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ガーディアン  作者: 閃天
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第八十八話 守と愛と

 眩い光りと轟々しい雷鳴。

 その後、一瞬静寂が生まれる。静寂と言うより間が空いたと言うべきなのだろうが、その一瞬が近くに居た守に長く感じた。まるで時が止まった様にも感じた。

 だが、時は動き出す。豪快な爆音と衝撃、粉々の土屑を周囲へと広げながら。

 目の前を飛び交う様々な塵がスローに映る。その中に一つの影が見えた。それは、美しく煌びやかな銀髪を揺らす、少し大人びた少女の様な顔付きの女性だった。一瞬目を疑う守は「エッ」と、小さく声を上げ右手で目を擦る。だが、それは錯覚ではなく、間違いなく綺麗な女性だった。


「エッ、エッ、エェェッ!」


 驚き声を上げる守はその女性を、咄嗟に受け止め様と両手を広げた。その時、小さく「あっ」と、女性が声を上げ、守の顔面に右膝が減り込んだ。重心が後方へと傾き、守の体が仰向けに倒された。


『ま、守! 大丈夫か!』

「はう〜っ……だ……い……」


 そこまで言って守は力尽きた。鼻から血を流して。

 意識を失い数分、守が目を覚ますと銀色の髪を垂らした女性が、顔を覗き込んでいた。何かを言おうと思うが、あまりに顔が近過ぎて頭が働かない。逆に恥ずかしさに顔が真っ赤に染まる。

 慌てて口をパクパクしていると、女性の潤んだ唇から吐息が漏れ、か細い声が耳に届いた。


「貴方が火野守……ですね?」

「あ、あの、その〜……」

「どうかしましたか? 顔が赤いようですが」

『顔が近いんだよ』


 守の変わりにフロードスクウェアがそう言うと、女性は「そうですか」と呟き顔を離す。上半身を起き上がらせ、心を静める様に深く息を吐き出す。女性にあそこまで顔を接近させられたのは初めてで、心臓が鼓動を早めていた。

 うろたえる守を見据える女性は、不思議そうに小首を傾げる。何故、守があんなにうろたえているのか、分からなかったからだ。

 女性に背を向けたまま、深呼吸を続ける守は、胸元で揺れる剣のネックレスを握り小さな声で言う。


「ま、まずいですよ! この人――じゃない。彼女、五大鬼獣ですよ!」

『何だ。気付いてたのか。お前にしては珍しいな。何か感じたのか?』

「感じたってもんじゃないですよ! やばいですって!」


 やけに興奮気味の守。あの女性から何かを感じ取った様だ。その成長に僅かながら喜びを感じるフロードスクウェアだったが、それとは裏腹に守が両手をジタバタとさせながら何やら意味不明な言葉を発していた。


「あの――が――で――」


 わけの分からない言葉を発し続ける守。何かを伝え様としている様だが、イマイチフロードスクウェアには伝わっていなかった。

 様子を窺っている女性は、守の行動をジッと見つめ、時折悩ましい吐息を漏らす。その吐息が、更に守を追い詰めていく。

 そんな守に代わり、落ち着いた口調でフロードスクウェアが口を開いた。


『それで、どういうつもりだ?』

「なんです? その突然の物言いは」


 わけが分からないと言う感じで首を左右に振った。全く戦意を感じさせない彼女に対し、強い警戒心を向けるフロードスクウェア。幾ら戦意をみせないからと言って、油断するわけには行かないのだ。パートナーを危険から護る事も、サポートアームズとしての使命だからだ。

 フロードスクウェアの放つ強い殺気に、女性はもの悲しげな瞳を向ける。その目がフロードスクウェアに訴えかける。『何故、敵意を向けるのか』と。

 沈黙する両者。そこで、ようやく守がちゃんとした言葉を発した。


「す、すいませんでした!」


 突然の土下座。それは、とても素早く綺麗な土下座だった。呆気に取られるフロードスクウェアは言葉を失い、女性の方は微かながら戸惑っている様だったが、すぐに小首を傾げ怪訝そうに問う。


