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ガーディアン  作者: 閃天
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第六十二話 信頼関係

 夜の公園。

 夏だと言うのに冷たい風が吹く。

 砂塵が舞い、ブランコが揺れる。その度に錆びれた鎖が軋む。

 外灯が園内を照らし、その光りに虫達が寄る。

 静けさ――それが園内を包み込み、同時に険悪な雰囲気を醸し出していた。

 だが、その静寂は破られる。突然響いた声によって。


「エッ! 何で! 何でよ」


 彩の声だ。

 突然の優花の言葉に、彩があげた悲鳴の様な声だった。

 守も話を聞いた時に驚いたが、すぐに事態を理解した。頭の中で色々な事を整理する守に対し、感情的になる彩が問い詰める様に言葉を口にする。


「ねぇ。どうして、優花と大地が本部に戻るわけ!」

「本部の決定よ。それに、私と大地は人影を追って来ただけだから」

「で、でも……」


 寂しそうな表情を見せる彩。それもそのはずだ。優花は元々彩の目標の人だった。仲直りも出来、ようやく封術師としての事を学べると思った矢先だ。納得できるはずも無かった。

 そんな彩の頭を右手で撫でた優花は、優しい笑顔を見せ口を開く。


「大丈夫。あなたは強いわ。それに……彼も居るでしょ?」


 優花が守の方に顔を向けた。だが、彩は不服そうに唇を尖らす。


「優花は守の事、気に入ってるみたいだけど……。正直、私はあんまり……」

「彩……。もっと彼を信じなさい」


 真剣な眼差しが彩を真っ直ぐに見据える。彩はこの優花の目が苦手だった。心の中を見透かしている様で。

 優花から目を逸らし、守の方へと視線を向ける。

 こちらの声が聞こえていないのか、右手を顎に添えたまま動かない。考え事をしているのだろう。

 小さくため息を吐く彩は、優花の方へと視線を戻し、不安そうな声で聞く。


「どうして、そこまで信頼してるの?」


 優花の目を真っ直ぐに見据える。興味があった。優花がそこまで守の事を高く評価する理由に。

 初めは守の事がタイプなのかと、思っていた。だが、それが違うと言う事に、最近になり気付いた。大地も「優花がアイツに惹かれるのは、何か特別な理由があるはずだ」と述べており、彩もその大地の意見と全く同じだった。


「ふ〜ぅ……。彩……それ、本気で言ってるの?」

「ヘッ?」


 意外な返答に声が上擦る。

 優花が息を吐きながらゆっくりと瞼を閉じ数秒後、今度はゆっくりと瞼が開く。だが、その目付きは瞼を閉じる前とは違い、鋭く怒りの滲んだ目だった。

 一瞬、脳内に電流が走り、それに連鎖する様に体が硬直する。これが初めてかも知れない。優花が彩に対して、怒りを滲ませたのは。

 どうして怒っているのか、彩は分からなかった。

 その彩に、優花は厳しい口調で言う。


「分かっているはずよ。封術師とガーディアンの関係は」

「わ、分かってるよ。それは――……でも!」

「でもじゃないわ。封術師とガーディアンはお互いを信じあえなきゃダメよ。ガーディアンは封術師を護る為に命を張り、封術師はガーディアンを援護しつつ鬼獣を封じる。その意味をちゃんと分かっているの?」


 厳しかった口調が、やや和らぐ。別に優花も怒りたくて怒っているわけではない。多くの経験から、彩よりも封術師とガーディアンの関係の大切さをよく知っていた。だから、彩には知っていて欲しかったのだ。


「ゴメン……。優花」

「いいのよ。私も強く言い過ぎたわ」


 彩の頭を優しく撫でる。

 そして、一呼吸空けてから、ゆっくりとした口調で言い聞かせる。


「彩。信じなさい。彼を」

「うん……分かった。けど、私と守だけで、大丈夫なのかな?」

「大丈夫よ。彼はあなたが思っている程弱くないわ。それに――」

「それに?」


 オウム返しに聞き返す彩に、優花は嬉しそうに微笑みながら答える。


「それに、私が惚れた人だから……キャッ! 言っちゃった」

「……」


 今まで見せた事の無い女の子の様な言動を見せる優花に、唖然とする彩は小さくため息を零した。

 本気で言っているのか、冗談なのか分からない為、彩は引き攣った笑みを浮かべ優花を見る。恥ずかしそうに体をモジモジさせており、それが冗談では無いのではないかと、疑ってしまいたくなる。


