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ガーディアン  作者: 閃天
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第六十九話 晃と愛

 疾風が地を駆け、氷が弾ける。

 何が起こったのか理解する間もなく、飛び散った破片が地面に叩き付けられ砕け散った。清らかな音が次々と奏でられ、冷気だけを残し氷は消滅する。

 眉間にシワを寄せる氷神は、素早く振り返り守の背後に迫る者を見据えた。その視線に続く様に狼電・守・智夏・望美の順に振り返る。静かに階段の向こうから姿を現す一人の少年。大人びた落ち着いた顔つきに、白髪混じりの綺麗な赤黒い髪。そして、髪の合間から覗く赤みを帯びた黒い瞳が、穏やかに皆を見据える。

 この少年も制服を纏っているが、この辺りの学生ではない様だ。氷神は刀の柄を力強く握り締め、智夏は僅かに摺り足で右足を一歩退く。両者の殺気立った眼に、困った様な笑みを見せた少年は、両手を顔の横まで上げると、


「あーっ……。僕に戦う意思は無いんだけど……」

「コォォォラァァァァッ! ふざけた事言ってんじゃないわよ! あんた!」


 上空を飛ぶ少女が怒鳴る。

 目を細める少年は呆れた様に両肩を落とすと、少女の方に目を向けた。


「あのさ。言い難いんだけど、そろそろ降りてくれるかな? キミは恥ずかしく無いんだろうけど、僕は凄く恥ずかしいよ」

「な、何が恥ずかしいのよ! 大体、あんた来るのが遅いのよ!」

「残念ながら僕はキミと違って空を飛べない。故に、空を飛んで下着を見せびらかすキミとパートナーだと言う事が凄く恥ずかしい」


 右手で顔を覆い首を振ると、少年の白髪混じりの赤黒い髪が流れる様に揺れた。耳まで顔を真っ赤に染める少女は、黒みの強い紺色のショートボブの髪を僅かに逆立て声を荒げる。


「うるさい! バーカ! あ、あんたなんか、パートナーだ何て思ってないわよ! ボケッ!」

「はいはい。分かった。分かったから、取り敢えず降りて来い。まな

「…………」


 赤面する愛と呼ばれた少女は、無言のまま上空から少年の横に降り立った。背中に生えた大きな白翼が消え、右耳に小さな羽根のイヤリングが現れ、その中心で緑の水晶が煌く。そして、美しい大人びた女性の声が言葉を紡ぐ。


あきら。ごめんね。愛ちゃんが迷惑ばっかりかけて』

「いえ。もう大分慣れたよ」


 苦笑する晃と呼ばれた少年を、横目で睨んだ愛は仏頂面で守達を見据える。と、言うより氷神一人を真っ直ぐに睨んでいた。その視線に氷神も眼差しを真っ直ぐに愛の方に向ける。

 一方で、警戒する智夏は腰の刀に手を掛けると、右肩を晃の方へと向け左手の親指で鍔を弾く。鞘から僅かに見えた刃が一瞬煌き、晃が慌てて弁解する。


「あっ。僕ら、あなた方と争う気はありません!」

「ば、馬鹿! あんた何言ってんのよ! こいつらここを凍り付けに――」

「その現場を見たのか? どうせ、また早とちりだろ?」

「は、早とちりじゃないわよ! だ、大体、そこに居るのは白髪の女は人間じゃないわ!」


 早口でそう述べる愛に対し、呆れ顔の晃はため息混じりに問う。


「セイラ……」

『えぇ。晃の言う通り、ワタクシ達は見てないわ。でも、彼女が人間じゃないのは確かよ』

「ほ、ほら! 私の言った通りでしょ!」

「でも、半々だろ? ったく、第一に僕らはこんな事をしに来たわけじゃないだろ!」


 少しだけ声に怒気が含まれ、晃の眉が聊か吊り上っていた。

 そんな晃に先程のセイラと呼ばれた美しい大人びた女性の声が返答する。


『愛ちゃんだって、悪気があった訳じゃないわ』

「悪気があって、こんな事をしてもらっては困るがな」


 セイラの言葉を遮る様に狼電がそう述べ、同時に体内の電気を表面上に放出する。弾ける雷撃に、眉間にシワを寄せる愛は、カードを一枚取り出す。だが、それを召喚する前に晃がカードを没収する。


