研究自体、長期で研究するテーマですし、踏破するだけでも時間がかかることは皆承知しているはずです」

だいぶ理知的な反論であった。これは真実の目に所属しているものならだれもが知っている基本事項だ。

「そういう反論があるのは分っていたわ。それでも、私は早期に再調査するべきだと判断したのよ」

「なぜ!」「なんでなんです!!」

ヒエンとマイは語気を強めて迫った。そして

「・・・・あの八面体は元からあそこにあったわけではないわ・・・・・誰かが後からおいたものだからよ」

「そんな馬鹿な・・!!」

ヒエンは驚きを隠せなかった。あの八面体の正体は分らないもののかなり高度な技術、はっきり言えば神話や伝説の時代と呼ばれる人類の黄金期の技術でなければ作れない物であることは明らかであったからだ。

「ありえません!あれほどの物を作れる者が今の世にいるはずは・・・」

「そうよ」

ヒエンの当たり前の反論を止めたアンリは

「あれほどの物・・・例え、私たちでも作れるかどうか怪しいわね・・・でもね、持ってくることは可能だと思うの」

!!

ヒエンとマイに再び電流が走った。確かに遺跡にあったとはいえ誰かが後からおいた可能性は十分にある。

「ですが、一体、だれが?母が入植を始めるまで何十年も無人の荒野だったのですよ?」

そうなのだ。もし誰かが置いたのならそれは入植者という可能性が最も高い。だが、一般の入植者はあれほど遠い場所には行かないし、それ以前にあれほどの物を持っていて誰にも気づかれないはずはない。

「・・・・それは、あなたの母上に聞かなければならないでしょうね・・・教えてくれませんか?伯爵閣下」

アンリが振り返るとそこにはヒカルが申し訳なさそうに立っていた。

「立ち聞きするつもりはなかったんだけどね」

「いえ、手間が省けましたよ」

アンリはにこやかに答えた。そして

「ついでにそこで立ち聞きされている方も待って上げますから早く主人を読んでらっしゃい」

今度もにこやかや様子で言った。

「・・・・よく気づいたな」

若干、呆れ気味なヒカル。どうやら彼女も気づいていたらしい。一方、ヒエンとマイはわけがわからず、ヒカルよりまだまだだねとお小言を頂戴していた。



しばらくしてやって来たのは一番、地位の高いはずだが最近はもっぱら事務屋と化したロゼッタ帝国皇女であった。

「・・・・・・無礼はお詫びしますわ。真実の目 12使徒のアンリさん」

ほうと驚いたように

「良く調べてあるじゃないか」

とアンリが茶化すと

「ええ、周辺地域の王族、有力貴族、有力商人から国内の有力者やギルド幹部くらいなら顔と名前はほとんど把握していますから・・・・」

さすがのアンリもこの回答には絶句するしかなかった。



ゴホンとひどくわざとらしい咳をするとアンリはヒカルにここにいたはずの人物について話すように促した。

「別に隠していたわけじゃないさ」


頭をかきながら少し具合が悪そうに身じろぎしたが、皆の視線の圧力に屈したかのように語り始めた。

騙されて爵位持ちとなり、押しつけられた難民たちの様子。

はじめてきた東部辺境領の過酷さ。

出会った二匹の大型猫とそれを使役しているようだったレインと名乗る男。

そして契約。


「まあ、私が言うのもなんだが、酷く現実感がない話さ。自分で体験してなきゃとても人様に言える話じゃないさ」

苦笑しながら最後にこう締めくくったヒカルであったが、周りの反応は様々だ。

興味深そうに考え込むアンリ。

憧れの伯爵様の武勇伝に目を輝かせるマイ。

左腕を擦りながら思考の海に沈むヒエン。そして

「破廉恥な!!」

怒りをあらわにするロゼッタ。皇族としての意識が棄民という政策に酷く憤りを感じているようだ。

「ですが・・・・何者ですの?」

憤りを感じているもののやはり謎の男には興味があるようだった。

「さあ・・・・・今までずっと考えてきたけどね・・・それこそ同族のアンリ様に教えていただきたいもんだね」

彼について分っていることの一つが精霊族であることだ。ならば同族のアンリが何か知っていてもおかしくないと、そう話を向けられたアンリではあったがそのパスを完全にスルーして何かに気付いたのか顔色をどんどんと青くしていった。

「?どうしたんだい?大丈夫かい?」

ヒカルはその様子に気づき声をかけるが返って来たのは

「・・・・ありえないありえないありえない・・・」

ぶつぶつとまるで呪詛のようなつぶやきだった。

「おい!!あんた!大丈夫かい!!」

ヒカルが強くアンリの肩をゆする。

「あり得ないじゃない!!!レインはうちの初代族長!!始祖精霊様よ!!」

もうすでに歴史の彼方に消えたはずの始祖精霊が再び歴史の表舞台に返り咲いた瞬間であった。


同時刻 旧氷原国


「へ、ヘックション!!誰か噂していますね」

偉大なと形容されるはずの男は意外とベタなことをやっていた。


暑さに負けております。熊谷の人はどうやって耐えているのでしょうね?

適当な更新が続いています。仕事は少し暇になったのに何故か暇ができません。謎だ。

誤字脱字感想はいつでも受け付けております。よろしくお願いします。

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