第四十五話 殺気を放つ者
殺気が学園内に広がった。
真弓達と話していた彩は、その殺気を感じ取った。背筋が凍りそうな程恐ろしい殺気に、内心穏やかではなかったが、真弓達が一緒な為、それを表情には出さない。
一方、守はその殺気に気付く事が出来なかった。毎朝のトレーニングの疲れのせいもあるが、それ以前に、守には殺気など気配を感じる技術は備わっていない。だが、フロードスクウェアは違う。殺気も感じる事が出来、尚且つ、その殺気を放つモノの強さまでも感じ取ってしまっていた。
以前にも感じた圧倒的な強さのサポートアームズの気配。そして、そのサポートアームズの近くから湧き出る禍々しい気配。それは、きっとそのサポートアームズの持ち主のものだろう。
今の守では到底足にも及ばない。その為、フロードスクウェアは堅く口を閉ざし、守を寝かしたままにしていた。
屋上で寝ていた大地は殺気に飛び起き、右腕のグラットリバーに目をやる。グラットリバーも聊か真剣な声で大地に言う。
『今までに感じた事の無い殺気だ。気をつけろ』
「ああ。分かってる。鳥肌が立つ位恐ろしい殺気だ」
『ただ、気になる事が……』
少々小さな声でそう呟くグラットリバーに、大地は不思議そうな表情をする。そして、静かに問う。
「何が気になるんだ?」
『いや……。その何ていうのか……』
「何だ? はっきりしないな?」
『俺もはっきりとは、わからないが、サポートアームズの気配を感じるんだ』
「サポートアームズの気配? それじゃあ、殺気を放ってるのは、封術師か、ガーディアンなのか?」
『それが……俺にもわからん』
その言葉に呆れた表情を見せる大地は、首を軽く左右に振りため息を一つ。そんな大地の態度に焦るグラットリバーは、早口で答える。
『な、何だよ! お前、俺をバカにしてるだろ!』
「別に〜。役にたたないな〜って思っただけだ」
『う、うるせぇ! そもそも、俺は探索タイプのサポートアームズじゃないんだ。詳しく分かるはずないだろ!』
「まぁ、そうだな。取り合えず、行けば分かるだろ」
大地はそう呟き屋上を後にした。
その頃、優花は校舎を出て、グランドに来ていた。既にそこから校門前の少女の姿が見える。不適に微笑み優花を真っ直ぐに見据える少女は、茶色の髪を揺らしながら静かに前進してきた。
優花の瞳が、少女が近付くにつれ赤く変化する。ピリピリと緊迫した空気が漂う。鋭い眼差しを向ける優花は、胸元で揺れるキファードレイを握る。そして、静かに問う。
「あなた……何者? 鬼獣でも……人間でもない」
「流石は、赤い眼の死神さん……と、でも言っておきましょうか?」
嫌味っぽい口調の少女は、耳のピアスに触れる。二人の視線が激しくぶつかり合う。
「あたしは、命の土と書いて命土。そして、これがあたしのパートナー……」
命土が触れていたピアスが眩い光を放ち、一瞬にして剣へと変る。細く長い柄に、鋭く尖った刃。少女の背丈程のその剣は、どちらかといえば刀に近い形をしている。
禍々しい殺気を帯びたその剣の柄頭には金色の小さな水晶がはめ込まれてた。そして、それが微かに光を放ち、何処からともなく声がする。
『ようやく、俺の出番か』
低音の声。それは、背筋をゾッとさせる位おぞましい声だった。
「あたしのパートナー。ライドフォルド。見ての通り、原形は剣よ」
「そう。別に興味ないわ」
優花はそう述べキファードレイを具現化する。長い柄の大鎌。それを右手に握り、真っ直ぐに命土を見据える。柄と刃の間にある緑の水晶が綺麗に光り声がする。
『ライドフォルドだと? そんな名前、聞いた事ねぇな』
「知らないのも無理は無いわ。ライドフォルドが出来たのは、あなた達が出来る更に前よ。あなたが知らなくて無理は無いわ」
『俺様よりも先に出来て、名前も知られていないと言う事は、大した事無い奴らしいな』
嫌味を言う様な口調のキファードレイを、「フッ」と鼻で笑うライドフォルドは、バカにした様に言い放った。
『貴様の様な下級な武器と一緒にするな』
『んだと!』
声を荒げるキファードレイに、命土は不適な笑みを浮かべる。
「全く、口が悪いのは、どのサポートアームズも同じね」
『何が言いたい! 小娘が』
「あなたごときのサポートアームズに、小娘扱いされる覚えは無いわね」
『くっ! 貴様!』
命土の挑発で、頭に血の昇るキファードレイは、カタカタと体を震わせていた。黙っていた優花は、静かにキファードレイを構える。そんな優花の姿を見るライドフォルドは、不適に笑う。
『俺達とやりあうつもりか? 止めておいた方が身のためだ』
『ふざけろ。俺様が貴様に負けるわけねぇ』
『随分と、大口を叩くじゃないか。それじゃあ、負けた時のショックが大きいぞ』
『黙れ! 今すぐ貴様をねじ伏せてやる!」
キファードレイがそう怒鳴る。一方、優花は落ち着いた様子で、命土の動きを観察していた。ライドフォルドを一向に構えようとしない命土は、静かに口を開く。
「あなた、知っているかしら? この世界に何人のガーディアンマスターがいるのかを」
「……?」
命土の言葉に聊か渋い顔をする優花は、首を傾げ答える。
「ガーディアンマスターは、世界に一人しか存在しないはずよ」
「違うわ。元々ガーディアンマスターは五人存在したのよ」
「五人?」
「そう。火のガーディアンマスター、水のガーディアンマスター、雷のガーディアンマスター、土のガーディアンマスター、風のガーディアンマスターの五人」
命土のその言葉に、怪訝そうな瞳を向ける優花。命土の言っている事が本当なのか、不明だからだ。それが、もし本当だとして、今それを話す理由も分からない。一体何が目的なのか分からず、命土を更に睨み付ける。
「そう怖い顔をする事も無いんじゃない? まぁ、いいわ。話を聞く気は無いみたいだし、そろそろ始めましょうか? 殺し合いを」
そう言うと命土の目が変化する。恐ろしく殺気立った鋭い目に――。その瞬間、優花とキファードレイは、体中に圧し掛かる重圧を感じ取った。重々しく、押し潰してしまいそうな程の重圧を。