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ガーディアン  作者: 閃天
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第三十七話 襲われた教室

 三階で揉める二人。正確に言えば、揉めているのはフロードスクウェアと大地だ。

 フロードスクウェアを宥める守は、苦笑いを浮かべながら大地の方を見る。ムスッとした表情の大地は、腕を組んだまま背を向けていた。呆れた表情を見せる守は、取り敢えずこの雰囲気をどうにかしようと、声を掛ける。


「それで、詳しく教えてくれませんか? 否定する理由を」


 守の言葉に背を向けていた大地が振り向く。眉間にシワを寄せる大地は、怪訝そうな目を守に向ける。そんな大地に苦笑いを浮かべる大地は、守の顔を指差すと力強く言い放つ。


「いいか。奴らにとって、ここにいる人間は、人質だ」

「……人質?」

「ああ。奴にとって人間は、最高の獲物であり、その中でも封術師やガーディアンはずば抜けて旨い食い物なんだよ」


 自信満々の大地の説明だが、どこか納得の行かない様子の守。右手を額に当て、渋い表情をする守は、少々不思議そうに大地に尋ねる。


「あの……。その鬼獣が人間を食い物にしてるなら、何故人質にする必要があるんですか?」

「あのな……。さっきの説明を聞いてたか? 奴らにとっては人間の中でも封術師とガーディアンを喰らいたいんだよ」

「ですから、封術師やガーディアンを狙うなら、何故ワザワザ人質をとる必要があるんですか? と、俺は尋ねてるんです。そもそも、これじゃあ二度手間じゃないですか! 爆弾を仕掛けるのだってそうだけど、学校にいる封術師やガーディアン全員を敵に回して」


 守の反論に一歩後退する大地。それほどまでに迫力のある表情をしていたのだろう。目付き、顔つき、態度。全てが堂々としていて、自分の考えが間違っていないといっている様だった。

 グラットリバーも、普段の守からは感じられ無かった迫力に、聊か驚きを隠せなかったが、すぐに口を開く。


『確かに爆弾を仕掛けたり、大地や優花、お前や彩の四人全員を敵に回したが、奴の獲物は完全に俺達四人に絞られた事になる。実際、邪魔な教師や生徒は睡眠薬で寝かされているらしいからな』

「ヘッ? い、今なんて?」

『ンッ? 睡眠薬で寝かされているって……』


 この時、グラットリバーは守と同じ疑問が生まれた。『何故、生徒や先生を睡眠薬で寝かせたのか』と、言う疑問が。初めは人質が逃げない様にだと思っていたが、元々奴らは人間が主食。ならば、逃げ出そうとした奴を喰らってしまえばそれですむ話。それをしないで、睡眠薬を使ったと言う事は、生徒・教師どちらに見られたくない理由があるのか、それとも見られているとやりにくい事でもあるのか。どちらにしても、とてつもなく嫌な予感がしていた。

 そんな時だ。どこかで窓ガラスの割れる音が響いた。そして、その音に続く様に悲鳴が轟く。


「キャーッ!」


 その悲鳴に守と大地の表情が変る。そして、フロードスクウェアとグラットリバーが同時に叫ぶ。


『鬼獣だ!』


 既に守と大地は走り出していた。その悲鳴が彩のものだと守も大地も気付いたからだ。すぐに教室に辿り着いた二人は、教室の戸を勢い良くあける。


「な! 何だこれ!」


 教室内には、多くの生徒が倒れていた。睡眠薬の効果だろう。だが、教室内には争った形跡が幾つが残っていた。外側の窓が割られ、破片が辺りに散らばっている。机なども大破している物があり、怪我をしている人も何人か見えた。

 その中に、真弓や智夏、望美の三人の姿があった。三人とも所々から血を流している。そんな三人に駆け寄る守は、教室を見回し彩がいない事に気付く。


「水島は? 水島は何処に?」

「すまない……。油断した……」


 智夏が右肩を押さえながら守に言う。その言葉に智夏の方に目を向ける。


「何があったんですか? 犬神さん」

「いきなり外から窓を割られて……化物が……。それで、彩を連れて行かれた」

「それじゃあ、水島は?」

「多分、屋上だ。上の方に向ったから……イッ」


 痛みに智夏が表情を歪める。守は「無理しないで下さい」と、智夏に言うと立ち上がる。そして、入り口にいる大地の方に体を向けた。守と大地の視線がぶつかる。すると、大地は早く出て来いと首を軽く振った。そんな守に、後ろから真弓が言い放つ。


