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ガーディアン  作者: 閃天
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第五話 後片付け

 学校中大騒ぎになっていた。

 朝のあの稲妻と、割れた窓ガラス、こげた廊下と天井。色々と騒ぎになるネタは多く、もちろんその時間校内に居た守と彩と奈菜の三人は、校長室に呼ばれ色々話を聞かれていた。その為、午前中殆ど授業は受ける事は無かった。

 登校時間前に学校に侵入した守と彩は物凄く怒られ、一週間の奉仕活動を言い渡された。一方の奈菜は、ちゃんと登校時間内だったため、叱られる事も無くすぐ教室に帰される事に。暫く校長の説教を喰らった守と彩は、割れた窓ガラスの掃除をする羽目になった。


「はう〜っ。何故、俺が窓ガラスの掃除を……」

「文句言ってないで、手動かしなさいよ!」

「これも、全て転入生のせいだ〜」

「うるさい! 第一、私は転入生って名前じゃありません!」


 グダグダと文句を言い全く手を動かそうとしない守に、肩口に届く髪を後ろで束ねた彩が不満を言う。だが、そんな言葉など守は聞いていなかった。ため息を漏らし、「う〜っ」と唸り声を上げガックリ肩を落す守は、小さな声で呟く。


「あう〜っ。完全に、不良だと思われた〜……。もう、嫌われた〜……。学校なんて来る意味ないよ〜……」


 完全に自信喪失している守には、何を言っても聞こえないと彩は判断し、一人手を動かしガラスを片付ける。黙々とガラスを片付ける事一時間、ようやく外に散らばっていたガラスを全て片付けた。

 ほぼ一人で片付けを済ませた彩は、校舎の隅に蹲る守の姿を発見し呆れた表情を浮かべた。その瞬間、胸の位置にある小さな杖から声がする。それはウィンクロードの声だ。


『彩様。どうかしたんですか?』

「ううん。別に。まさか、あいつが本当にガーディアンだったと思うとさ……。この先大丈夫かな? って」

『大丈夫ですよ。彩様にはこの私がついております』


 そのウィンクロードの言葉に、微かに笑みを浮かべた彩はふと、守のサポートアームズのフロードスクウェアのことを思い出した。

 サポートアームズ最強の武器とか、ガーディアンマスターに創られたとか、挙句地系最強の術を使おうとした。結局発動はしなかったが、それでもフロードスクウェアが一体どんなサポートアームズなのか気になったのだ。


「ウィンクロードに調べて欲しい事があるのよ。頼んで良いかな?」

『はい。彩様の言う事でしたら、何でも喜んで』

「ごめん。色々苦労掛けて。それじゃあ、早速だけど、守のサポートアームズの事なのよ」

『彼のサポートアームズですか。直接聞いてみた方がよいかと?』

「それが、今、ちょっと話せないのよ。色々ショックが大きかったらしくてさ。それで、あなたに頼みたい訳」


 明るくそう言う彩に、少し間が空く。そして、意を決した様に明るい声でウィンクロードが答えた。


『わかりました。でしたら、そのサポートアームズのお名前を聞かせてください』

「フロードスクウェアって言うの。調べるのにどれ位掛かる?」

『出来る限り、努力しますが、一、二時間ほど掛かるかと』

「そう。それじゃあ、お願いね」

『はい』


 静かになり彩はゆっくりと息を吐く。相変わらず落ち込んだままの守の方に足を進める彩は、ふと足を止めコッチに向ってくる人の少女と目が合う。それは、今朝あった皆川 奈菜だった。

 軽く頭を下げる彩に、奈菜が笑顔で駆け寄り彩の前で足を止めた。何しに来たんだろうと思う彩が首を傾げると、奈菜が彩の右手に持っていたホウキを掴み優しく可愛らしい笑みを見せながら言う。


「私も手伝うよ。私もあの現場にいたし、何だか私だけが罰を受けないのは何だか申し訳ないから」

「でも、皆川さんは、別に規則は破ってないでしょ?」

「ううん。そんなの関係ないよ。それに、二人よりも三人の方が早く終るよ。あと、私の事は奈菜って呼んでいいよ。私も彩って呼ぶから」

「う、うん。わかった」


 少しばかり奈菜に圧倒される彩は、引き攣った笑顔を見せそう答えた。その時、ほんの一瞬だが、彩は思った。めちゃくちゃ可愛いと。

 頭がボーッとする彩の前で、奈菜が誰かを探すように辺りを見回す。それから、暫くキョロキョロした後、彩の方を見て不思議そうな表情で訊く。


「あの〜。もう一人の方は?」

「もう一人。あ〜っ、あいつの事ですか?」


 彩の指差す方には、もちろん落ち込み隅で蹲る守の姿があった。その守の姿を見るなり、「何かあったんですか?」と、小さな声で奈菜が聞く。全く自分が原因だと言う事に気付いていない奈菜に、「まぁ、色々」と、彩は苦笑いを浮かべながら答えた。

