表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーディアン  作者: 閃天
18/101

第十八話 守の母

「と、言うわけで、暫く家に泊めさせてあげたいワケで……」


 ここは、守の家。そして、守の目の前には、エプロン姿の美しい女性が立っている。この人が守の母親だ。長い黒髪、白い肌、優しく微笑みかける目。引き締まったウエストに対し、これでもかと言わんばかりに突き出た胸。その前には、細い腕が組まれている。表情は少々困った様子で、かすかに笑みを浮かべていた。


「お願いします。ほら、困った時は助け合わなきゃでしょ?」

「でもねぇ……。子猫や子犬ならわかるけど……。女の子を拾ってくるなんて……」

「ち、ちが――!」


 守の体を撥ね退け、母親が守の後ろに居た彩の右手を握り締める。たじろぐ彩は、苦笑いを浮かべ守の母親の顔を見る。キラキラと潤んだ瞳が、真っ直ぐと彩の瞳を見つめる。その瞳がとても愛らしく、何かを訴えかける様だった。


「あ、あの……」

「いいのよ。何も言わないで。あたしにはわかる」

「えっ、あの……」

「大丈夫よ。守が、何をしたかわからないけど、いつまでも家に居てもいいから」

「ち、ちょっと! な、何言ってるんだよ!」


 母の言葉にあせる守は、すぐさま母の言動を止める。このままだと、ある事無い事勝手に口走ってしまいそうだからだ。あまりの迫力に圧倒され言葉も出ない彩は、苦笑を浮かべるだけだった。

 その後も、守の母親に圧倒される彩を、何とか救い出した守は、足早に二階へと上がった。それから、彩を部屋に連れて行くと戸を閉め、静かに息を整え謝る。


「ごめん。うちの母さん、少し変わっててな……」

「ま、まぁ、面白いお母さんで良いんじゃない」


 苦笑いを浮かべる彩に、守も苦笑いで返す。

 部屋にはベッドと机が一つずつ。タンスに棚、クローゼット。その他にも色々と小物の多いその部屋は、まるで女の子の部屋の様だった。


「ここ、守の部屋なの?」

「まさか〜。そんなはず無いでしょ。第一、何で俺がこんな女っぽい部屋なんだよ」

「じゃあ、ここって?」

「姉さんの部屋。まぁ、今は使ってないし、問題ないと思うから、気兼ねなく使ってくれていいからさ」

「うん。そのつもり」


 彩はすでにバッグの中の荷物を取り出して、部屋を自分色に染めていた。呆気にとられていた守は、ため息を吐き部屋を後にする。すると、胸の位置から声がした。フロードスクウェアの。


『良かったのか? あいつらを家に連れてきて』

「別に、困る事も無いだろ? それに、困ってるのに見捨てるのはなぁ」

『いや……。そう言う事じゃなくてな……』

「さて、俺は勉強でもするかな」


 伸びをする守は、そう呟き笑みを浮かべながら自分の部屋へと向って歩き出す。そんな守に、フロードスクウェアは『おい、人の話を聞け』と、怒鳴った。だが、守は全く聞き耳を持たず、自分の部屋へと向う。その後も、フロードスクウェアに色々といわれたが、完全に無視を続ける守だった。


 一方、隣の部屋では、彩が着替えを始めていた。ベッドに置かれたウィンクロードは、そんな彩を黙った見据える。制服をハンガーへと掛ける彩は、ふと何かの視線を感じたのか、振り返り言い放つ。


「ウィンクロード。まさか、着替え覗いてないでしょうね?」

『ま、まさか! そんなはしたないマネ、私がするはず……』

「そうだよね。ごめん。変な事言って」


 そう謝った彩は、制服の下に着込んでいたTシャツを脱ぐ。下着だけになった上半身。その背中には、大きく痛々しい傷痕が残されていた。何かに斬られた様な深い傷痕。それを見るたび、ウィンクロードは胸が痛んだ。そして、思う。『もっと、私に力があれば』と。

 そんなウィンクロードの視界が急に暗くなる。気づくと、目の前には彩の姿があった。目尻を吊り上げた彩の姿が。すぐに怒っている事に気付いたウィンクロードは、何も言えず苦笑した。


