第二十七話 封術師とガーディアンの関係
静かな喫茶店で、向かい合って座る守と優花。
気まずそうな表情を浮かべる守は、俯いたまま優花の顔すら見ようとしない。
一方の優花は、ニコニコと笑みを浮かべたまま黙っている。
沈黙が続く中、ウェイターが注文をとりに来る。
「ご注文の方は?」
ウェイターの方に顔を向ける優花は、メニューに軽く目を通して答える。
「それじゃあ、コーヒーとレアチーズケーキ。お願いするわ。あなたは?」
優花はメニューを守に差し出す。メニューを受け取った守は、一通りメニューに目を通した。
「じゃ、じゃあ、コーヒーだけで」
「コーヒー二つにレアチーズケーキお一つですね」
「えぇ。よろしくね」
優しい笑みを浮かべそう言う優花に、ウェイターは軽く頭を下げ去っていく。ウェイターがいなくなり、また静まり返る。
その後も沈黙が続き、注文の品が二人の前に届く。守は角砂糖を二つコーヒーに入れ、ミルクを加えてスプーンでかき混ぜる。それを目にした優花は、コーヒーをブラックのまま口に運んだ。
「そのままの方が美味しいわよ。深みがあって」
「あんまり、苦いのは……」
守はそう返事を返し、コーヒーを口に運んだ。まだ苦かった為、一口目で表情が歪む。そんな守の表情に、楽しげに優花は微笑む。
「砂糖が足りなかった?」
「う〜っ……。それより、そろそろ本題に……」
コーヒーカップを皿の上に置き、「そうね」と呟く。唾を呑む守は、静かにフロードスクウェアをテーブルの上に置き、静かに口を開く。
「まず、初めに聞きたいのは、封術師とガーディアンの関係について。封術師は、鬼獣を封じる力があるのに対し、ガーディアンは鬼獣を倒す為の力がある。両方共、サポートアームズと言う同じ武器なのに、どうして全く異なる力なのか。 知ってる事があれば教えてほしいんです」
先程と打って変わり、真剣な面持ちの守に、暫し優花の表情も変る。先程までの笑みは無く、冷たい視線に、表情もやや冷やかだ。まさか、守がこんな質問をしてくるとは、優花も思ってはいなかった様だ。
もちろん、フロードスクウェアも守が、こんな事を考えているとは思っても無く、驚きのあまり言葉を失っていた。
暫し、沈黙が続き、優花がコーヒーを口に運んだ後答える。
「どうして、それを知りたいと思ったの?」
「水島から封術師とガーディアンの事を聞いた時から、少し疑問に思ってたんです。何で二つの力が全く同じものじゃないのかって」
「そう。なら、あなたなりの答えも出てるんじゃない?」
鋭い眼差しが守をジッと見据える。一応、守もそれなりの答えを出していた。ただ、それが合っている自信は無い。それに、確証も無く、それは守の推測でしかない。
その為、少々控えめな声で答える。
「これは、俺の推測ですが、元々封術師とガーディアンは、敵対していたんじゃないですか?」
「敵対? どうしてそう思うの?」
コーヒーを口に運び、少々驚いた様子の声で問う。フロードスクウェアは、質問に答えるつもりの無さそうな優花に不満そうに言い放つ。
『チョット待て! さっきから質問してるのはこっちだ! 答える気は無いのか!』
フロードスクウェアの声が喫茶店に響く。ウェイターやマスターが妙な表情を浮かべている。それもそのはず、今店内にいるのは守と優花の二人だけ。どこから、その声が聞こえてきたのか、疑問に思ったのだろう。
知らん顔する守は、フロードスクウェアを右手で握り話を進める。
「俺が、そう思ったのは、鬼獣です。鬼獣と言う生物は一体何なのかを考えた時、ふと一つの仮説が生まれました」
右手の人差し指を立て、顔の前に持ってくる。それに対し、興味津々に優花が身を乗り出す。その際、互いの顔の距離が近付くが、話に集中している守は全く慌てる素振りすら見せず、言葉を続ける。
「俺の立てた仮説。それは、鬼獣と言う生物を生み出したのは封術師で、サポートアームズを生み出したのはガーディアンだと言う事です」
