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ガーディアン  作者: 閃天
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第十五話 火猿の狙い

 燃え盛るデパート。

 柱は炎上し、ありとあらゆる物が燃え上がる。そんな中に、浮ぶ一体の化物。

 体は炎に包まれて、太くガッチリした腕と、分厚い胸板。ゴリラの様な顔付きの化物は、火の海と化したその場所に止まり、あたりを見回す。

 そこに、響く床を叩く音。

 化物はその音のする方に体をむけ静かに口を開く。


「この程度で奴等は姿を見せるのか?」


 低くドスの聞いた声に、燃え上がる柱の奥から返事が返る。


「あぁ。奴等は来る。お前の気配とこの爆音に気付いて」


 落ち着きのある澄んだ声に、体の炎を更に激しく燃やす化物。

 それに対し、落ち着きのある澄んだ声がもう一度聞える。


「慌てる必要は無い。それに、もうすぐ傍まで着ている」

「すぐ傍か……。待ちきれないぜ……」

「後の事は任せるぞ。火猿」

「あぁ。任せろ」


 火猿と呼ばれた化物がそう返事を返すと、柱の奥に見え隠れしていた影が一瞬で消えた。



 一階食品センターには、彩の姿があった。何とかデパート内に侵入したのだ。

 既に誰もおらず、静まり返っている。彩は暫く一階を探索し、何もないことを確認してから二階へと上がってゆく。


『彩様。気をつけてくだされ。まだ、火猿とは距離がありますが、いつ襲ってくるか分かりませんから』

「分かってる。だから、こうやって一階一階慎重に調べてるんじゃない」

『ですが、私は何か胸騒ぎがしてしょうがありません』


 ウィンクロードがそう言うと同時に天井が砕け落ちた。


「キャッ!」


 破片が彩に襲い掛かった。防ぐ事も出来ず、破片を全身に殴打する彩は、床に倒れ込んだ。

 天井には大きな穴が開き、そこから真っ赤に燃える火猿が降り立つ。瓦礫を踏みしめ、倒れている彩を見据える火猿は、更に全身の炎を強めドスの利いた声を響かせる。


「封術士だな。ようやく来たか。待っていたぞ」

『彩様! 気を確かに!』

「……大丈夫。これくらい――ッ!」


 激痛が右足を襲う。その痛みに表情を歪める彩は、右手で右足を押さえた。生暖かなベットリとしたものに右手が触れる。そして、それが血である事に気付いた彩は、右足から大量の失血をしている事にここで初めて気づく。

 破片で殴打した時に切れたのだろう。ズキズキと軋む様な痛みを伴う右足を庇う様に、彩は立ち上がり火猿と距離をとる。右足から流れ出る血は、床を真っ赤に染め今も尚止まる事を知らない。

 そんな彩の姿を見るなり、火猿は不適に笑みを浮かべる。そして、瓦礫を踏み砕きながら一歩一歩と彩の方へと歩みを進めた。


「手傷を負ったみたいだな。ガーディアンも無く、手傷を負った封術士など、敵ではない」

『彩様! 来ますぞ!』

「分かってる」


 彩はしっかりと両手でウィンクロードを構える。すると、火猿が勢いよく駆け出す。瓦礫は火猿に力強く駆られ木っ端微塵に砕け宙を舞う。

 そして、ウィンクロードを構える彩の体に衝撃が走った。


「――ウッ!」


 何が起こったか全く分からない。ただ、凄まじい衝撃がウィンクロードを握る彩の両腕に襲い掛かり、地に足を踏ん張る事も出来ず、体は宙を舞っていた。

 床に何度も体を打ちつけ、ようやく勢いが止まる。ウィンクロードを握ったままうつ伏せの状態の彩は動かない。床には点々と血痕だけが残っていた。


『さ……彩様……大丈夫ですか?』

「……」


 ウィンクロードの声に、返事は返ってこない。封術士として鍛えられているとは言え、彩は女。アレだけの衝撃を体に受け動けるはずは無い。それに、あの一撃で既に体はボロボロだった。


