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ガーディアン  作者: 閃天
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第二十三話 賑やかな夜の街

 犬の遠吠え響く夜の街。足音無く二つの影が路地を駆け抜ける。首から提げたアクセサリーが、上下に激しく揺れ、そのアクセサリーに付いた水晶が、街灯の光を浴び煌く。夏だと言うのに、肌寒い夜風が、二人の髪を優しく撫で、美しく靡く。

 交差点を右に曲がり、大通りに出た二人は、呼吸を整え何事も無かったかの様に静かに歩き出す。人通りも多く、まだ賑やかなその通りは、沢山の店が立ち並んでいた。人ごみにまぎれた二人は、静かに行き交う人々を見据える。長い黒髪の少女は、すれ違う人一人一人の顔を丁寧に確認してゆく。一方、凛々しく鋭い目付きの少年は、困った表情を浮かべ右手で頭を掻く。その腕には美しいブレスレットが煌いていた。

 一通り、通りにいる人の顔を見た少女の方が、少年の方に歩み寄り怪訝そうな表情を浮かべながら問いかける。


「それで、この中からどうやって探すの?」


 冷やかな声。冷たい視線。その二つに、ニコヤカな笑みが重なり、少年の胸を鋭く貫く。引き攣った笑みを見せる少年は、右手の人差し指で頬を掻き、首を傾げる。特に表情を変えるわけでもなく笑みを浮かべたままの少女は、少年と同じように首を傾げてみせる。


「あら? 首を傾げてどうしたの? 悩み事? 相談に乗るわよ」

「い、いや……その……」


 戸惑う少年は、額から薄ら汗を流し焦りを見せる。それは、少女のニコヤカな笑みに隠された、怒りに近い感情を体全体に感じていたからだ。そんな戸惑う少年に、腕につけたブレスレットに付く水晶が輝き声が聞こえる。


『大地。圧倒されてるな』


 低音の声に大地と呼ばれた少年は慌てて、ブレスレットを押さえる。そして、辺りをオドオドと、見回して小さな声で言い放つ。


「ば、馬鹿! 他の人に聞かれたらどうすんだ!」

『こんなに人が多いんだ。話してても気付かれんだろ?』


 堂々とした口調に、大地は息を荒げながら言う。


「グラットリバー! そう言う問題じゃないんだよ!」

『へいへい。顔に似合わず小心者だな』

「誰がチキンだ!」

『俺は、小心者って言ったんだ。大体、何で俺が鶏肉の話をしなきゃならん』


 自信満々のグラットリバーに、右手の人差し指で頭を掻きながら呆れた様に呟く。


「あのさ……。英語で小心者をチキンって言うんだよ」

『なっ! チキンって、鶏肉じゃなかったのか!』


 驚きの声を上げるグラットリバーに、自信満々に胸を張る大地。そんな二人の会話を横で聞く少女は、呆れた様にため息をつき首を左右に振る。すると、胸元で揺れるアクセサリーに付いた小さな水晶が輝き、ガラガラの声が聞こえる。


『お前も大変だよな。馬鹿共相手によ』


 口の悪い声に、口元に僅かに笑みを浮かべた少女は、右手で髪を撫でながら答えた。


「あら。そう言うあなたも、あの二人といい張り合いよ」

『んなっ! 俺様が、あの馬鹿共と!』

「フフフッ。あなたには分からないわね」


 意味深な笑みを浮かべ、右手で口を押さえ静かに笑う。

 それから、数十分後、彼らはビルの屋上にいた。街の眩い明かりを見下ろし、行き交う人たちを見据える。長い髪が風に吹かれ、柔らかく揺れる。その数歩後ろに立つ大地は、腕組みをしたまま少女の背中を見据えていた。


「ここは、静かだな」


 ボソッと呟く大地。同じ街なのに、全く違う街にいる様な気がした。


『しかし、人は騒ぐのが好きだよな。どうして、夜位静かに出来ないものか……』

「別に全ての人が、騒ぐのが好きって訳じゃないさ。ホンの一部の奴らだけさ」


 含み笑いをしながらそう呟く大地に、今まで黙っていた少女が口を開いた。


「そう考えると、人も鬼獣と変らないわね」

「どう言う事だ? 優花ゆか

「人も鬼獣も悪い事をするのはホンの一部の奴らだけって事」


 含み笑いを浮かべながらそう呟く優花は、首にぶら下げたアクセサリーを具現化する。大きな三日月形の刃を優花の頭の上に翳し、長い柄は優花の横に立てられた。大きな鎌。これが、優花のサポートアームズだ。


