嵐の帰還
物語は少しさかのぼる。
「単刀直入に言いますと私の後ろ盾となってほしいのです」
そう真面目な顔をして頼み込んだ帝国第3皇女を前にしてヒカル女辺境伯爵は
「あははははははは!!」
爆笑した。
「・・・・・一体なにがおかしいんですの」
「あはははっ!!悪かったわね。でも、ふふっ、私に後ろ盾、ねえ」
少しご立腹の皇女殿下と笑い転げている女辺境伯爵。
「・・・・実を申しますと帝国は厄介な状況に落ちいっています」
「ふふっ、今に始まったことじゃないだろうさ。いまさら厄介事の一つや二つ」
「ええ、本来ならそれでいいんですが今回は・・・・」
「おや?帝国があぶないって?それこそこんな辺境に来ずに帝都に行った方がいいだろうさ」
「残念ですがそれはできません」
「どうしてさ?」
「私の命がかかっておりますもの」
「結局、自分の命が大切ってことじゃないの」
「いいえ、ただ、結果的に自分の命も助かる方がいいにきまっているだけです」
「ふふっ、それじゃあ・・・・」
「団長!!団長!!」
会見は突然の乱入者で中断を余儀なくされた。
「・・・・うるさいわね、一体何事だ?」
「ああ、団長!!そこにいましたか。大変です、ともかく大変なんです」
「落ち着きなさい。息を吸って~吐いて~。どう、落ち着いた?一体何がどうしたっていうの?」
「はい、若が大怪我を!」
「な!!ど、どこにいる!!」
「東門の方です」
「わかった!!」
あっという間に部屋を飛び出してゆく。後には一瞬で忘れられたロゼッタ姫が一人ポツンと取り残された。
「・・・・・・これからどうしましょう?」
まだまだ苦難が続きそうな予感。
東門にはすでに人だかりができていた。まだ辺境領そのものに病院などの医療設備がなく簡易的な応急処置や民間療法しかない。魔術師のじぃさんが回復魔法をかけているその場でばぁさんが薬湯を飲ませ、近所の主婦たちが手慣れた手つきで包帯を巻きなおした。
「ヒエン~、ヒエン~」
泣き崩れたマイは必死にヒエンの体を擦りながら名前を連呼している。
「退けぃ!どうだ?ヒエンの容体は!?」
「!!!伯爵様」
慌てて土下座をするマイ。
「申し訳ございません!私が付いていながら・・・」
「よい。それより容体は?」
「・・はい。身体的には問題ございません。ただ、遺跡からここまでの6日ばかり水とそれに溶かし込んだ小麦や塩しか飲んでおりません。衰弱しておいでです」
「なぜ、意識がない?」
「・・・・ワイバーンと単騎で戦った後遺症かもしれません」
「単騎で小型竜を?」
「・・・・・・はい」
「・・そうか、マイすまなかったな。こんな無茶なことに付きあわせて・・・」
「!!いえ、いえ、私に少し勇気が・・・・あれ・・・ば・・・」
再び泣きじゃくるマイ。
「よい、済んだことだ。誰かヒエンを屋敷の方へ頼む・・・。」
「「「はっ」」」
きび返すヒカル、表情や仕草は一見何の動揺もしていないように見えたが、わずかに手が震えている。
「団長、だいぶ動揺しとりましたなぁ」
「ああ、あれでも情に厚い人ですからな」
さすがに付き合いの長い元傭兵団員にはもろばれだった。
ヒカルはどうやって屋敷に帰ったか全く覚えていない。気づくと戻っていたというのが実情である。見ると右手がわずかに震えているのに気付いた。
「くっ!!」
適当に壁を殴ると鈍い感触で手の震えが治まる。
「情けない・・・・」
今まで多くの同胞の死を見てきた。戦死であったり事故であったり、モンスターに襲われたこともあれば野盗に不意を突かれ殺された者もいる。多くの死をみとって来たのにまだ死んでもいない者にここまで心を掻き乱されるとは・・・・
「・・・あの、ちょっとよろしいですか?」
気づくと背後にほっぽりだしていた姫様が立っていた。
「!!すまないね、急に居なくなってしまって」
「いいえ、子供をいつくしむことができるのは素敵なことだと思います」
そう言えば第3皇女はあまり家族に恵まれていないことを思い出した。父親にはあまり相手にされず母や祖父母はすでに他界、異母兄弟姉妹は足を引っ張り合う仲、少なくとも幸福ではなかろう。たが、不幸でもないと言える、腐っても帝国皇族なのだから。
「・・・・そうだね。で、どういう話だったかね?」
「ええ、私の後ろ盾になってというお話ですわ」
「つまり、私には何のメリットもない話ってことね」
「ええ!!」
