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策謀

翌日、朝から騒がしい伯爵家にあってその部屋だけは切り取られたように静かだった。その静かな空間で一人でいるロゼッタはいかにこの状況を脱しようかと思考の海にその身を漂わせていた。

帝国は今、北に藩王国ラニアと帝国自由都市フェザー、東に亜人国家、森林国、南には多くの国家と、西には列強と呼ばれるファランク王国と国境を接している。事実上、属国である北部は問題ないが、それ以外の国境は常にきな臭い状況にある。東部は事実上休戦状態ではあるが、帝国でも最強の城塞都市ゲイボルグによって鉄壁の防御態勢ができているとされている。一方、西部では長い時間をかけて作られた複数の城郭によって国境地帯に膨大な兵力が駐在しており、すぐさま国境を突破されることはない。問題は南部である。複雑な国境線と多発する反乱によって疲弊している。もともと多民族が住んでいた地域に帝国が無理やり進駐したのだ。反乱の芽に困ることがない。

この状況でもこれまでは問題なかった。圧倒的な軍事力と経済力でこれらを抑え込んでいた。ところが近年、その両方に陰りが見えてきた。結果、続発する反乱、その反乱に乗じた他国からの干渉。今、この国は崩壊の危機にある。もはやこの国は根本的な構造変化をしなければ遠からず滅びるだろう。いや、もしかしたらもう亡国の足音が響いているのかもしれない。

「私はまだ死にたくはないわ」

ロゼッタははっきり言ってヴェール帝国が滅びようとも関係ないのだが、もしここで滅びると彼女の前途はかなり悲惨なものになる。なぜなら今は戦国時代ともいえる戦乱の時代、敗れれば特に後見がいないロゼッタなどはいいように利用される、もしくは旧王族として処刑されるのが一般的だったからだ。

「最悪でも伯爵には後見になってもらわないと・・・」

高野ヒカル辺境伯爵がまったくの善意で味方に付くわけがない。お互いに利用し、利用される間柄になるだろう。彼女の姉と同じ条件だったにもかかわらずこうして現にここに置いているという事実から見てもヒカルには何らかの野心があるか、現状に不満があることは明白だ。そのためにも

(私が利用されるのに十分な力量があることを認めさせないと)

ロゼッタはそう思うともっと深い思考の海に沈み込んでいった。



朝食を食べ、昼食を食べ、食後の紅茶を楽しんでいるときついにやっと気が付いた。

「・・・・はっ!私、このまま放置ですか!?」

思考の海から抜け出すとロゼッタはすぐに行動を開始した。半端な行動力じゃこんな辺境に来れるわけじゃない。具体的には伯爵家のメイドらしき人物を捕まえると辺境伯爵の居場所を聞き出すと単身そこに乗り込んだ。

「・・・・ご機嫌いかがかしら?伯爵閣下!」

この世界の常識では身分が高いものをこんなに長時間放置しておくことは非礼だとされている。このことを暗に非難しているつもりであったが

「おや、皇女殿下。いや、元気そうで何よりだ。昨日はあんなに落ちこんでいたんでもう少し元気がないかと思っていたよ」

相手はそんなことは全く考えていなかったらしくまったく懲りていない。ロゼッタは少しわかるかわからないかくらいの溜息を付くとこの女傑にここはひとつ常識論を言ってやろうと見上げるともう去っているヒカル。どうやら早々にヒエンの見舞いに向かったようだ。そして部屋には早くも手持ち無沙汰なロゼッタひとり取り残されていた。




5分後、やっと放置いていたことを思い出したヒカルが部屋に戻った時にはすっかりご機嫌斜めなロゼッタそこにいた。

「いや・・なんというか、すまなかったね・・」

「いいえ、存在感が薄いのは自覚していますから!」

そう言って乱暴に入れられた紅茶を飲み干す。

「そういやそうだね。それで・・・・」

まさかの肯定に表情を強張らせるロゼッタ。しかし数秒後何とか持ち直し、

「ええ、今後の方針について考えがまとまりましたの」

それを聞いたヒカルはにやりと頬をゆがめた。

「話を聞こうじゃないか」

こうして何度目かの二人の対談が始まった


「私は帝国を滅ぼします」

「!!」

想像の斜め上を行く発言にさすがのヒカルも絶句した。

「私では現状の帝国の中枢に入り込むことはできませんし、例えできたとしても政権の非主流派になることは明白です。それなら現状の帝国を滅ぼし、新しく自分で作るしか自分が生き残る手段がありませんわ」

「・・・ほう。自分が生き残るためだけにずいぶん過激なことを言うわね。貴女にそんな力があるのかしら?」

「ええ!現状でも神輿としての価値は十分ありますし、反乱を起こしたバカ兄貴と死んだ弟に嫁いだ姉のおかげで皇位継承権がだいぶ上がりました」

現状を確認するようにゆっくりと語るロゼッタ。

「けれど力がなければ何も意味もないよ。お飾りの皇帝か、最悪、次の皇位継承者を生み出すために暗殺されるかもしれない。第一、あの第一皇女が簡単にくたばるタマかい」

今度はロゼッタの方がにやりと頬をゆがめた。

「何を言っているんです?姉には自主的に皇位を降りてもらうんですよ」

「!!」

その後、話は寝食忘れて次の朝まで続いた。そしてヒカルはロゼッタの後見になることを静かに宣言した。



後の歴史家はこの出来事からヴェール帝国第一次継承戦争が始まったというものもいる。この辺は議論の尽きないところではあるが、ただいえることは間違いなく歴史の転換点だということだけである。


同時刻 森林国国境地帯、またはヴェール帝国国境地帯


「ここが現地人の国か・・・」

そういった一人のエルフの目の前にはそれでも開発の進んでいない原野が広がっていた。


これで4万文字超えた。少しは読みごたえ出てきたでしょうか?やる気アップになりますので感想、評価 くれるとうれしいです

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