動かされる辺境領
それは当然であった。彼らにとって貴族とは敵対者、現場と上層部では多少の見解の違いはあるがその一点だけは共通して見解だったからだ。彼らにとって貴族は重い税は課すくせに何も行わない権限だけは持っている盗賊と同義であった。
「もちろん高野ヒカル辺境伯爵と組むのは貴族たちの既得権益を認めることにはならない、ということもあります」
それを聞いた幹部は意味が分からないとばかりに首をひねる。
「彼女の領地はいまだ発展途上です。しかも彼女は帝国史上初めての新興貴族。血縁ではなく実力で貴族となった者になります。その結果、既存の貴族勢力とは事実上の敵対関係。しかもその成立経緯からも高野ヒカルは貴族勢力を憎んでさえいます。敵の敵は味方・・・しかも彼女のもとにはどうやら行方不明だった第三皇女ロゼッタ姫がいるようで・・・」
「大義名分と勢力拡大の両方が手に入るというわけか!!」
理解の表情が広がっている中、最後のセリフを取られたオリゼは2,3度、瞬きをして
「・・・そういうことです」
と何とか言葉をつないだ。しかし、理解が広がっていくにつれ何人かの幹部が怪訝な顔をして
「しかし、上層部はそれを認めるのか?こういっちゃなんだが、彼らは利がなければそれを是とはしないだろう」
帝国は貴族の連合という側面もある。ある程度、独立性を持った貴族領とそれらを統治する皇族、それぞれがそれぞれの思惑で法や制度を作るため、彼らにはかなり強い既得権益、領内の独自税や関税、独自のローカルルールなど、こと交易に関してはこれほどやりにくいことはない。
「ええ、ですから彼らを説得する材料を得るためにあなた方に工作を。と、お願いしてしているんです」
そしてオリゼは語る。そして彼ら幹部の間には様々な思惑が交錯したが、結局、指揮官たるオリゼの思惑通りに進むのであった。
帝国暦293年12月2日 東部辺境領
高野ヒエンは長く寝たきり生活でなまった体を治すべく日々訓練に明け暮れていた。
「398、399・・・400!!」
ムキムキの腹筋を見せつけるようにほぼ逆立ち状態での腹筋を半裸で行っていた。
「ほら、あと100回!」
完全にドSモードに入ったマイ。容赦ない無茶ぶりは確実にヒエンのライフを削っていった。
「お、お前~~!!さっきも、そういって・・・たじゃ・・ないか!!」
さすがに息の切れてきたヒエンは息も絶え絶えに文句を言うが、
「え?なあに?」
マイにはまったく届かなかった。とそこに
「若~~~!」
遠くから一人の老士が走ってきた。見ると町を警備する兵士、オッド爺さんであった。
「おう!オッドじいさん!いったいどうしたんだ」
「あ!ヒエン」
これ幸いと逆立ちをやめるヒエンとそれを不満そうに見つめるマイ。そこに息を切らしたオッド爺さんが駆け込んできた。
「わ、若・・え、エルフが、エルフが街に!!」
「「!!」」
緊張が二人を包む。この辺境領はエルフの国“森林国”と国境を接している地域。しかもエルフは森林国などの国からあまり出てこない。このことからヒエンとマイの脳裏にはエルフの侵攻の二文字が点滅する。
「マイ!すぐに屋敷に知らせろ!オッド爺さん!すまないがすぐ戻って巡回している兵を集めてくれ!」
そう指示を出すとヒエンはわきに立てかけてあった剣を一本手に取ると
「俺はそのエルフを足止めしておく。その間に準備を頼む」
「ヒエン!!」「若!!」
二人が止める間もなく駈け出して行った。
地理不案内のなか、やっと人の町にたどり着いたエルフのアンリはこの状況に戸惑っていた。遠巻きに一重二重に包囲されていたからだ。とはいえその多くは明らかに腰が引けており強引に突破することは難しいことではない。
(こういう状況にならないと思ったから正面から来たのに・・・・)
アンリは自分のうかつさを呪った。町を発見した後もすぐには入らず、付近の様子や町の様子を慎重に観察を重ね、治安や言語に不自由はないと判断したからこそ正面から堂々と入ろうとしたのであるが、結果は大外れ、まるでアンリを歩く災害のように悲鳴を上げられ、すぐさま武装した町民や兵士にかこまれてしまったのである。
(これは・・・しばらく動かない方がよさそうね・・・)
ファーストコンタクトに失敗したとはいえ探検、探索を数多くこなしてきたギルド、真実の目 の重鎮。大胆かつ慎重な判断でアンリは事態の推移を見守る。もちろんそこには圧倒的な実力差があると確信していたからであるが、意外と早くその瞬間は来た。
「ちょっとどいてくれ!」
人垣をかき分けるように一人の半裸の男が剣を一本抱えて飛び出てきた。そして
「あんたが噂のエルフか・・・いったい何の用だ?」
鞘に入れたままの剣を向けながら恐れずそう言ってきたのは半裸のままのヒエンであった。そしてついにアンリがその口を開く。
「まずは服を着ろ!!」
意外と常識的だな~とその場にいた誰もが思った。いや、唯一一人、ヒエンだけが不満そうであった。
服を着させられたヒエンは何事もなかったかのように再び鞘に入れたあまの剣を向けながら
「あんたが噂のエルフか・・・いったい何の用だ?」
まったく同じセリフを吐いた。
まさかもう服を着ろとは言わないだろうと少し期待のこもった眼差しで群衆から見られたアンリは
「服を・・・着たな。私は真実の目のアンリと申す。この町の真実の目の団員に用があってきた。さあ!学と探究心を併せ持つ誇り高き我が団員よ!ここに出るがよい!!」
その瞬間、気まずい雰囲気が辺りを包む。そんな空気に不信を持ったのか、アンリは
「どうした?ここにはいないのか?ならば早く連れてくるがよい!」
ますます気まずい雰囲気が広がる。そして申し訳なさそうに視線が元裸族に集まった。
その視線を感じたのか、何度も目をしぼませながら
「ま、まさか・・・」
とアンリ。
剣を向けた格好のまま冷や汗をかいているヒエンは苦笑いを浮かべながら
「お、俺です・・・」
やっとこれだけいうことができた。次の瞬間
「う、嘘をつくなあああああああああああああああああああああ!!」
小柄な体躯と思えない絶叫が辺りに響いた。
「・・・・・すまんが、いったいこれはどういうことだ?誰か説明しな?」
武装した兵士を引き連れたヒカルが到着した時にはそこには腕を組んで起こっている様子のエルフ、アンリと、ザ・土下座中のヒエンの姿がそこにあった。
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