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ガーディアン  作者: 閃天
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第七十六話 最弱

 轟く咆哮。

 飛び交う雷撃。

 漂う黒煙。

 焦土する路面。

 折れ曲がる電柱。

 息を潜める三つの影。

 空中を舞う一人の少年。

 抉られた路面へと足を下ろした少年は、静かに辺りを見回す。


「あれれ? 何処に行ったのかな?」


 子供の様な幼い声と背丈。その背丈には似合わないブカブカの衣服に身を包んだ少年は、ゆっくりと歩みを進める。瓦礫を踏みしめる少年は、ふと顔を上げた。


「あーぁ。つまんねぇ。ハズレ引いちゃったな」


 大声でそう言う少年は、右手を上げ目の前の家を一軒吹き飛ばした。残骸が散乱し、土煙が舞い上がる。膨れっ面の少年は周囲を見回し、一度ため息を吐く。呆れた表情を見せ、もう一度大声を張り上げる。


「何だよ。隠れるばかりが、テメェらの組織の教えかよ。それとも、ボクみたいな子供にすら怯える事しか出来ないのか?」


 少年の言葉が身を隠す三人の胸に突き刺さる。


「ふざけた事言いやがって」


 楕円型の薄いサングラスを掛けた少年がそう言うと、腰まで届く群青色の髪の少女が答える。


「単なる挑発。そんなモノに乗る必要はない」

「でもよ、まどか

「それより、彩の方はどうなっている?」


 まどかと呼ばれた少女が群青色の髪を揺らし振り返る。視線の先には肩口まで伸ばした黒髪の少女が居た。手には背丈程の大きさの杖を握っている。ボロボロの制服はまどかとの戦闘によるモノで、少しばかり呼吸が荒い。


「大丈夫そう」

「んな事はどうでもいいだろ? これからどうすんだよ」

「やる事は決まっている。奴を倒す」

「倒すって、五大鬼獣だぞ。無謀だろ」


 弱気な少年の声に、まどかは冷やかな視線を送る。常に冷たい態度のまどかだが、今回は更に冷たい視線だった。その為、少年は僅かに身を退き、引き攣った笑みを浮かべる。サングラス越しに見ても、まどかの切れ長の目は怖い。特に淡い蒼の瞳が何ともいえない。

 僅かな恐怖に身を縮こませ、少年は彩の方へと目を向けた。すると、左手の人差し指に填めたリングの赤い水晶が輝き声がする。


『ねぇ、お兄ちゃん。どうするつもりよ』

「ど、どうするって、戦うっきゃねぇだろが」


 可愛らしい女の子の声に、そう返答すると、更に言葉が返って来る。


『あのさ。あたし等、何しにここに来たか覚えてる?』

「まぁ、覚えてない事も無いけど……」

『もう。はっきりしてよお兄ちゃん!』

「しかたねぇだろ。決定権は俺にはねぇんだからよ」


 少年がそう言うと、少女の声が小さなため息を漏らした。そんなやり取りを見ていたまどかは、右耳にぶら下がった十字架のイヤリングに触れる。


「エディ。どう思う」

『あら。まどちゃんから話しかけてくれるなんて、珍しいわね』

「エディ。その呼び方は止めてって、いつも言ってる。いい加減にして」

『細かい事を気にしちゃダメよ。それに、まどちゃんだって、私の事ちゃんと呼んでくれないし、良いじゃない』


 エディの言葉にまどかは小さくため息を吐くと、群青色の髪を右手で撫でた。

 急に静けさが戻り、まどかが少年の方に鋭い眼差しを向ける。少年もその眼差しに気付き僅かに頷く。


「武明、準備しろ」

「分かってる。セルフィ。行くぞ」

『あいあい。行くよ』


 少し投げやりな返事をするセルフィは水晶から数本の鉄杭を生み出す。それを地面に散りばめ、一本一本を確認する様に手に握る。重さ、長さ、太さ、全てを統一し、その内の一本を地面に突き刺す。残りの鉄杭を持つと、まどかの方に目を向ける。無言のままイヤリングに触れたまどかは、


