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領民軍

帝国中央から反乱軍と呼ばれているがその実は雑多なさまざまな勢力が入り乱れた連合軍なのである。第2皇子とラーマ神聖国、ルクソン聖教徒の連合、自称、正統帝軍、帝国に滅ぼされた国の旧臣や地方豪族からなる百鬼軍、野盗、無法者、ゴロツキが集まった黒旗軍、そして帝国の圧政に耐えかねた領民軍などである。それぞれが自分の領地や勢力を保持しようと勝手に帝国やその他の勢力と争っているため圧倒的であるはずの帝国軍もうかつに手が出せなくなっている。現在の勢力比は帝国15に対し正統帝軍5、百鬼軍2、黒旗1、領民軍1と本来は帝国に敵対する諸勢力が連合しても帝国には及ばず圧倒されるはずがかえってバラバラに戦っているので膠着状態になっているとは皮肉な話である。

「この戦、負けてんじゃねーか?」

そんなことを言い出したのは2mに迫ろうかという大男、黒旗軍の親分衆の一人である 熊のダイズ こと、ダイズ・ソーイである。

「そんなことはないです。これはむしろ好都合というものです」

そう答えたのは領民軍の総大将で元カラム村長 オリゼ・アスピルである。まだ30代と若いが高い学識と実務能力にたけた人物である。

「では、熊の親分、あと一刻で西門が開きます。そしたら突撃して帝国の奴らを締め出してください。あ、あと逃げる兵士は無視してできるだけ指揮官みたいな偉そうな奴を仕留めてください。住民には手をださないようにお願いします。」

「おお!任せとけ!でも、約束は守ってもらうぞ!もし破ったら・・」

「分ってます、分ってます。ダイズの親分にはむかう命知らずじゃありませんよ。私は・・・」「そうかそうか、分っているならいい!」

「ええ、本当にお願いしますよ。親分でしかできないことですから・・・」

「おう!」

彼らが見つめる先にはトレカの町が広がっていた。



「おおい、交代だ」

トレカの西門に10名の侯爵家私兵の格好をした兵士たちが現れた。

「交代?聞いてないぞ?」

駐留軍の部隊長は首をひねった。

「ああ、突然隊長がやってきてな。私兵が働いているところを見せておきたいらしいぜ。まったくお偉いさんは何考えているんやら・・・」

それはお前らがはめ外しすぎたからだ、と言いたいのをぐっとこらえて

「まったくだ」

というにとどめた。実際、街中でどんちゃん騒ぎされてイライラさせられてたところだ。今度は自分たちがそうしてやろうと部下たちに交代するように伝え、去って行った。しばらく真面目な振りをしていた私兵は辺りに人の気配がないことを確認するとおもむろに門を開け出した。少し鈍い音を響かせながら門は開いてゆく。彼らは侯爵の私兵でもなければ黒旗軍の兵でもない。領民軍がひそかに潜入させた兵士たちである。私兵にたらふく酒を飲ませるなどして手に入れた軍服に身を固めて堂々と西門を占拠したのである。

