表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーディアン  作者: 閃天
42/101

第四十二話 決着

 漂う砂塵の中央に見える影。

 体中に痛みの走る優花は、肩で息をし影を見据える。そして、愕然とし地に両膝を落とした。それは、砂塵の中央に見える影が、明らかに豹風の影だったからだ。結局、優花の渾身の一撃は、豹風に届かなかったのだ。

 俯き右手を地に着く優花は、苦しそうに呼吸を繰り返す。すでにキファードレイを具現化する力は残っていない。その為、キファードレイは優花の首にぶら下がったまま、何も出来ずに居た。何も出来ない自分に苛立つキファードレイは、言葉を発し様としない。

 そんな二人の方に足音が静かに近付く。小さく足を引き摺る様な足音が聞こえ、弱々しい声が二人の耳に届いた。


「何……している?」


 その声に顔を上げる優花は、驚き声を上げる。


「え、炎蝟!」


 そう。優花の前に立っているのは、傷だらけで血塗れの炎蝟だった。


『て、てめぇ、生きてやがったのか!』

「言っただろ……。俺の体は……今まで以上に……絶好調だと」


 炎蝟は右前足を引き摺りながら一歩前に進む。豹風の攻撃を受けた際、右前足を痛めたのだろう。

 しかし、先程砂塵の中に見た影は、間違いなく豹風のものだった。豹風と炎蝟は体格差があるのだ、見間違えるはずは無い。それじゃあ、さっきの影は……。そう考えた時、優花は表情を強張らせ、視線を先程の影の方へと向けた。だが、そこには豹風の姿などは無い。


「どうした? 主よ」


 表情の硬い優花に不思議そうに問いかける炎蝟。痛む体にムチを打ち、立ち上がる優花は辺りを見回し答える。


「豹風の姿が無い……」

「心配ないだろ……。奴も、あれほどの術を喰らったんだ。暫くは動けないだろう」

『チッ……。逃げられたって事かよ』

「それで、良かったんじゃないか? 主も余力は無い様だし、俺も既に消えかかっているからな」


 そう言う炎蝟の体は、薄らと色あせていた。そして、体から白煙が昇る。


「悪かったな。今日は、何の役にもたてず……」

「気にしないで。私も何も出来なかったから」

「今度奴と会った時は、もう一度俺を召喚しろ。次は必ず倒す」


 そこまで言って、炎蝟の体は光となり、カードへと戻った。炎蝟のカードがヒラヒラと地に落ちる。疲労の見える優花は、体の痛みに耐えながら、炎蝟のカードを手に取った。そして、それをカードフォルダにしまうと同時に、優花はその場に座り込んだ。膝が震え言う事を聞かない。


『大丈夫か?』

「平気……。少し休めば……」

『じゃあ、後は大地次第ってわけか……』

「そうなるわ……。私に戦う力は殆ど残ってないから」


 静かに息を吐く優花は、屋上の方に視線を送った。



 四階の廊下では、瓦礫に埋もれた守が、大地によって助けられていた。


「おい! 大丈夫か! 何があった!」

「ぐっ……ごめん……」


 表情を引き攣らせながら、守がそう呟いた。体中が痛む。特に腹部はズキズキと痛みが疼く。ゆっくりと体を起す守は、立ち上がりフラフラとした足取りで屋上へ向おうとする。そんな守の右腕を掴んだ大地は、鋭い目付きで守を睨み言う。


「おい! その体で何処に行くつもりだ!」


 俯いたままの守は、大地の手を振り払う。そして、苦しそうな呼吸をしながら答える。


「俺は……屋上へ行く」

「ばっ、バカか! 何考えてんだ!」


 守の言葉に驚く。ボロボロの体で屋上へ行っても、鬼獣にやられるのは目に見えていた。だが、守の眼差しは力強く、強い決意があふれ出ている。グラットリバーはその眼差しの奥に、一人の男の顔が浮かんだ。その人物が誰なのかは不明だが、自分にはとても大切な人の様に感じた。頭の中がボーッとするグラットリバーは、暫し時を忘れ黙り込んだ。

 大地の手を振り払った守は、すぐにフラフラの足取りで歩き出し、静かに口を開く。


「上で……フロードスクウェアが待っているんです。俺が……戻ってくるのを……」


 目付きを悪くする大地は、すぐに守の傍に駆け寄りもう一度、右腕を掴む。今度はその腕を首に回し、守の体を支え一緒に足を進めた。大地の行動に、少々驚く守だったが、すぐに笑みを浮かべ、「ありがとう」と呟いた。ムスッとした表情をする大地は、「言っておくが、これは貸しだからな」と照れくさそうに言う。



 屋上に取り残されたフロードスクウェア。具現化は未だ解けておらず、フェンス際で寝かされたままだ。武中はそんなフロードスクウェアに歩み寄り、不適な笑みを浮かべる。そんな武中の表情を見据えるフロードスクウェアは、静かに問う。


『貴様の目的は何だ? なぜ、あの娘を襲う』


 フロードスクウェアの問いに、肩を揺らし笑う武中はフロードスクウェアを見据えて答える。


「奴は、生け贄だ。水を司る最高位の封術師の血を、我らが主が求めている」

『我らが主?』

「おっと、少々喋りすぎたかな」


 そう言うと、武中はフロードスクウェアの柄を右手で握る。だが、フロードスクウェアの重量に、腕が上がらない。右腕に太い血管が浮き上がる。僅かに床からフロードスクウェアが持ち上がるが、そこまでが限界で、武中の手が柄から離れる。

 薄らと汗を滲ませる武中は、小さく舌打ちをするとフロードスクウェアを踏みつける。汚い足で踏み付けられるフロードスクウェアは、微かに身を震わした。


『貴様……。その足を退けろ……』

「フッ……。役立たずのサポートアームズが……」

『誰が、役立たずだ!』


 フロードスクウェアが叫ぶ。すると、刃が真っ赤に染まり、灼熱を帯びる。その熱に足を退ける武中は、フロードスクウェアから距離を取とる。熱気がフロードスクウェアから立ち込め、カタカタと微かに震えた。

 驚きを隠せない武中は、ゆっくりと後退し微かに身を震わせる。以前にもこんな光景を武中は見ていた。だが、それは遙か昔――まだ、ガーディアンマスターの生きていた時代に見たものだ。すでにガーディアンマスターが死に絶えたこの時代で、こんな光景を目にすると、武中は思ってもいなかった。


「き…貴様……一体……」

『我が名は……フロードスクウェア。ガーディアンマスターが創りし、最初で最後の最強の武器……』

「ま…まさか! そんなはずは無い! 奴は死んだ……はず――うぐっ!」


 武中の腹に刃が突き刺さる。そして、それが鮮血と共に背中から突き抜ける。刃に付着する血が、焼ける臭いを漂わせ蒸発してゆく。言葉にならない声を発する武中は、右手を真っ直ぐに伸ばし、目の前にいる者の左肩を掴む。


「グフッ……。貴様……いった……い…なん……なん……だ」


 吐血し微かな声でそう言う武中の腹から刃が抜かれた。その途端、血が傷口から吹き出て、武中の両膝が床に落ちる。腹部を両手で押さえる武中は、体内から溢れる生暖かな血をその手に感じゆっくりと床に倒れた。そんな武中の頭上には一つの影が――。胸元に煌く水晶は赤く鮮やかで、そいつの口元が微かに緩み白い歯を見せた。

 更新が遅くてすいません。

 それから、感想・評価をくださった皆さん。ありがとうございます。

 なるべく、早めに更新出来る様頑張ります。これからも、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