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ガーディアン  作者: 閃天
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第七十三話 侵入

 爆発音が響き、黒い膜に大きな波紋が広がる。

 だが、波紋は水面に広がる様に徐々に薄れ消えてしまった。

 土煙が消え、大地の姿が現れる。壁には傷一つ無く、代わりに大地の右腕を包んでいた黒い物体が砕け、血が大量に流れ出していた。肩が外れた様に右腕が力なくぶら下がり、手首から静かにブレスレットが落ちる。

 カランと乾いた音が響き、オレンジ色の水晶が光りを失った。それとほぼ同時に、大地の体が膝から崩れ落ちる。届かなかったのだ。大地の全力がこの壁には。分かっていた事だった。それ故に、止める事の出来なかった自分が許せなかった。


「ゴメン……私には何も……」


 悔しそうに奥歯を噛み締める優花は、静かに拳を握り締めた。


『どうすんだ? このまま、何もしねぇつもりか?』

「……考えるわ。何をすればいいかを……」

『そんな余裕があるのか?』

「うるさい……。少し黙ってて」

『俺様が黙ってて、いいアイディアが浮かぶのか?』

「うるさい!」


 つい怒鳴ってしまった。苛立ちが彼女を追い詰めていく。考えがまとまらず、焦りが更に優花を追い詰める。


「クッ……」

『諦めるんだな。テメェには何も出来ねぇよ』

「諦めない。彩は助ける。絶対に奴の思う様にはさせない」

『無駄だ。テメェは無力。この壁をどうやって壊すつもりだ?』


 その声に言葉を呑む優花は、眉間にシワを寄せる。大地の全力で壊せなかった壁を、優花がどうやって壊せると言うのだ。奥歯を噛み締める優花は、静かにキファードレイを具現化する。最大呪文を使えば風穴位開けられるだろうか。そんな事を思いながら、カードフォルダに手を掛けた。


「止めておけ。同属性では打ち消されるだけ、ましてや土属性のサポートアームズで攻撃を仕掛ける何て自殺行為だ」

「……」


 無言で声のする方に目を向けた。静かに空から降り立った男は、足元まで隠すコートを着て、頭からフードを被っている。合間から見える赤と茶の混じり合った髪がチラホラ見え、その奥に僅かに赤みを帯びた瞳が優花を見据えた。

 怪訝そうな目を向ける優花は、具現化したキファードレイの刃を下段に構え、切っ先だけを男の方へと向ける。刃と柄の間に輝く緑の水晶が悪態を吐く。


『テメェ、邪魔すんじゃねぇ!』

「邪魔じゃない。手を貸しに来た」

「手を貸しに? どういう事」


 疑いの目を緩めない優花は、右足をスッと前に出す。警戒する優花に、困った様な素振りを見せる男は、右耳からピアスを外し、それを優花へと投げた。左手でそれを受け取った優花は、相変わらず鋭い視線を男へ向けている。

 右手で頭を掻く男は、静かに口を開く。


「それは、俺の作ったサポートアームズだ。適合とか関係なく使える代物で、効果は強化。具現化とか出来ない代わりに、その人の持つサポートアームズをサポートする特殊型だ。属性は土。硬化タイプのグラットリバーとなら、相性は良いだろ?」

「これを、くれると?」

「ああ。名前は後からソイツに訊いてくれ」

「…………」


 まだ信用出来ないと言う目で男を見据えていると、小さくため息を零す。


「キミは疑り深いな。まぁ、それ位の方が良いかも知れないがな。んじゃ、これでどうかな?」


 男がそう言うと、赤と茶の混じった髪の奥に真っ赤な目が映し出された。その目を見た瞬間、背筋にゾワッと寒気が過り、優花の瞳も自然と赤く染まった。


「キミと同じ、赤い眼だ。これが、何かもう分かっているだろ?」

「…………。そう。あなたも……」

「信じて貰えたかな?」


 ニコッと笑みを浮かべと、赤かった眼が元に戻る。彼の場合、鬼獣とか関係なしに目を赤くしたり出来る様だ。取り敢えず警戒を緩める優花は、左手に持ったピアスを大地の右耳に付けた。オレンジの水晶が僅かに輝き、低音の声が聞こえる。


『名はロッジエッガス。汝の名は?』

「私は優花。彼が大地」

『そうか……。今よりマスターを大地と認証する』


 その言葉の後にロッジエッガスと名乗ったピアスの水晶が眩く光りを放った。これで、大地が彼のマスターと言う事になるのだろう。不思議そうな目をする優花に対し、落ち着いた様子の男は黒い壁に触れる。


