表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーディアン  作者: 閃天
87/101

第八十六話 雷鳴と火炎

 静かな翼の羽ばたきと共に、青桜学園上空に一つの陰が現れる。白銀の羽の一枚一枚が美しく、不気味な輝きを見せていた。

 不適な笑みを浮かべ、青桜学園を眺める陰は静かに「フフフフッ」と笑い、ゆっくりと屋上へと降り立つ。金色の髪が揺れ、翼が弾ける様にして消えた。


「ここに、存在する」

『けど、まだ力が弱いわ』

「まだ、目覚めてないのだろう。まぁ、力ずくでも目覚めさせるけどね」


 穏やかに笑みを浮かべる。だが、その笑みの裏に見え隠れする憎しみ。

 周囲の騒がしさとは裏腹に、静まり返った青桜学園内。ここだけ何かに守られている。そんな感じさえする。亀裂の入った屋上の床を見つけ、不気味に笑う。


「ここに五大鬼獣も来てたみたいだね。でも、あれの存在には気付かなかった様だ」

『その様ですね』

「まぁ、俺達以外が気付く事は無いさ。さぁ、回収するぞ」


 そう延べ、足を進める。青桜学園に在る何かを回収する為に。



 地面が砕け、黒煙が上る。周囲に漂う焦げ臭い。地面を抉った跡が確りと残り、僅かに火の粉が周囲に散ばっていた。吹き抜ける風が黒煙を払い、その中から一つの影をあらわにする。

 弾ける雷撃。静かなる殺気が感じられる。

 重々しく体を動かした火猿は、ただならぬ殺気に威嚇する様に毛を逆立てる。本能がそうさせたのだ。自分と同等か、それ以上の力を瞬間的に感じ取り、それがそうさせたのだろう。

 全身の毛が炎と化し、火猿の体を炎が包む。鋭い眼差しだけを黒煙の向こうに居る人物へと向け、咆哮を轟かせた。衝撃が広がり、足元の地面が割れ、破片が飛ぶ。

 その光景を見据え静かに笑う。そして、低く渋い声は火猿の咆哮の中でも、ハッキリとした声でその場に居た者の頭に入り込んだ。


「五大鬼獣が聞いて呆れるな」

「貴様……。低級鬼獣じゃねぇな」

「何を言う。自分の目が信じられないのか?」


 ジリッと右前足を前に出し、色鮮やかな青白い毛が美しく靡き、毛先で電撃が弾けた。赤黒い目がゆっくりと火猿の方へと向けられ、口元に僅かに笑みが浮かぶ。深い傷痕の残る体に、どれ程の雷を帯電しているのか分からないが、毛と言う毛が光りを放つ様に煌びやかに輝きだす。

 地面に突き刺さるフロードスクウェアは、その眩い光りを以前にも記憶していた。いつ、どこで見たかは、ハッキリと覚えていないが、その美しい輝きと対峙し衝突した経験だけはハッキリと残っていた。


『な……なんだ……。一体……』


 困惑するフロードスクウェア。そんなフロードスクウェアの柄を弱々しくも握った守は、まだクラクラする頭を振り狼電の方へと目を向けた。鮮やかで美しい輝きを放つ狼電に目を奪われそうになるが、それに絶え静かに口を開く。


「ハァ…ハァ……。ろう……でん……。お前――」

「喋るな。今は体力の回復に専念しろ」

「分かってる……でも――」

「いいか、今の俺にコイツを倒す力は無い。かと言って、お前やそこの小娘をここで死なせるには惜しい。特にお前はな」


 意味深な言葉を発する狼電は、静かに息を吐き出し、火猿を威嚇する様に牙をむき出しにする。その行為が僅かに火猿を後退りさせた。

 右足を痛めたのか、歩き方がぎこちない守は、狼電の側まで足を進め、火猿の方へと目を向ける。激しく燃え上がる火猿の体から発せられる高温の熱が、その背後の風景を歪んでみせていた。桁違いの迫力に呑み込まれそうになる守は、ギリギリの位置で自我を保つ。これ以上踏み込めば、狼電と火猿の放つ重圧に押し潰されてしまうと、本能的に感じていたのだろう。

 何とか冷静さと判断力を保っている守は、背後に倒れるまなに目を向ける。意識を失ったままだ。外傷は無いが、これ以上この場に居させるのは危険だ、と判断し、奥歯を噛み締める。その守の気持ちを悟った様に狼電は低音の声を発する。


