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ガーディアン  作者: 閃天
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第七十五話 美学

 ビルが倒壊する。

 巨大な火の玉があらゆる建物を破壊する。ガラス片が瓦礫と共に、地上に降り注ぐ。

 轟く爆音、広がる火の手。雷鳴、暴風、地響き。それらが、中心から外側へと広がっていく。

 外壁のすぐ傍の建物に隠れている優花と大地はまだ安全そうだ。しかし、いつまでもここに居るわけにはいかない。彩の事が心配だ。大地が目を覚まし次第すぐにでも彩の方へと行くつもりだった。

 その為、様々な情報をシェイドネリアから聞き、戦略を練る。元々戦略を考えるのは得意な方ではなかった。能力はあったし、大抵の鬼獣にも引けをとらないと自負していた。己の能力を過信しているわけじゃない。幼い頃からの経験上、どんな状況でも最善の対処が出来る様、体に刻み込まれていた。それは、戦略を立てるよりもはるかに効率の良い、優花と大地の戦闘スタイルだった。

 だが、今回は違う。優先する事がある。それは、彩の無事を確認する事と護衛。相手の目的が分からない以上、彩の護衛と言うのは最も優先しなければならない事だった。それほど、協会にとって水島家の血と言うのは重宝されている。優花にとってそんな理由はどうでも良い。これ以上大切な人を失うのは辛い。ただそれだけだった。

 考え込んで数分が過ぎた頃、窓から眩い光りが差し込み、雷鳴が大気を裂く。


『何だ?』

『敵襲……?』


 グラットリバーの声にロッジエッガスが答えた。険しい表情を見せる優花は小さく息を吐き、キファードレイを握り締める。気持ちを落ち着かせる為、小さく深呼吸をすると、ゆっくりと立ち上がった。

 沈黙の中で、グラットリバーが僅かに水晶を輝かせ、


『大丈夫なのか?』


 と、問う。微かに微笑む優花は、キファードレイを具現化する。大型の鎌が右手に現れ、刃の付け根に水晶が煌く。赤い眼の死神。正しくその名にふさわしい風貌に、グラットリバーも息を呑む。

 いつ以来だろう。優花の殺気を帯びた赤い眼を見たのは。僅かながらグラットリバーも恐怖してしまう。

 赤い眼光をグラットリバーに向けると、静かに告げる。


「大地が目を覚ましたら彩の方に行きなさい」

『な、何言ってんだ! お前、分かってるだろ! 今、外に居るのは――』

「分かってる。分かっているからこそ、あなた達は彩の方に行くの」

『勝ち目の無い戦いだな。行っても犬死だな』


 淡々とロッジエッガスが言うと、沈黙がその場を包み込む。分かっているのだ。相手がどれ位の力を持っているのかも、今の優花には勝てない事も。それでも、それを口にしていなかったのに、ロッジエッガスは容赦なく言葉を続ける。


『まぁ、初めから死ぬつもりなら話は別だがな』

『ロッジエッガス! それ以上優花を馬鹿にすると、私が許さないわよ!』

『俺は思った事を口にしているだけだ。自らの力量も知らずに飛び込むのは馬鹿のする事だ』

『てめぇ、ふざけた事ぬかしてると、ぶっ飛ばすぞ!』


 キファードレイが声を荒げると、相変わらずの口調でロッジエッガスは答える。


『お前がどう思おうが勝手だ。だが、俺は指示には従うつもりは無い』

『もう、あんたの言ってる事は良くわかんないよぉ!』

『要約すると、俺達も戦う。そう言いたいんだろ?』


 面倒臭そうにグラットリバーがそう言うと、『そう言う事だ』とロッジエッガスも納得した。唖然とするキファードレイとシェイドネリア。結局、今までの話はなんだったのだと、内心思っていた。しかし、それを口にするより先に、優花が部屋を出た。その時、グラットリバーには僅かに聞こえた。