「ふ〜ん。それじゃあ、あなたは、封術師が鬼獣を使いガーディアンを攻め、ガーディアンはサポートアームズでその鬼獣を退治していたと、言うわけ?」
テーブルに両肘を乗せ、手を組み合わせる優花は軽く首を傾げる。まさか、守がここまで考えているとは、優花自身思っても見なかった。それに、優花も守の立てた仮説に、興味があった。
そんな守の考えに驚いたのは、サポートアームズの二人も同じだった。自分達が作られたのは、適合者のサポートと言う事だけだと思っていたからだ。
一呼吸置く守は、静かに息を吐き、のんびりとコーヒーを一口飲み、更に言葉を続ける。
「いえ。ガーディアンはその名の通り、守護者。彼らは、サポートアームズを用いて、何かを護っていた。そして、封術師は鬼獣を操り、それを奪おうとしていた。それが、一体何なのかは、わかりません」
腕組みをする守は俯く。だが、その守の仮説を否定する様に、キファードレイが口を挟む。
『フッ。下らん仮説だぜ。第一、てめぇの言ってる事には、矛盾がありまくりだ。まず、封術師とガーディアンは、今現在共に鬼獣と戦っているんだぜ。それに、俺様達サポートアームズは、ずっと昔っから生きてんだ。そんな事があったなら覚えてんだよ!』
「そうね。確かに、矛盾が多いわね」
キファードレイの言葉に、頷く優花。だが、表情一つ変えない守はカップに入ったコーヒーを飲み干し、自信満々に言い放つ。
「俺の仮説はまだ続いてます」
「そう。ごめんなさい。途中で口を挟んで」
「いえ。お気になさらず」
軽く会釈する二人。一方のフロードスクウェアとキファードレイは、呆れてため息を漏らす。何だか、二人の堅苦しい言葉遣いに疲れ始めていた。
それに、二人は話に夢中で気付いていないが、すでに学校は始まっている。多分、もう一時間目は終わりに近付いているだろう。その事を、フロードスクウェアは守に伝えようと努力したが、言葉にする事が出来なかった。
真剣な表情を見せる守は、息を整え言葉を続ける。
「俺の推測では、ガーディアンは戦いに敗れ、全滅した。と、考えてます」
「それじゃあ、今いるガーディアンは?」
「以前、フロードスクウェアに、サポートアームズは幾つあるのか聞きました。その時、フロードスクウェアは昔は自分で造って、幾つももっている者がいたが、今は造る奴がいないと、聞きました。それは、何故か」
その守の力説に、優花も力が入る。
「サポートアームズを造る技術が絶えたから?」
「はい。そう考えるのが妥当でしょう。ガーディアンがサポートアームズを造り、その技術が絶えたとなれば……」
「今いるガーディアンは、形だけのガーディアン? と、でも言いたいの?」
「はい。そう考えると色々な所が繋がるんですよ」
堂々とそう説明する守に、優花は急に笑みを浮かべ指摘する。
「それじゃあ、今現在鬼獣がいるのはどうして? ガーディアンとの戦いに勝利したなら、鬼獣を生み出す必要は無いんじゃない?」
「うっ……。た、確かに……」
「結構、面白かったけど、詰めが甘いわね」
ニコッと笑ってみせる。「う〜っ」と、声を上げる守は眉間にシワを寄せ、難しい顔をする。だが、納得できない様子で、ブツブツと言い出す守は、背もたれに凭れ腕組みをし考え込む。
頭の中で張り巡らされる単語と単語を、一本の鎖で繋げ様と様々な可能性を編み出す。そして、いろんな仮説を立て、自分自身でその仮説に対し疑問を投げかける。
小さな声でブツブツと言う守の方を、楽しげに見据える優花はレアチーズケーキを口に運ぶ。甘酸っぱさが口の中に広がり、その味に優花も自然と笑顔になる。キファードレイはそんな優花を見て呆れた様に口に開く。
『相変わらず、甘い物には目が無いな』
「あら。別に甘い物が好きな訳じゃないわよ。ただ、チーズケーキが好きなだけ」
嬉しそうにレアチーズケーキを口に運ぶ。『そうかい』と、怪訝そうに呟くキファードレイは、つまらなそうに欠伸をして、眠りに就いた。静けさの戻る喫茶店には、清らかな音楽だけが静かに流れていた。