「俺が奴の気を逸らしてやる。その間に、あの小娘を連れてここを離れろ」

「な、何言ってるんですか! それじゃあ――」

「俺は一度契約した。契約者を守る事が、契約した鬼獣のあり方だ」

「それは残念です。俺は、あなたの契約者じゃない」


 気持ちとは裏腹に強気な言葉を吐く。精一杯強がって見せるが、狼電は変わらぬ口調で告げる。


「策はある。奴を倒す事は出来無いが、深手を負わす事は可能だ」

「可能性があるならやりますけど……。俺は思うんです。そこまで、期待されても――」

「お前、気づいて無いのか……。まぁいい。それより、早くここを離れろ。巻き添え食らって死ぬぞ」


 何処か余裕のある笑みを浮かべて見せた狼電は、「行け」と守を鼓舞し、地を蹴る。地面が砕け、青白い閃光と残像を残す。残像はすぐに消え、雷鳴が轟き衝撃が爆音と共に広がった。土煙が舞い、火猿の姿が見えなくなる。これで、火猿の視野は完全に守と愛を見失った。

 咆哮と爆音、地響きが重なりあう。狼電が火猿と激しくぶつかり合っている――と、言う感じではなく、火猿が一人で暴れている様に感じる。その証拠に、雷鳴はあれ以来聞こえてこない。

 狼電が作ったこの状況に感謝し、守は右足を引き摺りながら愛を抱えその場を去った。とりあえず、安全な場所に愛を連れて行く事だけを考えていると、何処からか声がする。


『ごめんなさい。あなたにまで迷惑を掛けてしまって』


 その声が彼女のサポートアームズの物であると、すぐに気付いた守は、穏やかに微笑み返答する。


「気にしないで下さい。俺は迷惑だ何て思ってませんから」

『優しくすると、付け上がるぞ』


 ようやく口を開いたフロードスクウェア。冷静さを取り戻したのか、フロードスクウェアはいつもと変わらぬ口調で更に言葉を続ける。


『それよりもだ。アイツの策は成功するとおもうのか?』

「成功させる。それしか方法が無いんですから」

『前向きなのは良いが、その足でまともに動けるのか?』

「動ける動けないの問題じゃないんです。無理にでも動かしますよ」


 守の言葉に終始呆れるフロードスクウェアは、大きなため息と共に言葉を吐く。


『お前はバカか?』

「な、何だよ。急にバカ呼ばわりして……」

『言いたい事は分かります。愛ちゃんの事よね』

『そうだ。この娘は、幸い封術師だ。それに、水属性も持っている様だからな』

「それが、一体どうしたって言うんですか?」


 小首を傾げる守は右足を引き摺りながら、ゆっくりと階段を下る。

 一方、呆れた様にもう一度ため息を吐くフロードスクウェア。幾ら育成学校に通っていなかったとは言え、ここまで属性の事を知らないとは思っていなかったのだろう。そもそも、属性を知る事が、ガーディアンとしても封術師としても基礎中の基礎になっている。今の守は基礎を飛ばして実践に出ているが、良く今まで鬼獣と戦ってこれたものだ。今まで生きてこれた事を不思議に思いながら、フロードスクウェアはもう一度深々とため息を吐いた。

 愛のサポートアームズであるセイラは小さく笑う。その声はフロードスクウェアにも、守にも聞こえていなかったが、愛のもう一つのサポートアームズがそれに気付き声を掛ける。


『どうかした? セイラ』

『いえ。少し昔の事を思い出して』

『昔の事?』

『ええ』


 含み笑いをするセイラに対し、僅かながら不服そうなヴィリーが、『よくわかんない』と子供っぽく言い、そのまま黙り込んだ。

 先程まで笑っていたセイラだったが、すぐに声色を変えヴィリーに問う。


『愛ちゃんは大丈夫?』

『平気だよ。もう随分落ち着いたみたい』

『そう。良かったわ。それで、どれ位で目を覚ましそう?』

『そんな事僕に聞かれても……』


 困った様にそう述べるヴィリーは、今にも泣き出しそうな声だった。その為、セイラもそこまで強く言う事が出来なかった。そんなセイラに、ヴィリーは告げる。何か強い気配がこちらに向ってきて居る事を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