「あっ! 何すんのよ!」

「これ以上ややこしくしない!」

「なっ、や、ややこしくって何よ!」

「この現状を見て、ややこしくないと言えるか? そもそも、僕等がここに来たのは――」

「あのさ、私達の事無視するの止めてくれないか?」


 業を煮やし智夏がそう延べ、遂に刀を抜く。慌てて両手を振る晃は、


「ま、待って! ほ、本当、僕等に戦意は無いんだって!」

『そっちの娘はそうは見えんが?』


 フロードスクウェアがようやく口を開く。その声に突如晃の手に、細身の白刃の剣が姿を現す。刃の付け根に緑の水晶が輝き、低い声が聞こえてきた。


『久しいな。フロードスクウェア。貴様が人間に使われているとはな。昔のお前ではありえない光景だな』

「知り合いですか?」

『知らん』

「あんな事言ってるけど、本当に知り合いか? キルゲル」


 不思議そうな晃に、キルゲルと呼ばれた剣が静かに答える。


『フッ。相変わらず、都合の悪い事は忘れる様にしているんだな』

『都合の悪い事? 残念ながら、俺に都合の悪い事など無い』

『ならば、その体に刻んでやろう』

「や、止めろ!」


 突然、白刃の剣が天を突き、守に向って振り下ろされる。刹那、閃光が閃き金属音が波音を広げる。


『邪魔が入ったか』


 間合いを取った晃の右手でキルゲルがそう述べると、鋭い眼差しの氷神が白刃の刀の切っ先を晃の方に向け、闘争心むき出しの声で問う。


「どういうつもりです。返答次第では――」


 一旦間を空け、目を伏せる。そして、次の瞬間殺気を帯びた獣の様な瞳を晃の方に向け、


「殺しますよ」

『殺す? フッ……面白い! やれるモノなら、やってみろ』

「止めろ! キルゲル! 僕等はこんな事をしている暇は――」

「私など相手にならない、そう言いたいのですか!」


 晃の言葉にそう言い返し、氷神が刃を振るう。だが、晃の右手は不自然な動きを伴いながらキルゲルで力強く刃を返して行く。重々しい衝撃が腕に伝わり、氷神の表情が一瞬歪む。しかし、休まず立て続けに何度も刀を振り抜く。


『鋭い切り込みだが、倍の力で打ち返せば、そちらが先にくたばるぞ』

「クッ!」

「止めろ……って……言ってるだろ……」


 表情を顰める晃の額から、大量の汗が滲む。そんな晃の背後で、不適に笑みを浮かべる愛は、人差し指と親指を立て、指鉄砲を作ると「ヴァン」と声を張り上げた。刹那、青白い光りが指先から打ち出され、守の方へと飛ぶ。

 体が危険だと咄嗟に判断したのだろう、無意識にフロードスクウェアを振り下ろしていた。刃に何かがぶつかり、冷気が僅かに頬を撫でた。


「いい判断ね」

「止めろ! 愛!」

「あら。良いじゃない。もうあんたの相棒が喧嘩吹っ掛けたんだから」

「ダメだ! 僕等は――」

「無駄口を叩いているとは余裕だな」


 確実にだが、氷神の口調が変わった。冷たく感情など完全に消えており、殺人鬼の様な冷酷な眼差しが晃を貫く。


「クッ! 何でこんな事に!」

『クハハハハッ! 楽しもうぜ! 相棒』


 キルゲルの高笑いが、氷神の振るう刃に触れたと同時に止む。


「私をなめるな。氷結粉砕」


 氷神が呟くと同時に、刃から氷結していき最後には晃をも氷の中へと包み込んだ。

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