 奈菜は蹲る守に歩み寄った。守は地面に映る影で誰かが背後に立ったと気付くが、それが彩だと思い込み静かに口を開く。


「おりゃ〜……駄目だ……。もう……、完全に……嫌われた〜…」


 その守の言葉に首を傾げる奈菜は、『誰に嫌われたんだろう?』と、思いながら不意に彩の方に顔を向ける。奈菜の視線に気付いた彩が振り返り、奈菜と目が合うと、何故か軽く会釈してしまった。それは、奈菜も一緒だ。彩と目が合い、何だか反射的に笑みを浮かべ頭を軽く下げていた。

 守の方に向き直った奈菜は、気持ちを落ち着かせゆっくりと守に声を掛けた。


「どうかしましたか?」

「どうも、こうも――…!」


 その声に守が素早く振り返る。奈菜と一瞬だが視線がぶつかり、守はすぐさま立ち上がった。そして、頭で考える。『なぜ、皆川さんがここに?』と。

 立ち上がったまま動かない守を、心配してか、奈菜は「大丈夫?」と声を掛けた。だが、守の耳にその声は聞こえていない。返事が返って来ないことに更に心配になる奈菜は、守の右肩に手をやり軽く揺すりながら声を掛けた。


「あの〜。大丈夫?」

「――ッ。……! のわっ!」


 体を揺すられようやく気付いた。奈菜の顔が物凄く近くにある事に。驚きのあまり変な声をだしてしまった守は、その場を二・三歩後退り引き攣った笑顔を奈菜に見せた。びっくりしたのだ。まさか、こんなにも近くで奈菜の顔が見られると、思っても見なかったし、ましてやこうやって話をかけてくるなんて思っても見なかった事だ。守の頭の中は完全に真っ白に。

 そんな事とは知らず、軽く首を傾げる奈菜はすぐにニコッと笑みを浮かべる。その笑顔がまた守には殺人的だった。何かで胸を撃ち抜かれた様な衝撃に、守は一瞬意識が遠退いた。それを何とか踏み止まった守に、優しく笑みを浮かべながら奈菜が言う。


「私も、手伝うよ」


 この時、ようやく守の思考が復活。そして、素早く脳内で計算される。

『皆川さんが手伝う→ガラスの破片を拾う→指切る→皆川さん怪我→危険!』

 計算された答えから、この作業が危険なものであると導き出し、この危険から奈菜を守る為にはどうしたら良いかと、守の思考がフル回転する。そして、導き出した。

『危険→自分が全部やる→ちょっとカッコいい? →皆川さん安全!』

 考えがまとまり、守が我に返る。すると、奈菜が地面に落ちるガラスを手で片付けようとしているのが見えた。ここで、奈菜にガラスを拾われると、先程導き出した守の考えがパァーになってしまう。

 だから、守はすぐさま叫ぶ。


「アアアアアアアアッ!」

「エッ、ど、どうしたの?」


 守の声に奈菜の動きが止まり、守の方に視線が向けられる。彩も手を休め、守の方に顔を向けた。急に静寂が辺りを包み込む。まるでここだけ時間が止まった様に。

 手を休めていた彩は、呆れた様に息を吐くと、そのまま片付けを再開する。ガラスの破片がぶつかり合う音に、ようやく奈菜も我に返りガラスを片付けようとした。

 だが、それを守がとめた。


「み、みみ皆川さんは休んでてください! 俺が後は全部やりますから!」

「でも、私さっき来たばっかりだよ。全然疲れてないよ」

「いいえ。ガラスで怪我したら大変です。女性にこんな仕事させられませんよ!」


 守のこの言葉を遠くで聞いていた彩は、「私は女性じゃないのか!」と、小さな声で呟き、頬を膨らしながら守のことを睨んでいた。

 その後、奈菜は上手い事守に丸められ、手伝いに来たのに、手伝う事無く全て片付いてしまった。

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