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ガーディアン  作者: 閃天
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第四十話 相性最悪

 四階で鬼獣と戦闘する大地。

 相手のヌルヌルとした体に悪戦苦闘していた。拳は当らず、刃も効かず、大地の体力だけが削られていた。その間、その鬼獣が動いたのは、一度だけ。それも、大地が攻撃を外し、バランスを崩した時に、右拳を振り抜いただけだ。当りはしなかったものの、その拳を振った時に起きた風は、大地の体を弾き飛ばす程だった。


「くっ……。何だ……こいつ。攻撃が当らねぇ……」

『チッ! もっと早く気付くべきだった! こいつ、水蛙津すいあつだ! 打撃系の俺達とは最悪の相性だ』


 押し殺した様な声のグラットリバーに、大地の表情も険しくなった。

 そんな時だ、隣りの校舎から轟音が響き、屋上から何かが落ちてきたのは――。轟音に気付いた大地は、窓越しから隣りの校舎を見据え、気付く。天井が崩れた事に。もしやと、思う大地。彩か、守に何かあったのではないかと思ったのだ。

 その為、すぐにそっちに向おうと走り出したが、そんな大地の足に水蛙津の長い舌が巻き付き、その場に倒れこむ。顔から床に倒れた大地は、体を起すと身を震わせ水蛙津の方に顔を向け叫ぶ。


「てめぇ! 何しやがる!」


 鼻血が薄らと流れた。その事に気付いたグラットリバーは、ため息を吐き大地に言う。


『おい。鼻血出てるぞ』

「ああっ? 鼻血? そんなの今は関係ないだろ!」


 そう言いながらも、大地は右手で鼻血を拭う。そして、引き攣った笑みを浮かべ、水蛙津の方へと右足を一歩踏み出す。額に見える青筋から、大地の怒りが内面から溢れているのが分かる。もちろん、水蛙津もその大地の放つ怒りのオーラに気付いており、先程までのボーッとした顔つきが少し変り、目が大きく開かれていた。


「あんまり、調子にノンなよ……。打撃が効かないからってよ……」

「ゲコゲコ……」


 小さな鳴声が聞こえる。これが、水蛙津の声だ。自分に大地の攻撃が効かない事を思い出したのだろう。自信に満ち溢れた表情を見せ、一歩大地の方に足を踏み込む。その自信に満ち溢れた水蛙津の表情が、更に大地の怒りを増幅させる。

 米神を震わせる大地は、一度グラットリバーの具現化を解き、もう一度具現化する。先程とは違う形。細かい棘の様なモノが、沢山拳の先に生えており、痛そうだ。それを握り締める大地は、不適に笑みを浮かべる。


「さて、このいばらも、その体で弾く事が出来るかな?」

『大地! 分かってると思うが……』

「心配するな。すぐに終わる」


 グラットリバーの心配を他所に、大地は力強い声でそう言い放つ。そして、右拳を引き、左足を一歩踏み込み力を加える。


「伸びろ! 荊の道!」


 大地は腰を回転させ、右拳を力強く突き出す。すると、グラットリバーが水蛙津に向って伸びる。その際、グラットリバーと大地の拳は、棘棘の荊で繋がっていた。

 水蛙津は、それが危険だと気付いたのか、すぐさま口を開き、水を吐き出す。勢い良く発射された水の弾が、滑走するグラットリバーに直撃した。だが、その勢いは止まらず、水蛙津に向ってゆく。


「ゲコッ!」


 慌てる水蛙津は、体を捻りグラットリバーを右にかわす。すると、大地が僅かに笑みを浮かべた。


「撓れ!」


 その声と同時に、大地は右拳を左へと振り抜く。すると、真っ直ぐ伸びるグラットリバーが、大地と繋がる荊に引かれて、大きく左へと傾く。もちろん、二人を繋ぐ荊も左へと動き、水蛙津の方へと向っていく。


「ゲコッゲコッ!」


 完全に不意をつかれ、驚きの声を上げる水蛙津に、荊が触れ、グラットリバーが水蛙津の体に荊を巻きつけていく。ヌルヌルする水蛙津の体を諸共せず、棘が体に食い込み血が滲み出る。


