第七十一話 五大鬼獣 集結
一つの影が青桜学園の第一校舎の屋上へと降り立った。
大きな翼を静かに折りたたみ、小柄な背中へと仕舞う。艶やかな毛並みの金髪が揺れ、グリーンの瞳が煌く。小学生の様な小柄な体格に、幼い顔立ちから明らかに子供である事が分かる。
眉間にシワを寄せる少年は、小さな体を精一杯伸ばし、フェンス越しに黒い膜に包まれた町を見回す。空を覆う鬼獣に、地を這う鬼獣。どれも数は無数。だが、誰も青桜学園へとは侵入してこない。その光景を見据え、少年が不適に微笑むと、後方に二つの影が浮かぶ。
一つは大柄の獣の様な影。太い二の腕に分厚い胸板。真っ赤な髪は刺々しく逆立ち、顔立ちはその体に相応したゴツゴツとした顔だった。口元の鋭利な二本の牙が血を欲する様にギラめく。
その横に立つもう一つの影は隣りの男とは正反対で、細身でスーツを身に纏っていた。美青年と言う言葉が似合う美しい顔の右半分を黒い前髪が僅かに覆い、その奥に不気味に輝く金色の瞳が微かに見え隠れする。
「見てよぉ。空が暗いよ」
明るく子供っぽい声が二人に向けられる。巨漢の男は腕を組み声に答える気が無いのか、ソッポを向く。その態度に隣りに居た青年が苦笑いを浮かべながら、少年に言葉を掛ける。
「風童。あれは空が暗いんじゃないよ。この町を包み込んでいるドームが黒いんだよ」
丁寧に説明する青年に対し、不貞腐れた様に頬を膨らす風童と呼ばれた少年は、両手を腰に当て振り返ると、目尻を吊り上げ可愛げのある口調で文句を言う。
「んな事知ってるよぉ! ボクの事馬鹿にしてるだろぉ!」
「そんな事無いよ」
作った様な笑みを見せる青年は、子供をあやす様な口振りで風童に言葉を掛ける。それが、風童は嫌いだった。その為、暫し仏頂面で青年を睨みつけ威嚇を続ける。だが、最終的に風童が根負けする形でその場は丸く収まったのだった。
「それで、水嬌と燃土はどこなんだよぉ」
「私達なら、既にここに居ます」
不満そうな風童の声に返答したのは、か細く弱々しい女性の声。それに振り返ると、二つの影があった。
一つは声同様、か細い体つきの女性。美しい銀色の髪を頭の後ろで確りと留めており、肌艶の良い綺麗な顔立ちを一層美しく際立てている。だが、その眼は何処か切なそうな眼をしていた。
一方、もう一つの影は年老いた男性の様で、顔に複数のシワが刻まれている。髪も白髪が黒髪から見え隠れしており、分厚いレンズのメガネ越しに見える淡いブラウンの瞳が三人を見下す。
二人の姿に笑顔を見せる風童は、はしゃぐ様に右手を大きく振る。
「水嬌、燃土。遅かったねぇ」
無邪気な笑みを向ける風童に、水嬌と呼ばれた女性が僅かに眉を顰め、怪訝そうな眼で風童を見据える。その視線が痛々しく、風童は怯える様に青年の背後へと隠れた。
「どうして、隠れるのです?」
「いや……水嬌さん。眼が怖いよ」
「私の眼は普段通りです」
「そ、そう……」
距離を置いた様な冷めた口振りの水嬌に、青年は苦笑する。青年もまた、水嬌を苦手としていた。ここに居る皆そうだ。水嬌とは一つ二つ壁を隔てている。その為、苦手意識としているのだろう。しかし、彼女の方は全く問題など無い様に、静かに口を開く。
「皆さんそろった様ですが、私はまだ眠いのです」
「ワシも、暫くは人里から離れたかったのじゃがな」
「燃土さん。その喋り方だと、年寄りみたいだよ」
「ワシはお前さん達よりも、百年は永く生きとる。十分歳じゃよ。フォッフォッフォッ」
大らかに笑う燃土に、青年が微笑んだ。やはり何処かぎこちない作った様な笑みだった。その場の誰もが相手に気を許さず、終始けん制し合っている様にも見える。
そんな中で、ドスの利いた低い声が、四人へと質問を投げかけた。
「で、貴様らを眠りから解いたのは誰だ?」
「相変わらず、せっかちじゃのぅ。火猿は」
「うるせぇ。ジジィ! 俺様はイライラしてんだ! とっとと質問に答えろ!」
