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ガーディアン  作者: 閃天
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第五十三話 僅かな綻び 見えざる亀裂

 街の中心部。

 多くの高層ビルの建ち並ぶその一角で、建設中のビルがあった。現在、奇妙な事件が続き、工事は滞っている。作業員が数名、何かに切り裂かれ、重症を負うと言う事件があったのだ。怪我をした人達は、突如突風が吹き、何かする鋭いモノが体を切りつけたと言っている。専門の人の話では、ただの鎌鼬かまいたちの仕業だというが、そう頻繁にそんな現象が続くとは思えない。その為、大地と優花の二人は、その建設中のビルの一階に居た。

 右膝を立て座り込む大地は、右手首のブレスレットを左手で掴み、軽く手首を回す。冷静な面持ちの優花は、大地をチラッと見て、キファードレイを具現化する。柄が長く、大きな三日月型の刃。それを軽く脇に立てる優花は、息を吐き静かに目を閉じすぐに開く。すると、その瞳が赤く輝き、鋭い目付きに変る。


「行くわよ」

「ああ。いつでもいいぜ」


 靴紐を硬く結んだ大地は、静かに立ち上がり、右手の骨をボキボキと鳴らした。刃と柄の間にある緑の水晶は、薄らと光を放つとキファードレイのガラガラ声が聞こえる。


『微かに気配が漂っているぜ。気ぃ引き締めろよ』

「キファードレイに言われなくても分かってるさ」


 大地は軽く微笑むと、グラットリバーを具現化する。具現化されたグラットリバーは、右手を覆い黒く艶やかに光を反射する。右手の甲に煌くオレンジの水晶を見据える大地は、軽く右手を握り締めると、何度か頷き口を開く。


「うん。順調だな。前回の戦いで欠けた所があったが、再生されているな」

『当たり前だ。これでも、全力で治癒したんだぞ。感謝しろ』

「ヘイヘイ。分かってるって。そんじゃま、狩人出陣!」

「その必要な無い様よ」

「ヘッ?」


 優花の言葉に変な声を上げる。すると、奥の方に巨大な影が映った。黄色い地肌に黒の斑模様が入った鬼獣。それは、以前優花が学校で戦った鬼獣、風豹だった。あの戦いで負ったと思われる傷痕が残っている。

 威嚇する様に牙を剥き出しにする風豹は、鋭い眼球で優花と大地を睨み付け、全身の毛を逆立てる。大地は右目を細めると、呆れた様にため息を吐き、優花の方へと体を向けた。


「手負いの相手だぜ。どうするよ」

「関係ない。全力で行くわよ」

「全力ねぇ〜。別に優花一人で十分だろ?」

『おい! 大地!』


 面倒臭そうな大地にグラットリバーが怒鳴った。


「わーってるて。やるこた〜ちゃんとやるさ」

『お前な……』


 少しだけ呆れた様なグラットリバーは、大きなため息と漏らした。一方、優花は不満そうな目を大地に向け、静かに口を開く。


「いいのよ別に。イヤなら手伝わなくて」

「んだよ。イヤとは言ってねぇだろ。ただ、俺が居なくても――」

『大地!』


 グラットリバーの怒鳴り声が響く。少々驚いた様子の大地は、目を丸くしてグラットリバーを見た。微かに光を放つ右手の甲の水晶。そして、グラットリバーの声が聞こえる。


『大地。お前、本気でそんな事――』

「いいわよ。私一人でやるから……。大地は帰って」

『おい! 一人でやるって――』

『うっせぇ! やる気のねぇ奴が居たって意味はねぇんだよ!』


 キファードレイが荒っぽい口調でそう言い放った。その言葉に、『クッ』と、グラットリバーは悔しそうな声を吐く。眉間にシワを寄せる大地は、不機嫌そうにキファードレイを睨み付け、一歩歩み寄ると怒鳴り声を撒き散らす。


「てめぇ、さっきの言葉もういっぺん言ってみろ!」

『何度でも言ってやるぜ! この役立たずが!』

「んだと! 自分じゃ何も出来ねぇくせに!」

『止めろ! 大地!』

「キファードレイ。行くわよ」


 静かに優花がキファードレイに言う。軽く『おう』と呟いたキファードレイを、優花は構え直し、カードフォルダから炎蝟のカードを抜く。そして、目を閉じ静かに囁く。


「我、汝を封じし者。今一度、汝の体を解き放つ。我の矛となり戦え!」


 優花の足元に風が渦巻き、砂塵が舞い上がる。そして、炎蝟のカードは強い光を放つ。


「鬼獣召還! 炎蝟」


 優花の手からカードが消える。そして、優花の足元に小さな体の炎蝟が姿を現した。針の様な毛を覆う炎は、赤く光を放ち、白煙を吹かしている。やる気は十分そうな炎蝟に、キファードレイを構える優花が静かに問いかけた。