「これが、黒障壁か……。実物を見るのは随分久し振りだよ」

「知ってるのこれを……」

「ああ。以前にもこんな事が起きたからな。まぁ、あの時はまだ未完成の代物だったけどな」


 真剣な面持ちで障壁を見上げ、静かにそう口にした。以前とはいつの事なのか、不思議に思う点は幾つかある。だが、優花はそれを問う事はしなかった。

 壁に触れる男の手がスッと離れる。赤い水晶の付いたリングが薄らと輝き、声が聞こえた。


『今回のは、チッと骨が折れそうだな。俺の力でも穴を開ける程度しか出来ない』

「そうか……。なら、俺は中には入れないわけだ……」

『そうなるな。そこの二人が唯一の頼りと言う事だ』

「幾分、危険な賭けになりそうだな」


 渋い表情を見せる男は、ふと優花の方へと目を向けた。そして、顎に右手を添えたまま暫く考え込む。中がどういう状況なのか分からないし、その中に二人を行かせるのは、多少抵抗があった。やはり危険な場所に突っ込むなら、まず自分からの方がいいが、それも出来ない状況。慎重に事を考えなければならない。


「さぁて、困ったな」

『悩む必要あるのかな?』


 幼い声が突如聞こえた。苦笑してみせる男は、その声の主であるブレスレットに目を落とし口を開く。


「あのなぁ。俺も一緒に中に行くなら別だよ。けど、今回は状況が状況なの」

『けど、誰かが行かなきゃ行けないんだし、考える事無いって』


 幼い声にそう言われ、男はもう一度息を吐く。確かに誰かが行かなければならない。そうなってくれば、彼ら二人を行かせる他無いのだ。選択の余地など無い為、渋々と言う感じで男は優花に言う。


「悪いが、そいつを連れてこいつの中へと行ってもらうぞ」


 その言葉に優花は眉間にシワを寄せる。


「行くのは構わないけど、どうやって? それに、こんな状況の大地じゃ戦力にならない」

「まぁ、それは俺が何とかしよう」


 男はそう言い、懐から取り出した蒼い水晶の付いたリングを右手の中指に填める。蒼い水晶が鮮やかに光り、優しい女性の声が聞こえて来た。


『マスター。話は聞いてました。早速――』

「ああ。悪いなフィリーラン。頼むぞ」


 静かに大地の傍に歩み寄った男は、右手を大地の胸へと下ろす。蒼い光が大地の体を包み、傷の酷い右腕を癒す。流れ出す血が止まり、傷口が塞がる。再生、それがフィリーランの能力だ。

 傷がある程度修復した所で、光りが消える。マスターと呼ばれていた男は、深く息を吐きゆっくりと腰を上げた。


「これ位で十分だろ。後はグラットリバーの方だが、出来るか?」

『問題はありません。マスター』

「そうか。じゃあ、頼む」


 そう呟き亀裂の入ったブレスレットに手を翳す。蒼い光りが今度はグラットリバーを包み込む。その神秘的な光りが、優花の目に焼きついていた。あれが水属性の真骨頂なのだろう。

 ゆっくりと光りが薄れ、ブレスレットの傷が消える。光り輝くオレンジの水晶は、またあの声を取り戻していた。


『んんっ……。あんたは……』

「目が覚めた様だ。それじゃあ、後は彼が目覚めるのを待ちたい所だけど、俺は彼に色々と目の仇にされている様なんで、彼が目を覚ます前に、キミ達を中へと送り込みたいと思う」

『送り込むって、一体どうするつもりだ!』


 グラットリバーの声に、男が穏やかに微笑んだ。キファードレイの具現化を解いた優花は、大地の体を持ち上げ、ゆっくりと立ち上がった。そんな二人に目をやり、地面に転がるグラットリバーを手に取った男は、先ほどの質問に答える。


「この壁は風属性で出来ている。これを破るには、これと同等の優勢属性」

「火の属性が必要と、言う事?」

「そう。だが、現段階でコイツを破壊できる様な力を持つサポートアームズは存在しない。そこで、俺の持つ火のサポートアームズで風穴を開ける。そこからキミ達は中に入ってもらう。と、言う形になるかな」


 説明を終えた男に対し、グラットリバーが口を開く。


『原理は分かったが、こいつの壁はそこまで高いレベルの力なのか?』

「手早く言えば、こいつは古代の代物って事だ。説明は終わりだ。そろそろ準備を始めるぞ」


 男が黒い壁に右手を添え力を込める。すると、傷一つ無かった黒壁に真っ赤な炎が広がった。額に汗を滲ませる男は、ようやく人が一人入れる程の大きさまで広がった穴が塞がらない様に力を込め続け、目で優花に合図を出す。優花もそれに気付き、会釈する様に頭を下げると、グラットリバーを受け取り中へと入っていった。

 更新が滞ってしまい、申し訳ありません。

 今日から気分新たに頑張って更新していきたいと思っています。

 目標は一日一話!!

 多分無理だと思いますが、なるべく二日に一回は更新できる様頑張ります。

 これからも、『ガーディアン』をよろしくお願いします。

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