「つまらない帝位争いに巻き込まれろって、冗談ではないわ!こっちは腐っても元傭兵よ!そんな無駄なことになんで私が乗らなくちゃいけないの」
「もちろんメリットはあります!!タダでやれなんて!!少なくとも私は文吝ではありません!」
何やら自信満々の様子で胸を張っている。
「そこまで言うなら期待させてもらうわ。で、一体何かしら?」
ニヤッと口角だけ動かして笑みを作る。
「ええ、まずは砲兵都市ゲイボルグの割譲です」
どうだと言わんばかりに腕を組み、胸を張る。
「悪くはないけどそれだけじゃ弱いわね」
「もちろんです。さらに私はあなたを王に任命します。つまり辺境伯爵領は強化され、東部藩王国となるのです」
これでどうだという目付きで さあ、私の足にキスしたくなったでしょう と訴えていた。
「ふ~ん。目新しさはないわね」
書類入れから一枚の紙を取り出しそして見せる。
「・・・・え」
そこには先ほど言った条件がすべて書かれていた。宛名は
「姉様・・・」
「もう少し頑張りましょう、ってことかしら」
ロゼッタ第3皇女はかなり衝撃を受けたらしくがくがくと震えだし、そのまま床にへたりこんだ。
「信じられない・・・・」
ロゼッタの受けた衝撃は絶大であったようだ。想像以上に第1皇女の知恵はよくまわり、絶対眼中にないと思っていた勢力にまで手をまわしていたのである。
「・・・・・今日はここまでにしましょう。お互い、ショックを受けすぎてまともな交渉にはならないわ。大丈夫、安心して今のところ、うちらは中立だから」
「・・・少し頭を冷やしてきます」
こうして2度目の会談は終了した。
私はどこか見覚えがある風景の中にいた。暗く、静かで時折、赤いランプの光がゆっくりと点灯している。よく見ると二人の男が立っていた。言い争っているように見える。
「きさ・・・・・・・!か・にでもな・・・・・・・・・」
「そう・・・・・・ない。こ・・・・・・は・・・つ」
男たちが何を言っているのか聞き取れない。
『パン!!!』
乾いた銃声が響き
「うううっ!!」
「!!若!!よかった意識が戻ったんですね!!ほんとどうなるかと思いました!!」
目に涙を浮かべたメイドさんが立っている。マイだ。
「ここは?」
「御屋敷です。もう、3日も目を覚まさなかったんですよ。もう二度と目を覚まさないんじゃないかって・・・もう・・・・・・」
「心配してくれてありがとう。」
「ほんとうによかった・・・・あ、伯爵様にもお知らせしてきます」
「頼むよ」
向こうへ駆けていくマイを見ながらこれまでのことを反芻してみる。遺跡に行き、飛竜に襲われ、左手を失い・・・・・・。
ふと、自分の左手を見ながら
「・・・・・・・あれ?」
もう一度記憶をたどってみる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
左手を動かしてみる。
・・・・・・・・・ちゃんと思い通りに動く。
「・・・・・・・・・え?」
しっかりと元通りの左手がそこにあり、自分の思い通りに動く。あの時、確かに失ったはずの左手がちゃんとある。
混乱した。じっと左手をながめながら時折動かしたり触ったり、確かにそこに左手はあった。
「ヒエン!!」
突然呼びかけられたことに一瞬にして私は現実に引き戻された。
「・・・・良かった・・・・本当に・・・・・」
みるとヒカルが涙を浮かべながら覆いかぶさるように抱きついてきた。
「・・・母さん」
「本当に心配したんだから・・・・・」
ベキベキボキ
見事なサバ折りをくらいながら私はツンデレってこういうことじゃないかな~と他人事のように思いながら意識を失った。
「は、伯爵様!?やりすぎです!ヒエンが泡を吹いてます!死んじゃいます!!」
「うん?あ、そ、そうか・・・スキンシップのつもりだったのだが・・・」
「やりすぎです。もう、加減を知らないんですから・・・・・・」
ああ、分った分った。私は裏にひっこんでおくよ」
「はい、そうしてください」
「・・・・はっきりいうな~」
ぼりぼりと頭を掻きながら退散するヒカル、しかしその顔は愛する我が子の生還を心から喜ぶ人の親の表情が広がっていた。
「・・・・」
その顔をうらやましそうに見ている帝国皇女がいた。
なんかまとまりません。気合が入るので評価、感想お願いします。
前半が読みにくいと指摘があったので訂正作業を行います。