「優花さ……。それって、何処まで本気?」


 恐る恐る尋ねてみた。すると、


「何処までって――」


 間が空き、優花が恥ずかしそうに俯く。


「全て本気よ」

「……冗談でしょ?」


 引き攣った笑みを浮かべたまま彩が尋ねる。だが、優花の返事は変わらない。


「冗談なんかじゃないわ。守君を見てるとね、胸の奥がキュンってなるの」

「嘘……でしょ? 優花……本気で、守みたいのがタイプなわけ?」


 彩の問い掛けに優花は僅かに頷いただけだった。

 困惑する彩。まさか、本気で優花が守の事を――。

 思考が上手く働かず、暫く放心する。

 考え込む守と、放心状態の彩に、照れている優花。この三人の光景は、夜の公園では異様に見え、傍から見れば可笑しな三人組にしか見えないだろう。

 それにいち早く気付いたのはフロードスクウェアで、三人に聞こえる程大きなため息を吐いた後、


『お前ら、馬鹿だろ』


 呆れた口調で述べた。

 その言葉で我に返る三人。そして、いち早く声を上げたのはウィンクロードだった。


『さ、彩様を馬鹿呼ばわりするとは! 無礼にも程があります!』

『馬鹿に馬鹿って言って何が悪い』

『なっ! 何ですか! それは』

『あーぁ。うるせぇな! てめぇら』


 やる気の無い声。キファードレイの声だ。ウィンクロードと違って、怒っている様子は無く、相変わらずの荒々しい口調で言い放つ。


『てめぇらはうるせぇんだよ。少し黙ってろ!』

『んだと――』

「やめろよ。フロードスクウェア。見っとも無いぞ」

『けど――』

「けどじゃないよ」


 フロードスクウェアは言葉を呑み、小さく舌打ちをした。しかし、その舌打ちは誰にも聞こえる事無く夜空へと消えた。

 ウィンクロードもキファードレイも、フロードスクウェアと同じ様に、持ち主に宥められ大人しくなる。特にキファードレイは逆らう事無く、静かになった。


「話が少し逸れたけど、守君。暫くの間、彩の事お願いね」

「ちょ、ちょっと! 優花!」


 期待に満ちた視線を守に向ける優花に、彩は恥ずかしそうにそう叫んだ。その声に含み笑いを見せる優花は、彩をあやす様に頭を撫でた。完全に子供扱いの優花に、頬を膨らす彩は「もう知らない」と、ソッポを向いた。

 そんな二人のやり取りに思わず守は笑ってしまった。


「プッ、フフフッ……」

「な、何よ! 何が可笑しいわけ!」

「い、いや……な、何でも無いよ」


 彩と優花に背中を見せる様にして笑う。可笑しくて仕方なかった。まるで本当の姉妹の様だったからだ。同じ歳なのにそう見えた事が可笑しく、肩を震わし必死に笑いを堪えた。


「な、何だわけ! 一体」

「フフフフッ……。私は何と無く分かった気がするわ」

「エッ? 何何? どういうこと?」


 気になると言わんばかりに優花に詰め寄る彩に、「フフフフッ」と楽しげに笑い、


「気にしない事よ」

「エッ? で、でも――」

「さぁ、そろそろ帰るわ。暫く会えないけど、頑張ってね。二人とも」


 話を逸らす様にそう述べた優花は、守の方に顔を向け愛らしく微笑んだ。この日、初めて見せる様な可愛らしい笑顔だった。

 月一の更新ですいません。

 努力しているのですが、どうも上手い具合にいきません。

 読者の方には迷惑をお掛けしています。気長に待ってもらえると、ありがたいです。

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