「何処へ行くつもり!」

「何処って……助けに……」

「ちょっ、あんた死ぬ気!」


 驚いた声の真弓。それも当然の反応だ。そんな真弓に守は微かに笑みを浮かべて言う。


「大丈夫ですよ。死ぬ気はありませんから」


 その守の言葉に唖然とする真弓は、額に青筋を立てると大声で叫ぶ。


「ふざけないで! あんた、化物相手に何か出来ると思ってるわけ?」

「何も出来ないにしても、何とかしなきゃいけないでしょ? 水島をほっとく訳には行かないし」


 少し照れ笑いを浮かべる。緊張感の無さに怒りを見せる真弓が更に怒声を響かせた。


「あんた、言ってる意味分かってんの! ば、化物なのよ相手は!」

「そ、それは、十分分かってます。でも、三人が怪我してまで助け様としたのに、男の俺が何もしないのは、変でしょ?」


 もっともらしい事を述べる守が、もう一度照れ笑いを浮かべる。その守の態度に呆れてしまう真弓は、何だか守に怒鳴るのがバカらしくなった。その為、ため息を漏らし左手で額を押さえる。


「大丈夫ですか?」


 頭を押さえる真弓に、心配そうに守が尋ねる。表情を引き攣らせる真弓は、額に青筋をもう一度浮かべ、噛み殺した様な声で言う。


「大丈夫よ……。全然平気……ッ!」


 右手を振ろうとした真弓は、右腕に走った痛みに蹲る。慌てて真弓に駆け寄る守は、真弓の右手を掴むとポケットからハンカチを取り出す。


「ほら……。痛むんじゃないですか……。ちゃんと病院に行った方がいいと思いますよ」


 ハンカチで右腕の傷口を縛る。すると、痛みに真弓は表情を強張らせた。それほど、酷い傷ではないにしても、ちゃんと医者に見てもらったほうがいいと、守は思ったのだろう。だが、その考えを否定する様に、真弓が言い放つ。


「こんな傷は、唾付けとけば治るわよ」

「何だか、おじさんみたいな事言うね」

「だ、誰がおじさんよ!」


 望美にそう怒鳴る。そんな真弓に、「動かないで下さいよ」と、守が言う。「ごめん」と謝る真弓は、少し恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。

 「よし」と、守の小さな声が聞こえ、守がスッと立ち上がる。そして、軽く微笑む。


「それじゃあ。必ず後から病院に行ってくださいね。あと、教室から一歩も出ちゃ駄目ですよ。まだ化物がウロウロしてるかもしれませんから! いいですね?」


 小さな子供に言い聞かせる様な口調の守の額に、智夏の鋭いチョップが上手い具合に決まる。特に音も無く、痛みだけが守の額に残り、額を押さえ守は蹲った。そんな守を見下ろす智夏は少し怒った様な表情を見せ口を開く。


「子供じゃないんだ。言われなくてもそれ位分かる」

「ウ〜ッ……。それなら、何も殴らなくても……」


 そこまで言った時、もう一度智夏のチョップが頭を捉える。「はぐっ!」と、守の変な声が聞こえ、静かに守が顔を上げる。少々ムスッとした表情の智夏に、守はうっすらと涙を浮かべながら聞く。


「何するんですか〜。暴力反対ですよ……」

「まだ言うか!」


 無音でチョップが守の額に直撃する。「ふぎゃっ」と、またしても変な声を漏らす守。今度は、額ではなく、顔面を殴打したのだ。顔を押さえる守は、眼を潤ませながら真っ直ぐ智夏を見据える。

 そんな小動物の様な守の眼に、望美が助け舟を出す。


「やめなよ。暴力はよくないよ。それに、怯えてるよ」


 相変わらずマイペースな口調の望美の声に、智夏は「これは、暴力ではない。愛のムチだ!」と、もう一度守にチョップを当てる。「ぎゃっ!」と、悲鳴を上げる守は、蹲ったまま思う。『何故、今チョップされたのか』と。

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