「ありがとう」


 と、言う弱々しい声が。

 静まり返った部屋でグラットリバーとロッジエッガスは大地の目覚めを待つ。刻々と時を刻む音を聞きながら。



 建物から出た優花は、大鎌を右手で回転させる。車が燃え上がり、地面が黒焦げ砕けていた。散乱する焦げた肉片が異臭を漂わせる。鼻を摘みたくなるニオイだが、優花は全く動じる事無く、目の前に浮かび上がる影を見据えた。

 細身のスーツ姿の青年。整った美しい顔立ちに、金色の瞳が優花を見る。顔の右半分を隠す黒髪が風に揺れ、雷撃が青年の周りで弾けた。生きている様に弾ける雷撃が、優花を威嚇するかのごとく周囲の壁を破壊する。

 その雷撃とは裏腹に、穏やかな笑みを浮かべる青年は、大手を広げてから丁寧にお辞儀をした。


「初めまして。麗しきお嬢さん。私は電鋭。サポートアームズを持つあなたに聞きたい事がある」

「私もあなたに聞きたい事があるわ」

「何でしょう? 答えられる事なら、答えましょう」


 穏やかに答える電鋭に、回していた大鎌を止め右脇に下ろすと、周囲を警戒する。まだ周囲に敵がいるかもしれない。そう思えばこその行動だったが、電鋭は清々しい口振りで言う。


「私以外居ませんよ。安心してくれ」

『その言葉を信用しろってか? ふざけろ。敵の言う事を信用出来るか!』

「ふぅん。まぁ、信用出来ないのはわかるね。けど、あなたも早く話を進めたいのでは?」


 笑顔の裏に殺気を漂わせる電鋭に、柄を握る手に力が入る。唾を呑み込み、視線を強く持ったまま静かに大鎌を構えた。右足を摺り足で前に出し、右手は柄の上の方を、左手は柄の下の方を握る。三日月型の刃が不気味に光り、赤い眼光が電鋭の金色の目を睨む。

 鋭い眼差しに、やれやれと言う様に首を振る。迸る雷撃が一箇所に集まり、一つの物体を生成していく。


「私の扱う雷撃は特別で、自らの意思を持っている。それは、あなた達の使うサポートアームズの様に。でも、それとは別次元の代物なんだよ」


 何処かワザとらしく微笑む。生成に時間が掛かるのか、まだ形の整わない雷撃を見据え、優花はどうするかを考える。


 今飛び込めば一撃与える事が出来るだろうか?

 もしそれが成功したとして、その後どうする?

 奴はどんな武器を生成している?

 間合いはどれ位?


 脳内に様々な言葉が繰り返される。戸惑いが焦りを生み、判断力を鈍らせる。

 その場を動く事の出来ないまま、雷撃に変化が起きた。棍の様に長い柄が生成され、その両端に牙の様に鋭利で太い刃が突き出る。両方の牙が雷撃を纏い、切っ先でバチッと一回弾けた。


「久し振りだ。これを使う何て……」

『聞かせてもらうぜ! てめぇらがここに現れた理由を!』

「私達が現れたのは呼ばれたから。今度はあなた達に答えてもらう。あなたはアレ知っているか?」

「アレ? 何の事?」


 何を言っているのか分からず、思わず聞き返してしまう。その反応を予期していたのか、軽く頷きながら嘘っぽく微笑み、槍を握る。


「何も知らないみたいで安心したよ。あなたの様な麗しい方を手にかけるのは、私の美学に反するんで」

「何を言ってるのか、良く分からないわ」

「そうだな……。分かり易く言えば、武器を退いて欲しい」

「断るわ。どんなに力量の差があっても、退くわけには行かない」


 暫し沈黙する電鋭は、小さく息を吐くと、困った様な表情を見せた。


「もう一度言う私の美学として、女性には手を出さないと決めているんだ。退いてはくれないか?」

「断る。何度も言わせないで」


 睨みを利かせる優花は、摺り足で一歩前に出ると、電鋭も渋々と槍を構えた。

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