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ガーディアン  作者: 閃天
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第三十話 最悪の過去

 右手に具現化したグラットリバーが、艶良く黒光りしていた。その周りには、狼電が二体、水獅すいしが二体、土蟹どかいが二体。計六体の鬼獣が横たえていた。死んでいるわけでは無い。ただ動けなくなるまでボコボコにされたのだ。

 夜の静けさ。夜の冷たい風。夜空に浮かぶ月暈げつうんは、リングの様に美しい円を描き、地上を優しい月光で照らす。カサカサと揺れる木々の枝から無数の葉が舞い落ちる。その葉の一枚が、大地の目の前を通過し、ヒラヒラと狼電の体の上へと落ちた。

 狼電の体に落ちた木の葉は、体から放電される電気を浴び、蒼い火花を散らし灰と化した。風によって灰は微量の粉へと崩され、紺色の空へと溶け込んでゆく。


「案外、呆気なかったな」

『オイオイ。油断すんなよ。他にも隠れてるかもしれないぞ』

「どんな鬼獣が来ても、俺がチャッチャと片付けてやるぜ!」


 威勢の良い大地に対し、何処か納得の行かない様子の優花は、鋭い眼差しのまま腕を組み大地の背中を見据える。そんな優花の視線に気を良くする大地は、振り返り左手を腰にあて誇らしげな表情を浮かべた。だが、優花の真っ赤な瞳に真っ直ぐに見つめられ、その誇らしげな表情は、徐々に不安に染まる。


「な、なぁ……。俺達何かミスったか?」


 突然の大地の問い掛けに、『アァッ?』と、不服そうにグラットリバーが声を上げた。まるで、こいつは何を言ってんだと、言いたげな声のグラットリバーに、大地は小声で言い放つ。


「見てみろよ。あの顔……。何か、怒ってるみたいだぜ」


 グラットリバーに優花の顔を見せると、「なぁ」と、小さな声で同意を求めた。確かに、何処か難しい表情を窺わせる優花に、グラットリバーも何故か心配になった。何処かで自分がミスをおかしているんじゃないかと。その為、もう一度大地と一緒に鬼獣との戦いを思い返す。



 ――数分後。

 何度も思い返したが、結局何処にも目立ったミスは無い。鬼獣の攻撃は受けなかったし、鬼獣はほぼ一撃で仕留めた。的確に急所を突き。他にミスがあったとすれば、大地が一人で鬼獣を倒してしまったと言う事。だが、それ位で怒るだろうか? そう考える大地に、不意に優花が声を掛けた。


「そこに居ると、危ないわよ」

「うぇっ、あぁ。悪い……」


 慌ててその場を退く。具現化されたグラットリバーを元に戻し、少し離れた場所から優花の方を見据える。具現化された大鎌キファードレイを持つ優花の姿は、まるで命を狩る死神の様に見えた。それは、優花のサポートアームズであるキファードレイが、大鎌と言う形の武器だからそう見えるのかも知れない。だが、本当はあの赤い眼がそう見せているのだ。それだけ、不気味なのだ。


「行くわよ。キファードレイ」

『ようやく、暴れられるぜ!』

「我、汝等を封じる者也。司るは風。流れる風に吹かれ、汝等を封ずる」


 開かれたカードフォルダから素早く六枚のカードを宙に散りばめる。宙に投げ出された封と描かれたカードは、風に吹かれ静かに揺れ、ヒラヒラと落下する。振り翳されたキファードレイの水晶が、僅かに光りを発しそれぞれのカードが一体一体の鬼獣に、細い糸の様な風を緩やかに伸ばす。ウネリ混ざりあう風の糸は、それぞれの鬼獣の体に螺旋を描き、徐々に鬼獣を光りの粒子として、カードへと吸収していく。

 額に薄ら汗を滲ませる優花。一回で六体の鬼獣を封じるのは初めての事で、体力の消耗が激しかった。翳されたキファードレイは、小刻みに震え、優花の体力の限界を悟った。


『てめぇ! ふざけるな! 俺様は暴れ足りねぇ!』

「う……うるさい……。しゅ……集中できない……」


 奥歯を噛み締め、必死に耐える。宙に舞った六枚のカードは、不安定な優花の精神に共鳴するかの様に、小刻みに震えだす。鬼獣に伸びる風も徐々に安定を失い、鬼獣をカードに取り込む速度が急激に落ち込んだ。