「時間を稼ぐ。五分で終わらせろ」

「ったく、無茶苦茶言うな……」

「文句を言ってる暇があったら、とっとと行け」


 まどかはそう言うと、立ち上がり駆け出す。その刹那、金色に近い黄色の水晶が輝き不気味な鉄音を響かせ、円の両手に純白のグローブが姿を現す。甲には十字架が模られ、煌びやかに輝く。


「エディ。モードガン

『えぇ。何なりと』


 純白のグローブが形を変え、真っ白な銃が両手に一丁ずつ現れる。

 そのまどかの声に、背丈の低い少年が気付く。不適で楽しげな笑みが少年の顔に浮かび、差し出した右手に風が圧縮される。


「やっと出てきた。遅すぎるよ。て、言うかお前一人でいいのか?」

「貴様の様なガキ相手ならあたし一人で十分だ」

「ムウウウッ。自分だってチビのくせに、人をガキ扱いするな!」

「ムッ! 貴様にチビ呼ばわれされる覚えは無い」


 まどかは引き金を交互に引く。甲高い銃声がリズム良く交互に聞こえ、弾丸が無数打ち出された。銃口から硝煙が上がり、まどかが静かに息を吐く。すると、幼い声が不満げに言う。


「もう。何だよ。いきなり撃って来るなんて酷いじゃないか」

「チッ……」

「何だよ。舌打ちしたいのは、コッチだよ。まぁ、いいや。それじゃあ、始めようか。五大鬼獣が一人。風童様が相手してやるからさ」


 風童と名乗った少年の右手には、圧縮した風が渦巻き、その中で放たれた弾丸が舞っていた。それを見て、僅かに眉間にシワを寄せたまどかは、銃を下ろしクスッと笑う。


「何がおかしいのかな?」


 不満そうに風童が問うと、まどかの手から銃が消えグローブへと戻る。純白のグローブで二度手を叩くと、まどかは冷たく笑う。群青の髪が揺れ、ふくよかな胸も揺らす。視線の先に見える風童に、淡い青の瞳を向け、右足で思いっきり瓦礫を踏み潰した。


「流石、五大鬼獣と呼ばれるだけはある」

「へへヘッ。そうだろ。ボクは強いんだから」

「強い? 勘違いしない方がいい。貴様は五大鬼獣の中で最弱。その強さはあたしよりも劣る」


 風童の右の眉がピクッと動き、表情から笑みが消える。眉間にシワを寄せ、真顔でまどかを見据える風童は、右手に圧縮していた風を解き放つ。風の中に浮かんでいた弾丸が、手の平に転がる。それを軽く握り締めると、暴風が風童の体を包む。金色の髪が逆立ち、ブカブカの服が暴れ狂う。


「ボクがお前に劣る? 舐めるなよ。人間。お前なんて軽く捻り潰してやるよ」

「フン。出来るのか?」


 まどかの言葉と同時に風童が指で弾丸を弾く。弾かれた弾丸は一直線にまどかへと向う。刹那、まどかは不適に笑みを浮かべると、


「モード双剣」


 純白のグローブが輝き、真っ白な刀身の細い二本の剣が現れ、弾丸を弾く。火花が散り、弾かれた弾丸が地面に減り込む。


「あたしに弾丸は利かない」

「あっそ」


 風童が手の平の弾丸を地面へ零す。だが、風童を取り巻く風がそれを浮遊させ、同時に弾丸に不規則な回転を加える。手首を中心に双剣を回すまどかは、その様子を窺いながらジリッと右足を前に出す。靴の先が瓦礫を蹴り、積もった瓦礫が崩れ落ちる。

 それが合図だったのか、風童とまどかの二人が同時に動き出す。

 左手に持った剣の切っ先が地面を抉り火花を散らせ、右手に持った剣は空を裂く。鋭い風音が聞こえ、右手の剣が何度も空を往復する。行き交う刃をバックステップで避ける風童は、右手を翳すと、瞬時に風を圧縮する。


「うぜぇよ」


 声と同時に圧縮された風が膨張する。そして、まどかの目の前で、巨大な爆発音を轟かせ、爆風を辺り一帯に広げた。

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