第三十四話 ガーディアンを辞める!?
殺気を漂わせる大沢は、不適に笑みを浮かべると、両手を広げる。
すると、大沢の体を真っ黒なオーラが覆いこみ、体が徐々に変化していく。胸板が厚くなり服が裂け、肩幅も腕周りも十倍近くも太く大きくなっていた。そして、下半身も強化され、足は床を砕き、脹脛も太股も筋肉で強化されていた。
「私をバカにした事を後悔するんだな。火野」
大沢の声とは思えない程濁った声。変わり果てた姿。もうこれを見て大沢と分かる奴はいないだろう。そんな大沢の姿に、悲しげな表情を見せる守に、フロードスクウェアは静かに尋ねる。
『どうする? 戦うのか?』
「……」
その問いに守の返事はない。ただ俯き下唇を噛み締めていた。何と無くだが、フロードスクウェアには守の気持ちが読み取れた。だが、強気な姿勢でフロードスクウェアは言い放つ。
『お前はガーディアンだ。確りしろ。他の人達に被害が出る前に、奴を始末するぞ!』
「なぁ……。大沢が、鬼獣なのか? それとも、鬼獣に操られてるだけなのか?」
『それは……』
何か言い難そうなフロードスクウェアの代わりに、大沢の背後から答えが返ってくる。
「前者が正解だ。こいつは既に鬼獣と化した」
「誰だ!」
大沢が振り返ると同時に、その首に鋭い牙の様なモノが触れ、大沢の首を刎ねた。一瞬の事だった。大沢の頭が跳び、その切り口から血が飛び散り、体は静かに崩れ落ちる。そして、その崩れ落ちた大沢の体の向こう側には、右手に具現化されたグラットリバーを武装した大地の姿だった。
堂々として、冷酷な眼差しを向ける大地と守の視線がぶつかる。睨み合う二人の間に不穏な空気が流れる。だが、フロードスクウェアとグラットリバーにはどうする事も出来なかった。
「何故……何故、殺した」
「鬼獣を倒すのは、ガーディアンとして当たり前の事だろ?」
「――くっ! 大沢先生はどうなるんだ!」
怒声を響かせる守に対し、冷たい視線を送る大地はバカにした様に言い放つ。
「既に、鬼獣に魂を食い尽くされて、人間じゃねぇよそいつは」
「だからって!」
「うぜぇな……」
「なんだと!」
いつに無く感情的になる守。そんな守に力強い声で大地は言う。
「うるせぇってんだよ! 所詮、お前はガーディアンじゃねぇんだ! 邪魔するなら、今ここで排除する!」
『やめておけ。こんな奴如きに本気になるな』
グラットリバーの声に大地も我に返り、具現化を解く。そして、守に背を向け歩き出す。その背中を見据える守は、拳を震わせ奥歯を噛み締める。
静かに屋上を後にした大地は、階段をゆっくりと下る。
『少し言い過ぎじゃないか?』
「うるせぇ。あれ位で駄目になる様なら、今すぐにガーディアンを辞めてもらう。命を落とす前にな」
ため息交じりにそう呟いた大地は、少し悲しそうな瞳で空を見上げた。呆れた様な笑いをするグラットリバーは、『だったら、直接そう言えよ』と呟く。軽く首を振る大地は「俺が、そんな事言うガラに見えるか?」と半笑いで答えた。
屋上に残された守は、フェンスに凭れ掛かり空を見上げる。何の為にガーディアンになったのかと、考えていた。そして、暫く考えた後に、全てが嫌になり守は呟く。
「もう……辞めよう……考えるのも……戦うのも……」
『なっ! 何言ってんだ!』
驚き戸惑うフロードスクウェアの声に、守は目を伏せ僅かに笑みを浮かべてため息を吐く。そして、微かに首を振り答える。
「俺、何の力も無いのに、誰かを守るなんて……」
『何弱気になってんだ! お前には俺がいるだろうが!』
「お前が凄くても、俺は何にも出来ない。ガーディアンとしての戦い方も、何も分からない」