『今日の獲物はどいつだ? 俺様は、暴れたりないぜ』

『キファードレイ。相変わらず、口が悪いな』

『ああっ? グラットリバー、てめぇ、俺様に口答えか?』


 口の悪いキファードレイに対し、グラットリバーは呆れた様にため息を吐く。それに続く様に大地もため息を吐いた。冷やかな視線を送る優花は、静かに息を吐き首を横に振る。そんな優花の方へと、足を進める大地は、街灯の光を見下ろしながら呟く。


「さて、狩人は狩りへと出かけますか」

「あら。珍しいわね。今日は元気が無いみたい」

『いつも俺様が活躍するから、凹んでるだけだろ!』

『黙れ! お前と俺のパートナーを一緒にするな!』


 怒鳴るグラットリバーを、馬鹿にする様に笑うキファードレイ。それが、グラットリバーの感に触り、怒りがこみ上げてくる。その時だった。空に蒼い閃光が走ったのは。雲の中を駆け巡る様に光る蒼い閃光を見上げる優花は呟く。


「来た様ね」

「それで、どうするんだ?」

「雷には土でしょ? だから、お願いね」

「はぁ? お願いって、まさか俺がやんのか?」


 驚いた声を上げる大地は、目を皿の様に丸くして優花を見据える。ニコッと笑みを浮かべる優花は、「駄目?」と、ガラにも無く可愛らしく呟く。それが、以外で何とも可愛らしく、大地も断るに断れなくなってしまった。

 その為、渋々とグラットリバーを具現化する。すると、大地の右拳にクワガタの顎の様な形の爪が装着されていた。結構、大きな形のその物体を、青光りする雲に目掛けて構える大地は、両足で地面を踏みしめ呟く。


「目標捕捉。さて、一発で捉えろよ」

『俺を誰だと思ってんだ? 一発ありゃ捕捉してやるさ!』

「もしもの時の援護準備してようか?」

「大丈夫だ。一発で捕捉できるって言ってるし」

「あら……。そう」


 優花は面白く無さそうに呟くと、不服そうに空を見上げる。右手を構える大地は、奥歯を噛み締め息を静かに吸う。ばきっばきっと、岩が砕ける音が響く。だが、それは岩が砕ける音ではなく、大地の右拳に装着された、あの爪が大きく開かれていく音だった。


「いっけ! 百足の牙!」


 そう叫ぶと同時に、凄まじい衝撃が右腕を襲い、そのまま右肩を突き抜けていく。踏みとどまる両足は、僅かに後方に引き摺られ、大地の表情がこわばる。右手から飛び出した具現化したグラットリバーには、鎖で大地の右手と繋がれ、そのまま雲の中へと消えてゆく。

 雲を切り裂くグラットリバーはその視界に蒼い光を放つ物体を捉えた。


『見つけたぜ! 捕獲する』


 そう叫ぶとスピードを上げ、その物体へと迫る。そして、ついにグラットリバーの牙がその物体に喰らいついた。その途端、『クッ! き、貴殿は!』と、声がする。と、同時に勢いよく鎖が引かれ、その物体とグラットリバーが雲の中から引きずり出される。


「よし! 捕獲したぞ!」

『チッ。俺様の出番は無しか』

「私達の出番はこれからよ」

『ああっ?』


 ふてぶてしくそう呟くキファードレイ。ニコヤカな笑みを浮かべたままの優花は、大鎌の柄を握り軽く構える。グラットリバーが地面に雲から引きずり出した物体を叩きつけ、元のブレスレットに戻る。

 風塵舞う中、現れたのは、電気を身に纏った狼電だった。だが、その首元には水晶がぶら下がり、それが光ると同時に声がする。


『まさか、貴殿方が関わっているとは、思っても見ませんでしたよ。赤眼の死神殿』

「あら。久し振りに会ったのに、随分な言い方ね」

「俺とグラットリバーは昼間に会ったけどな」

『そのおかげで、獲物は逃がしたけどな』

「それじゃあ、彩にもあったの?」


 首を傾げ大地の方に目を向ける。苦笑いを浮かべる大地は「まぁ、お嬢様は相変わらず、怖い目で睨んでたよ」と、呟き右手の人差し指で頬を掻く。そんな二人を睨みつける狼電は、電気を放電し威嚇を続ける。

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