 その様子に気付いた大地は焦り声を張り上げる。


「優花! 無理すんな!」

『てめぇは黙ってろ! この程度の鬼獣をいっぺんに封印できねぇで、これから封術師としてやってけるか!』

「なっ! 何言ってんだ! 適合者が力尽きても良いのかよ!」


 怒声を響かせる大地の方に顔を向ける優花は、その赤い眼の奥に強力な鬼獣の気配を感じた。それは、ここにいる鬼獣の気配とは比べものにならない程大きなモノで、一瞬にして優花の精神は打ち砕かれた。

 その為、宙を舞っていた六枚のカードは、取り込む途中だった鬼獣を解き放ち、地面に静かに落ちた。苦しそうに呼吸を繰り返す優花は、両膝を地に落とし俯いたまま、静かに胸を上下に動かす。


「大丈夫か!」


 駆け寄る大地が、優花の肩に右手を乗せ声を掛けた。だが、返事はない。


「おい! 確りしろ!」


 両肩に手を乗せ、激しく揺らす。すると、ようやく優花が返事を返した。


「ハァ! くぅ……大地。急いで、上位クラスの封術師とガーディアンを呼んできて」

「はぁ? どう言う事だ? こんな雑魚に、上位クラスの連中を呼んだら上から大目玉喰らうぞ」

「今は、そんな冗談を言ってる場合じゃない! 急いで! 奴は、私達の手には負えない……」


 怯えた様な目をする優花に、大地もただ事じゃないと察した。


「わかった。すぐ呼んでくる。お嬢様の事は任せるぞ」

「この命に代えても彩は護ってみせる」


 その優花の言葉に僅かに頷いた大地は、急いで封術師やガーディアンの集まる施設へと走った。闇へと消えてゆく大地の姿。聞こえるのは路地を蹴る大地の靴の踵の音。その音も消え、静まり返る。蹲る優花は、静かに立ち上がり呼吸を整える。キファードレイはそんな優花の姿を目にし、バカにした様な口調で言う。


『簡単にへばってんじゃねぇよ。それでも、俺様の適合者か?』

「来る……。行くわよ……」


 優花はキファードレイを構える。現在、フォルダには鬼獣の封印されたカードが無い。そもそも、優花が封術師となったのは、つい最近だ。普通なら、学園を卒業すると同時に、一枚の契約カードを渡されるが、優花はまだ渡されていない。その為、現在使える術は低級クラスのものだけだ。

 果たして、低級クラスの術でどれ位持つだろうかと、考える優花だがそんな余裕はすぐになくなった。

 背筋がゾクゾクとする様な声が、聞こえたのだ。辺り一体を圧迫するような殺気は、木々を激しくざわつかせ、地は僅かに震わせる。


「グフフフフッ……。ここが……水を司る最強の封術師の家か……」


 声が聞こえ、空から人型の影が大木の上に降り立つ。月光を浴び、その姿が徐々にだが明らかになる。その姿はまるで人の様だが、色が無い。無色な訳じゃない。夜空と同化している為、そう見えるのだ。


『何だ! あいつ!』

「――うっ! ううっ……」

『優花!』


 突然苦しみだす優花。意識が薄れ、その中でキファードレイが必死で名前を呼ぶ声だけが聞こえた。そして、その奥で謎の声が聞こえる。


「我が、赤い眼を受けし者。我が命に従い――殺せ!」


 その声で完全に優花の意識は無くなった。そして、意識が戻った時、優花はその手に血に染まったキファードレイを握っていた。真っ白な壁に血飛沫が飛び散り、いたる所に血痕が残されている。優花の衣服は返り血を浴び赤く染まり、手にも顔にも血がベッタリと付いていた。

 ガーディアンを愛読してくださる皆さんこんばんは。作者の崎浜秀です。

 最近、全く更新しない日々ばかりで、ご迷惑おかけしています。

 今回、ようやく第三十話を迎えました。なのに、物語の方はイマイチ発展していない。ついでに言うと、最近はバトルがありません。

 そろそろ、大きな戦いでも書かなきゃと焦ってます。

 長くなりましたが、読者の皆様、これからもガーディアンと、守と彩の二人を見守ってください。

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