「何、着替え覗いてんのよ! 何が、はしたないよ!」

『い、いや……。こ、これは……』

「言い訳するわけ? 見苦しいわよ!」

『いや、ですから……』


 ウィンクロードがそう言い掛けた時、部屋の戸がノックされた。部屋に響く澄んだ音と共に、守の声が戸の向こうから聞こえる。


「ご飯出来たけど、お風呂から先に入る? 一応、湯は沸かしてあるけど」

「覗かれるの嫌だから、守がご飯食べてる時にお風呂入るよ」


 戸の方に顔を向けて、そう言う彩に戸の向こう側から呆れた様子の守の声が返ってくる。


「いや〜。覗かないって……。興味無いし……。皆川さんならともかく、水島はな……」


 そうぼやいたのが部屋の中に聞こえた。何と無くムカついた彩は、力強く戸を開く。急に戸が開かれ驚いた表情を見せる守に、ニコッと軽く笑みを見せた彩は怒声を響かせた。


「守のバカー! あっち行けぇ!」

「な、何だよ! いきな――ぐほっ!」


 それ以上、守に発言を許さず、右ストレートを顔面にもらった。それと同時に、戸は乱暴に閉められ、バタンと、大きな音をたてた。戸の向かいの壁に頭部を打ち付けた守は、首を振り朦朧とする意識をはっきりさせる。何を怒っているのか分からず、右手で頭を摩る守は首からぶら下げるフロードスクウェアに話しかける。


「なぁ、俺。何か悪い事言ったかな?」

『さぁな。俺にゃ、女の気持ちは分からん』

「そうだよな。お前に分かるはず無いよな」

『何だ。その言い草は。まるで、俺が女心が分からん様な口ぶり』

「実際、わかんないだろ? 違うか?」


 その守の言葉に、『むぐっ』と、言葉を呑むフロードスクウェア。とりあえず、守はもう一度戸をノックする。だが、返事は無い。やはり怒っている様だった。その為、守はそのまま戸の向こうにそのまま話しかける。


「ごめん。一応、謝っておく。別に、怒らせるつもりは無かったんだけど……。傷付けてごめんな。それじゃあ。俺、ご飯食ってるから、先に風呂に入って良いからさ。母さんは水島と一緒にご飯食べたかったらしいけど、気にしなくていいからさ」


 それだけ告げ、守は戸の前を後にした。

 一階のリビングへとやってきた守は、静かに椅子に座りテーブルに突っ伏した。そんな守の姿をキッチンから窺う守の母は、優しい声で問う。


「さっき、凄い声が響いてたけど、喧嘩したの?」

「いや……。喧嘩って言うより、俺が何か悪い事言ったみたいで……。何が悪かったのかはさっぱりだけど」

「そう。それで、ちゃんと謝った? 自分が悪いと思ったら、すぐに謝らなきゃ駄目よ」

「謝ったよ。一応だけど……」


 顔を上げ複雑そうな表情を見せる守に、料理を皿に盛ってキッチンから出てきた守の母は、それを守の前に置く。守は箸を取り、手を合わせると「いただきます」と、小さく呟きお椀を左手に持つ。そんな守の向かいに座る守の母は、ニコッと笑顔を見せると優しい声で言う。


「あら。彩ちゃんもご飯?」

「んっ?」


 守は母の言葉に箸を銜えたまま振り返る。そこには、私服の彩の姿があった。初めて見る彩の私服姿に、暫し硬直する守は思わず箸を落としてしまった。そこで、我に返った守は、焦りながら落とした箸を手に取る。


「今、彩ちゃんの分も入れてくるから、守の隣にでも座ってて」

「あっ、す、すいません」

「いいのよ。ゆっくりして」


 守の母はそう言い優しく微笑みキッチンへと入っていった。恥ずかしそうに守の隣へと座る彩は、守の方に少し背中を向ける形になる。暫しボーッとする守に、背を向けたまま、彩が恥ずかしそうに言う。


「な、何よ。ジロジロ見ないでよ」

「いや……。私服姿って、新鮮だな」

「うっさい! こっち見るな!」

「はぐっ!」


 殴られた。今回は左ストレートで。それと同時に、椅子と一緒に守は床に倒れた。バンと、大きな物音を響かせた。背中を強打し、その痛みに「いってぇー!」と叫び声がこだまする。それから遅れて、「何するんだ!」と、守の声が響き、「こっち見るな!」と、彩の澄んだ声が響いた。そんな二人の姿をキッチンから見つめる守の母は、楽しそうににっこりと微笑んだ。

 あけましておめでとうございます。新年早々、更新と、言うわけで挨拶をさせていただきます。

 去年は、ほぼ更新されていないという状況だったので、今年はなるべく更新出来る様努力したいと思います。

 今年も、『ガーディアン』ともどもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