「何故、謝るのですか?」

「そ、それは……その――そう! 取り乱してしまって!」

『何だそれりゃ……。まぁいい。とりあえず、話をしろ。戦意が無いと言う事は、何か話があるのだろ?』


 守の馬鹿さ加減にいつものフロードスクウェアらしく、そう述べる。コクリと僅かに頷く女性は、小さく息を吐いてからゆっくりと言葉を選ぶように語りだす。


「貴方はアレを知っていますか?」


 アレと問われ首を傾げる。それが、普通の反応だった。もちろん、フロードスクウェアも何の事だかサッパリ分かって居らず、苛立った声で、


『話をする気があるのか?』

「えぇ。そのつもりです」


 相変わらず考えの読めない表情。それでも、時折見せる人間の様な穏やかな目が、守を真っ直ぐに見据える。

 その瞳を見据え、ふと何かを思い出し、腕を組み考え込む。静かな時間が過ぎ、守の唸り声だけが聞こえる。フロードスクウェアはこんな時の守の勘の鋭さを知っているから、女性の方はフロードスクウェアの適合者である守の力量を見定める為。理由は様々だが、取る行動は一つ。見守るだけだった。

 と、そこで草がざわめき、同時にフロードスクウェアが具現化される。切っ先が女性の顔の横を過ぎ、冷気が銀髪の髪を撫でた。刃が僅かに凍り付き、『冷たいだろ!』とフロードスクウェアが声を上げるが、それを無視して女性の視線が、自分に向って敵意を向ける相手へと向けられた。


「ハァ…ハァ……。クッ……なんで……なんで……」


 苦しそうに呼吸をする愛が、鋭い眼差しを守に向ける。右手に握られた蒼い銃から煙硝が上がり、右目が青白い光りを纏う。


『邪魔すんじゃねぇよ』


 幼い子供の声が聞こえ、愛の右目の光りが消える。

 穏やかな笑みを向ける守は、フロードスクウェアの具現化を解く。それは敵意が無いと言う事を証明する為に行った行為だったが、愛にはそう見えなった。


「フッ……フフフッ……。私じゃ相手にならないって言いたいわけ……」

「いや、そうじゃなくてですね」

「なら、具現化しなさい。そして、ソイツを護ればいいじゃない!」


 銃声が轟き、銃口から弾丸が放たれた。弾丸は真っ直ぐに女性の額に向うが、女性は全く反応を示さない。気付いていないわけじゃない。むしろ、気付いているからこそ、その場を動かずただ愛を見据える。

 全てが静まり返り、氷が砕ける音と共に血飛沫が舞う。血が凍り、結晶となり地面に散乱していた。

 呼吸を荒げる愛は奥歯を噛み締め、怒りに満ちた目を真っ直ぐに向ける。その矛先は女性の前に立つ守にだった。左脇腹から出血したのか、衣服に血液が染み出していた。服の裾は凍りつき、流れる血がそれを溶かして地上へ落ちる。

 苦痛に表情を歪める守は、右手で傷口を押さえながらも、穏やかに笑みを見せ様と、無理に笑い愛に言葉を投げかける。


「て、敵意は……ないんですよ……。まずは……話を聞きま……しょ」


 その守の態度が愛には不快だったのか、更に目付きが鋭くなり、右手に握った銃の銃口に青白い光りを集める。


「鬼獣なんか庇って……。それで、私が諦めるとでも思うわけ? 馬鹿じゃねぇの」


 今にも引き金を引いてしまいそうな勢いの愛に、守は苦悶の表情を浮かべる。


『どうするつもりだ? 次のはヤバそうだぞ』

「分かってますよ。でも……」

「私なら大丈夫です。貴方に庇ってもらわなくても」


 女性がそう述べると、守が僅かに笑った気がした。それに首を傾げる女性に対し、フロードスクウェアの声が聞こえる。


『別にお前の為にやってるんじゃない』

「それじゃあ、何の為に?」

『あの娘の為だろ?』

「気付いてたんですか?」

『コイツの勘と判断力は他の誰よりも優れている』


 自慢話をする様なフロードスクウェアに対し、呆れた様にため息を漏らした女性は、静かに呟く。「勘ですか?」と。その言葉にフロードスクウェアも『ああ。勘だ』と恥ずかしそうに答えた。

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