「今回は、大丈夫そう?」

「任せろ。全てを焼き払ってやろう」

「それは困るわ。焼き払うのは、鬼獣だけにして」

「フン。いいだろう」

「今回は油断しないでよ」

「分かっている。手は抜かん!」


 炎蝟は毛を逆立てると同時に、地を蹴る。素早い身のこなしの炎蝟を見失う豹風は、狙いを優花に定めたのか、優花に向って直進してきた。優花はそれを予測していた為、キファードレイを振り上げる。そして、射程距離に豹風が足を踏み入れると同時に、素早くキファードレイを振りぬいた。直進する豹風の左脇腹に、大鎌の鋭い切っ先が食い込んだ。だが、豹風はそれを諸共せず、右腕を振り上げる。


「うがあああっ!」

『チッ! 優花!』

「分かってる。炎蝟! お願い」

「今回は、本気で焼き払うぜ!」


 炎蝟が反転し、右腕を振り上げた豹風の背中に向って走り出す。全身の逆立った毛が炎を放出し、炎蝟の小さな体が火の玉と化す。燃え上がる炎蝟の体は、更に高温の熱を発し、炎蝟の通った道筋が黒く焦げていく。


「猛火の炎で焼き払ってくれる!」

「行くわよ! キファードレイ!」

『ああ、いつでもいいぜ!』


 優花は両手に力を加え、豹風の体へと刃を押し込んでいく。すると、刃の刺さった所から僅かに風が漏れ始め、その風がキファードレイの刃を包み込んでいく。風が徐々に柄にまで伝わり、優花の両手に触れる。奥歯を噛み締める優花は、キファードレイの刃が抜けない様に確りと力を込めていた。


「うっ……」

『優花! 踏み止まれよ!』


 風に押され、キファードレイがカタカタと揺れる。優花の細い腕には、血管が薄らと浮き、激しく揺さぶられていた。元々、優花はパワーで勝負する様な戦闘タイプではない。その為、いつ弾き飛ばされても可笑しくない状況だった。


「ウガアアアアッ!」


 優花が柄を握る手に力を込めると、豹風が悲鳴に近い雄叫びを上げる。しかし、それと同時に更に優花の両腕に負担が掛かり、キファードレイが小刻みに揺れ始めた。限界が近付きつつある中、ようやく炎蝟が豹風の背中へと激突した。


「ぐおおおおっ!」

「燃え尽きろおおおおっ!」


 体を丸める炎蝟は、そのまま回転し、炎に包まれた針の様な毛で豹風の背中を抉る。豹風の苦しむ様な声が響き、背中からは煙が上がり始めた。燃えているのか、抉っているのか分からないが、苦しむ豹風は、振り上げた右手を静かに地面に落とす。その瞬間、優花はキファードレイを脇腹から抜き、静かにカードフォルダからカードを抜き、目を伏せ意識を集中する。

 緩やかな風が足元から吹き上げ、優花の服が大きくはためく。腰まで届く長い黒髪は、緩やかに靡き、優花を美しく見せる。微かに動く優花の唇。そして、キファードレイが叫ぶ。


『炎蝟! もういい、下がれ!』

「チッ、仕方ない。後は任す」


 豹風の体を弾き、空中で体を元に戻した炎蝟は、体から光を放つと、カードへと戻った。それと同時に、優花の目が開かれ、赤い瞳が豹風を捉える。


「我、汝等を封じる者也。司るは風。流れる風に吹かれ、汝等を封ずる!」


 カードを宙に投げると、吹き上がる風がカードをユラユラと舞い上がらせた。キファードレイの水晶が微かに光を放ち、無記入のカードから糸の様な細い風が豹風へと伸びる。弱りきった豹風の体を、風が包み込むと、カードへと引き込む様に豹風の体を引いていく。


「封印!」


 優花が力強くそう叫ぶと、風に包まれた豹風の体がカードへと吸収された。無記入だったカードに、豹風の姿とデータが描かれ、ヒラヒラと地面へと落ちる。肩で息をする優花は、キファードレイの具現化を解き、静かにカードを拾いカードフォルダへとしまった。

 約二ヶ月ぶりの更新。

 長い間待たせてすいませんでした。

 まだ読んでくれる人が居るのか心配です。

 待っていてくれた人。ありがとうございます。

 まだまだ誤字脱字が目立ち読みにくいかも知れませんが、これからもよろしくお願いします。

 期待している人が居るか分かりませんが、期待に応えられる様に頑張りたいと思います。

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