「進め!!進め!!突撃!!」

「「「おおおおお」」」

開いた門から2mの大男と9000人の黒旗・領民連合軍が突撃してきた。

「なんだ?何だ?」

「敵襲!!敵襲!!」

「ん?訓練か?」

「本当に敵がきた!!」

「逃げろ~」

状況がつかめていない者、大声で状況を伝えようとする者、逃げ出す者・・・・。混乱は瞬く間に広がっていく。

ムダロ侯爵が深い眠りから叩き起こされたのは門が開かれてから半時が過ぎようとしていたときであった。

「閣下!敵襲です!!」

「・・・・・・・・・」

「閣下!!」

茫然としていたムダロ侯爵ははっと気がつくと

「馬鹿な敵も居たもんだ。倍の敵に突っ込んでくるのだからな。さっさと撃退しろ。こんなことくらいで私を起こすな!」

急速に不機嫌になりながら再びベットに入ろうとする。

「閣下!!違います!!味方は総崩れ!落城寸前です!!早くお逃げを!!」

「馬鹿な!!何を言っている」

すばやくテラスから城下を見下ろす。すると真っ赤に燃えあがる厩舎、兵舎、見張り塔や一部の倉庫が眼に入った。いや実際には大量の煙をである。

「・・・・・・ばかな・・・・」

敵の倍の兵力、強固な城塞にこもるだけで絶対負けないはずの戦いで無様に負ける?あり得ない。あり得ないが現実である。

「すぐに撤退、いや、転進!北に敵を誘い出し味方と合流の後、包囲殲滅するのだ」

「はっ!」

ムダロ侯爵はきっと言葉遊びが得意なのであろう。撤退を転進と呼び、おそらく敗北を勝利と言い換えることもできる人物に違いない。

結局、ムダロ侯爵と無事に転進できたのは300騎あまりに過ぎなかった。残りは脱走したか殺されたかあるいは降伏したのであろう。しかし、トレカの町に集積した補給物資はほぼそのまま町に残っており、反乱軍の貴重な財産となることは明白であった。

「がははは!オリゼ。てめーとくんでよかったぜ!見ろよ。金貨銀貨銅貨ちゃんだ」

パンパンに詰まった金貨銀貨銅貨の箱を並べながらダイズは悦に入っていた。

「いえいえ、これも親分さんのお陰ですよ」

オリゼは言う。領主軍は規模が大きくても武闘派は極めて少数。親分さんみたいな先陣を切るタイプの猛将が居ないと効率的な攻撃ができないんですよと。

これはこの時代の社会背景がある。基本的に農民は学問や武道を習うことが許されていないし彼らもそれが必要だと思っていなかった。さらに今回は本来彼らが率いる地方豪族が百鬼軍と合流してしまい彼らは耐え忍ぶか自ら反撃にでるかの選択が迫られたのである。多くは耐え忍ぶ道を選んだが一部が蜂起、領民軍と呼称し数度の勝利の後、飛躍的に勢力を伸ばした。が、彼らは所詮、学も武力もまた拠点も乏しい農民軍である。オリゼが指揮する軍団以外はそのままゲリラとして活動するか各町に潜伏して指示待ちの状態である。つまり現状は深刻な人材不足。オリゼもなんとか有力な拠点を持ち、人材を収集しやすく、さらに長期の戦略を打ち立てたかったのである。しかし、

「・・・・・・・・・いませんね」

戦乱による混乱が尾を引いている帝国南部はそもそも人材が少ない。しかも諸勢力が多く、すでにめぼしい人材は残ってはいなかった。

「金もないですしね・・・・・」

トレカの町の倉庫に蓄えられていた金品の多くはダイズとその配下の黒旗軍に多くを分け与えざる得なかった。結果、十分な報酬も期待できず、反乱勢力中最弱の領民軍に参加しようという知識人は居なかったのである。

「・・・・・とりあえず拠点は持てましたし、少しでも状況が良くなるまで耐えてゆきましょう」

そう言うと矢継ぎ早に指示をだし、少しでもいい時節になるよう祈るオリゼであった。



同時刻 森林国中央部

森林国は大きな国であったが街道の未整備、さらに大きな河川が少なく海にも面していないため交通の便という意味では最悪な国であった。ではエルフたちはどうやって行き来しているのか?答えは二本足で移動する小型の竜 走竜 を馬のように飼いならし騎獣として利用していたからである。

「ハイヤッ!」

一匹の騎獣に一人のエルフの女、通常エルフ族をはじめ精霊族はほとんど自分たちの土地から離れない。それがいま現に北西に向かって爆走している。あと1週間ほど進めば帝国辺境領、すなわち高野ヒカルの領土である。


少し短めです。

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