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ガーディアン  作者: 閃天
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第六十七話 遠距離攻撃

 脳内で様々な情報と色々な考えが巡る。

 今置かれた現状。彩の事。これからの事。月下神社を凍り付けにした理由とその犯人。この現象を引き起こした人物。そして、その目的。鬼獣達の異常発生。

 全ての事柄を一つに結びつける様に少しずつ冷静に分析していく。


『彩が一人で戦闘中+優花と大地の不在+町は鬼獣だらけ』


 この事から、現状が最悪である事だけは明確で、同時に彩の身の危険を案じる。しかし、現状で守が動く事は出来なかった。何故なら、現在氷神や智夏・望美の三人と一緒だからだ。氷神は良いとして、全く鬼獣と無関係の智夏や望美の二人を巻き込む訳には行かなかった。

 それに、まだ気になる事があり、その場を離れる事が出来ないのだ。


「くっ……どうしたら……」


 唇を噛み締め表情を強張らす。焦りと不安が頭の中をひしめき合い、上手く考えがまとまらない。それ所か、悪い方へ悪い方へと考えが進んでしまう。そして、最悪のケースが脳内に導き出される。

 いつもの冷静さを失っていると、フロードスクウェアは薄々気付いていた。表情が硬く、額から流れる汗が焦りをあらわしていた。普段の守なら冷静に何らかの策を講じるはずだが、その余裕すら無い様に見えた。


「守君?」

「…………」

「ねぇ、守君?」

「…………」


 呼びかけに反応しない守に、望美が軽く首を捻る。その瞬間、守の頭を鞘に収まったままの刀で智夏が殴りつけた。


「アウゥゥゥッ……。い、痛いじゃないですか!」

「痛いじゃないですか! じゃないだろ。望美が何べんも呼んでんのに」

「いいよ。智夏。別に大切な用じゃ無いし。守君もゴメンね。智夏が」

「い、いや。コッチこそゴメン……」


 軽く頭を下げる。頭では分かっていた。自分が冷静さを失っている事を。だが、どうしても焦りだけが守の冷静さを削ぎ取っていく。

 そして、冷静な判断が下せないまま、時間だけが過ぎていき、守は一人孤立する。智夏の声も望美の声も全てを遮断し、自分の世界へ入ってしまった様に黙り込んだ。

 瞼を閉じれば闇が広がる。その闇の中で守の思考だけが光りの線となり張り巡らされた。冷静さを欠いた守の思考では、どれが無駄でどれが大切な情報なのかすら判明する事が出来ず、その先にある重要な事にすら気付く事が出来て居なかった。

 座り込み長考する守を見据える三人。

 左手に持つ刀を腰の位置に沿え、凛とした姿勢を続ける智夏。その横には学校へ行く準備が万全だったのだろう、と思わせる見慣れた青桜学園の制服を着込んだ望美。そして、離れた場所に美しい白髪に、真っ白な死に装束を纏った氷神。

 美女三人の視線を受ける守だが、全く気付く様子も無く眼を閉じブツブツと独り言を呟く。


「なぁ、大丈夫か? アレ」


 心配そうな口調で智夏が望美に尋ねた。


「う〜ん。チョット心配だね。あんな守君、初めて見たよ」


 相変わらずのマイペースな口調だが、何処か不安が見え隠れする。望美は中学三年間、守と同じクラスだった為、智夏よりも守の事を良く見ていた。だが、こんな守の姿を見たのはこの時が初めてだった。

 望美の戸惑いを智夏も瞬時に悟り、静かに望美の肩に手を当てた。


「大丈夫だ。アイツは……」

「ウン……分かってる。けど」

「信じよう」


 智夏の声のトーンが沈んでいた。不安があったのだろう。突然こんな事が起きてしまえば誰だってそうなってしまう。

 そんな二人の状況も観察しながら、氷神は静かに足を進め、胸元から小さな水晶を取り出し握り締めた。青白い光りが拳から溢れ、氷神の右手に真っ白な美しい刃を持った刀が姿を現す。

 氷神のその行動に目の色を変えた智夏は、腰の位置に構えた刀の柄を右手で握り、左手の親指で鍔を弾く。鞘と鍔の合間に薄らと光りを放つ鋭い刃を覗かせ、いつでも刀が抜ける様にしていた。


「ヴェル。準備は?」

『いつでも行けます。方角は――』

「方角は分かってる。距離はどの位?」

『距離はおおよそ八十から百メートルだと思われます』

「到達時間は?」

『十秒も無いかと……』

「そう……」


 小さく呟いた氷神は地を駆ける。座り込み考え込む守の方へと向って、白刃の刀を低く構えながら一直線に。だが、その前に一人の少女が立ちはだかる。長い黒髪を揺らし、腰の位置で構えられた刀を鞘から抜く。褐色の肌に真っ直ぐな黒い瞳が氷神を見据える。

 二人の距離が縮まり、智夏が両手で刀を握ると切っ先を氷神の方へと向けた。一触即発の空気が漂う中、智夏が氷神に叫ぶ。


「刀に乗れ!」

「…………」


 智夏の言葉に無言で頷いた氷神は、地を蹴り真っ直ぐ向けられた刀の峰へと飛び乗り、それとほぼ同時に、智夏が氷神の体を押し上げる様に刀を振り上げた。タイミングを合わせ峰を蹴った氷神は、空へと高らかに舞う。


「数は?」

『十数撃だと思われます』

「そう。なら全て切り落とす」


 刀を真っ直ぐに構え、意識を集中する。


「ハアッ!」


 白刃が振り下ろされると、冷気が吹き荒れ無数の氷の刃が空を滑走し、それが何かと激突して激しい爆発を起こした。白煙が散ばり真夏の空に粉雪を舞い散らせる。


『氷神様! 別の方角からも数撃』

「距離は?」

『計測不能ですが、すぐそこまで――』


 ヴェルの言葉が言い終える前に、数本の氷柱状の物体が空から降り注ぎ、氷神の体を襲う。


「くっ!」

『氷神様! この下は!』

「わ、分かっている。だが、これでは……」


 視線を落とすと、無防備な守の姿があった。氷柱状の物体は守を目掛けて牙を向ける。氷神もそれを追う様に落下していくが、そのスピードに追い付く事が出来ない。間に合わない、と思ったその時、轟々しい雷鳴と共に閃光が迸る。

 氷の破片が飛び散り、守もようやくそこで目を覚まし平然とした表情で辺りを見回した。その横にスッと着地した氷神は白の装束の裾を揺らし、安堵の表情で守の事を見据える。一方の智夏と望美も、安心した様に息を吐き、二人で顔を見合わせた。

 冷たい氷の欠片が降り注ぐ中、静かに立ち上がった守は氷神の色白の顔を見据え、小さく頭を下げる。


「すいません。ご迷惑をお掛けして」

「いえ。あなたを守る事もゼロからの命だ」


 それが当然の様な口振りの氷神は、先程の閃光が飛んできた方へと眼を向けた。守もその視線でそちらに目を向け、驚きの声を上げる。


「おおっ! お前!」

「…………」


 無言で立ち尽くす一体の鬼獣。全身に深い傷痕を残した勇ましい体格の狼電は、ゆっくりと守の方へ近付き、赤黒い瞳で顔を見上げる。その際、隣りに居る氷神を暫し気にする様な眼をしたが、ゆっくりと口を開く。


「今すぐ貴様のパートナーの下へ行け。私ではあやつらの相手は不利だ」


 擦れた声が辺りを静寂に包んだ。

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