『それじゃあ、彩はどうなるんだ? お前、彩のガーディアンになるんじゃなかったのか?』
真剣な口ぶりのフロードスクウェアに、守はため息を漏らす。確かに、最初は彩を一人で鬼獣と戦わせると危ないと思い、ガーディアンになった。だが、守にはガーディアンとしての知識が無さ過ぎる。元々、ただの高校生だったのだから。
それに、ガーディアンは沢山いる。別に自分がやらなくても、他に強い人がきっと彩のガーディアンをやってくれるだろう。そう言う思いが守の中にはあった。その為、弱気な口調でフロードスクウェアに言う。
「悪い……。やっぱり、俺には出来ないよ。フロードスクウェアを手に入れたのだって、たまたま。元々、俺なんかが手に入れて良い物じゃなかったんだよ」
『お前……本気で言ってんのか?』
「ああ。だから、俺とお前のコンビも解散だ」
『ふざけんな! 俺にはお前が必要だ! お前以外の人間に使われるつもりは無い!』
必死に怒鳴るフロードスクウェアだが、既に守の心は決まっており、揺るぐ事は無かった。静かに首に掛けられたフロードスクウェアを手に取り、ゆっくり床に置く。そして、微かに笑みを浮かべ、歩き出す守にフロードスクウェアは叫ぶ。
『お前は、それでいいのか! 彩にはお前が必要なんだぞ!』
「……」
返事をしないで足を進める守。そんな守にもう一度叫ぶ。
『お前の目の前で、誰かが傷付いてもいいのか? また、彩や他の人達が鬼獣に襲われてもいいのか!』
その言葉に足を止める。そして、両拳を小刻みに震わし、静かに振り返る。
「誰かが鬼獣に襲われて、傷付くのなんて、俺だって見たくない。でも……俺には、誰かを守る事なんて出来ない。そんな力……俺には無いんだから」
『なら、力をつければいい。強くなればいい。お前が誰も傷付けさせない様に。お前も俺もまだまだ強くなる。だから……』
フロードスクウェアがそこまで言った時、スピーカーから緊急アナウンスのお知らせをする音が聞こえた。そして、その後に男の声がする。優しそうな男の声が。
≪只今より、ゲームを始めたいと思います≫
その放送に学園内は騒然となる。特に職員室は、「誰が、こんな放送をしているんだ!」と、大騒ぎになっていた。その他の教室でも、生徒達はザワメキ、「一体何をするんだろう?」と、疑問を抱くものもいた。
≪それでは、早速ゲームについての説明をしたいと思います。尚、一度しか説明しないので、聞き逃さぬ様心がけてください。万が一聞き逃すと、死ぬ恐れがありますので≫
その言葉に、更に学園内が騒然となった。この言葉が本当の事なのか、ハタマタ嘘なのか。一人一人の声が合わさり大きな音へと変り、放送の声が届かなくなる。その為、次の放送を聞いたのは、ほんの一部の者のみだった。
≪この学園のある三箇所に特殊な爆弾を仕掛けてあります。爆発までは後三時間。それまでに、この学園にいる私と、私の忠実なる下部を探し出してください。尚、このゲームに参加できる者は……恐らく、自分達自身が良く分かると思います。それと、何の力も持たない弱者共は、命を落としかねませんので、教室を出ない事をお勧めします≫
ここで放送は終わった。もちろん、この放送が終わった途端、教室内では騒ぎがおきた。教室を出ようと暴れる者。それを止め様とする者。恐怖に震える者。人それぞれだが、このゲームの趣旨を理解した者達は、一体誰がこのゲームの参加者なのかと、疑いの眼差しを向けていた。
お久し振りです。読者の皆さん。ガーディアンをご愛読ありがとうございます。
感想なども頂き、本当に嬉しいです。これからも、よろしくお願いします。