「げ、ゲコッ! ゲコゲコッ!」


 締め付けていく荊に苦しみ、声を上げる水蛙津に、大地は更に力を込め、右拳を引く。荊が水蛙津の体を更にきつく締め付け、血が吹き出る。


「終わりだ!」


 大地がそう叫び、右拳を力いっぱい引く。だが、その手に、手応えがなく、グラットリバーだけが戻ってくる。グラットリバーが大地の右拳とぶつかり、衝撃が大地の肩を襲う。


「ぐっ!」


 奥歯を噛み締め、痛みを耐えた大地は、水蛙津の方を真っ直ぐに見据える。体から血を流す水蛙津だが、その傷が徐々に塞がっていく。まるで、今まではワザと術を喰らっていたと言っている様だった。


「どうなってんだ……」

『あいつ、水圧で荊を押し退けやがった』

「そうか……。それで、締め付けられていたのを解いたのか……」


 納得する大地は、右腕をもう一度引く。だが、その瞬間に水蛙津の口から長い舌が勢い良く伸ばされる。それに気付いた大地だが、反応が遅く、水蛙津の下が首に巻きつく。


「グッ!」

『大地!』


 首を締め付けられる大地は言葉を発する事が出来ない。締め付けがきつくなり、大地の意識が遠退き始める。微かに頭の中にグラットリバーの声が聞こえていたが、それも徐々に聞こえなくなってゆく。

 大地の右手に装着されるグラットリバーは、大地の力が弱くなっていく事に気付く。その為、大声で大地を呼ぶ。


『おい! 大地! 確りしろ!』

「ううっ……あっ……」


 薄れ行く意識の中で、大地がグラットリバーの方に視線を向ける。そして、右目を軽く閉じすぐに開く。何かの合図をしている様だった。グラットリバーはその合図を理解したのか、していないのか、急に黙り込む。

 両膝が床に落ち、大地の体が床に崩れる。水蛙津は、弱っていく大地の姿を目視し、一歩ずつ近付く。とどめを刺す為だろう。


『くっ! 近付くな! 俺の相方は殺させねぇ!』


 水蛙津が大地に近付くとグラットリバーがそう叫ぶ。それが、合図だった。

 床に倒れる大地が首に巻かれた水蛙津の舌を左手で掴む。その瞬間に、水蛙津の舌の力が緩み大地の首に巻きつく舌が解ける。ゆっくりと立ち上がる大地は、不適に笑い出し顔を水蛙津の方に向ける。


「フフフフフッ……。残念だったな。今までのは、全部芝居だ」

「ゲコッ!」


 その場を飛び退こうとした水蛙津だが、大地が舌を引きそれを阻止する。


「オイオイ。逃げるなよ」


 舌を引かれ、前方へと体勢の崩れる水蛙津に対し、小さな声で大地は呟く。


「お互い、楽しもうぜ」


 と。背筋が凍りつく様なその声に、水蛙津は恐怖を感じその場を逃げ出そうと必死になる。だが、舌を掴まれている為、水蛙津に逃げ場など無い。その為、大地はゆっくりと右拳を引き力を込める。


『この一撃で終わらせてくれよ。俺も疲れたし、上の連中が気になるからな』


 グラットリバーが大地の耳元で囁く。大地も微かに笑みを浮かべて、ゆっくりと答える。


「分かってるさ。この一撃で、消滅させてやるって」

「ゲコッ! ゲコッ!」


 喚く水蛙津だが、最後に優しく微笑んだ大地は、「喚くな」と真剣な表情で呟き、遂に右拳を振り抜く。棘の着いた拳が水蛙津の顔面に食い込む。それと同時に、大地は舌を掴んでいた手を放し、そのまま水蛙津を床へと叩き付けた。完全に顔を潰された水蛙津は、動かなくなり、暫くすると光となりグラットリバーの水晶の中へと吸収された。


「ふ〜っ……。ようやく片付いたか……」


 グラットリバーの具現化を解き、大地は汗を拭った。


『今回は、大分苦戦したな』


 右の手首に輝くブレスレットのグラットリバーがそう言うと、大地は軽く首を左右に振り余裕の表情を浮かべて言い放つ。


「誰が苦戦したって? 所詮は下級の鬼獣だ。あんなのに苦戦するかよ」

『その割りに、俺に臭い芝居までさせやがって』

「はぁ? オイオイ。あんな下手な演技で、俺の足を引っ張りそうになったのは、何処の誰だ?」

『ふ、ふざけんな! 誰が下手な演技だ。俺の演技は完璧だったぞ!』


 上擦ったグラットリバーの声に、大地は「はいはい。そう言う事にしておくよ」と、呟き歩き出す。すると、グラットリバーは『ふ、ふざけんな!』と大声で怒鳴った。だが、大地は全く相手にする気はなく、隣りの校舎へと足を進めるのだった。

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