怒鳴り散らす火猿の髪が炎の様に揺れた。刹那、火炎弾が空中に無数表れ、燃土を集中砲火する。
盛大な爆発音と爆風が辺り一帯に広がり、黒煙が周囲を包み込んだ。いつの間に燃土から離れたのか、水嬌は何事も無かったかの様に膝を抱え座り込んでいた。慌てた素振りも見せず、ただ無関心な眼で足元をジーッと見つめている。他の者達もそうだった。まるで、何も起っていないかの様に、静かに時を待つ。
不適な笑みを浮かべる火猿は、真っ直ぐに黒煙の方を見据える。爆風は既に納まっており、黒煙だけが立ち上っていた。瓦礫の崩れる音が聞こえ、皆が顔を上げ黒煙の方に眼を向ける。すると、そこから無傷の燃土が姿を見せた。
「フォッフォッフォッ。相変わらず、乱暴じゃな」
「テメェも、腕は鈍ってねぇ様だな」
あの火炎弾をどの様にして防いだのかは不明だが、火猿の口振りから燃土が何かをした事は確かだった。
膝を抱える水嬌は、そんな二人のやり取りに、興味など無く口を押さえ欠伸を一つして、青年の方に言葉を掛ける。
「電鋭。取り敢えず、話を進めてください」
突然の言い分に驚く青年は、水嬌の方に顔を向け早口で言う。
「ちょ、ちょっと! 水嬌さん! 何で、私が話を――」
「火猿はガサツ、燃土はマイペース、風童は子供」
「子供って言うな!」
「この場を仕切れるのは、あなたくらいです」
合間に風童の声が入ったが、軽くスルーした。そして、電鋭も気付かず反論する。
「だったら、水嬌さんが仕切ってくれよ」
「嫌よ。面倒だし、私はそう言うのには向いてないんです」
「結局、面倒を押し付けたいだけなんだよ」
風童が頭の後ろで手を組みながら笑顔でそう言うと、力の無い弱々しい眼力で水嬌が睨んだ。水嬌も特に相手にする気は無いらしく、そのまま視線を床へと落とす。
唖然と立ち尽くす電鋭は小さくため息を漏らすと、火猿、風童、燃土、水嬌の順に顔を見据えると、もう一度ため息を吐く。両肩を落とし渋々と言う様に口を開く。
「それじゃあ、まず何から話せばいいかな?」
「まずは、現状じゃないかなぁ?」
「現状よりも、テメェ等の封印を解いた奴だ。ソイツを教えろ」
「じゃから、そんな事が分かっていれば、こんな所に集まりゃせんわい」
それぞれが言い合う中で、水嬌だけが無言で様子を窺っていた。この中で一番頭の回転が速いのが、彼女だ。既に彼女の中でなんらかの答えが出ているのだろうが、自らの考えを滅多に口にしない。だが、この日は違った。静かに立ち上がると、真っ直ぐに火猿を見据え口を開く。
「あなた、アレはどうしたの?」
「な、何だ! 急に! それに、今アレは関係ねぇだろ!」
突然の事に動揺したのか、火猿が声を荒げる。視線が集まり、皆の目の色が変る。
「まさか、アレを紛失したのか?」
「いや、紛失した……と、言うより――」
「奪われたと言う訳ですね」
やや厳しい口調で水嬌が問いただすと、観念した様に火猿が頷いた。その後、何かを話すわけでもなく、各々が何かに納得したかの様に頷く。
「僕等がここに集まった理由がはっきりしたね」
「ああ。でも、問題は――」
「アレを持った奴をどうやって見つけるか、ですね」
「フォッフォッフォッ。そんな事簡単じゃろぅ?」
「手っ取り早く、皆殺しにすりゃいい」
不気味に笑った火猿の言葉に返答は無く、各自一斉にその場から姿を消し、青桜学園の屋上には無数の亀裂が走った。
お久し振りです。崎浜秀です。
『ガーディアン』をご愛読ありがとうございます。
本当、久し振りにあとがきを書きますが、最近の『ガーディアン』はどうなんでしょう? と、不安に思います。
作者の僕がこんなんじゃダメなんだろうけど、凄く不安です。
最近、表現方法も単調だし、何よりここに来て登場人物多すぎ! と、思っています。今回、五大鬼獣まで出したわけですが……。
今後も面白くなっていく様に努力していくつもりですが、ここは直した方が良いと思う事がありましたら、メッセージでも下さい。よろしくお願いします。