『彩……様……』


 小さく呟くウィンクロードだが、奥から聞える足音に声を張り上げる。


『彩様! しっかりしてください! 目を覚ましてくだされ!』

「まずは、一人目だ」


 足音と共に聞える火猿の声。徐々に近付いてくるのは明らかだ。


『彩様! 彩様!』


 ウィンクロードは何度も彩の名前を呼ぶ。だが、反応は無い。このままでは、彩が危ないと焦るウィンクロードは、徐々に冷静さを失いつつあった。

 近付く足音が急に止む。歩みを止めたのだろう。だが、それにしては、辺りに火猿の体の炎が見えない。隠れているのだろうか? そんな事を思うウィンクロードだが、その視界に微かに捉えた。燃え上がる火の粉を。


「フハハハハハッ! 俺様の炎で焼き尽くしてやる!」


 不適で低い笑い声。ドスの利いた鋭い怒声。徐々に浮かび上がる巨大な火の玉。それは、螺旋を描き迸り、炎は球体を保ち更に大きくなる。

 そして、その火の玉の背後に微かに見える火猿の顔が、不気味だった。何も出来ないウィンクロードは、自分の無力さを知った。所詮、サポートアームズは扱ってくれる者が居なければ何の役にも立たないと感じる。

 大きくなりつつある火の玉は、辺りを明るく照らす。


「結局、奴は現れずか……。まぁいい。また、別の封術士を襲えば済む話だ」

『――! 貴様! まさか、初めから彩様を!』

「勘違いするな。俺様達はそんな低レベルの封術士など相手にしない。貴様等を襲ったのは、奴をおびき出すためだ。まぁ、奴も貴様等の様な低レベルな封術士は助けに来ない様だがな。フハハハハ……」


 火猿の笑い声だけが響く。そして、「死ね」と、火猿が叫ぶと同時に、火の玉が渦動しながら向ってくる。何も出来ず死を覚悟するウィンクロードだったが、何か黒い影が彩の前に立ちはだかった。迫り来る炎が、その人物を映し出す。

 黒く足元まで届くコートを羽織、頭にはフードを被っている。薄っぺらのコートは、軽く浮き上がり、頭に被るフードがふわりと吹き上がった。フードのしたから現れた赤と茶が複雑に混ざり合ったボサボサの髪。火の玉の光りではっきりと見える男の顔は、凛々しく大人びている。体付きもガッシリしていて、背丈は一八〇後半位だろう。

 コートを纏う男はスッと右手を前に出し、左足を引く。大きく開かれた袖口からゆっくりと右手が現れる。微かに薬指に輝く真っ赤な水晶のはめ込まれた小さなリング。手首にも少し細めのブレスレットがチラつく。そのブレスレットにも蒼い水晶が煌いていた。


「炎を喰らえ」


 優しく穏かな声でコートを纏う男の右手が巨大な火の玉に触れるや否や、赤く輝く水晶のついたリングに吸収された。一瞬で消え去った火の玉が残したのは焦げ臭いだけで、後は何も残っていなかった。右手を前に出したまま蒼い瞳で、薄らと見える火猿の姿を見据える。

 薄らと浮ぶ火猿の口元に白い歯と鋭い牙が二本ぎらつき、涎が滴れた。

 炎が消え去り、辺りは多少薄暗くなり、先ほどまではっきり見えていた男の顔が全く見えなくなる。微かに見えるのは、茶色の髪と混ざり合っている赤い髪だけ。何とか男の顔を見ようとするウィンクロードに、男の穏やかな声が言う。


「水島に仕えしサポートアームズ。名をウィンクロード」

『な、なぜ、私の名前を!』


 驚きを隠せないウィンクロードは、そう聞き返す。もちろん、驚いたのには理由があった。それは、ウィンクロードにその男との面識が無いと言う事だ。通常、サポートアームズの名を知るのは、その他のサポートアームズと、その適合者、そして接触したガーディアンと封術士のみ。だが、この男にサポートアームズの存在を感じない。それに、封術士やガーディアンとは違う何か不思議な力を、ウィンクロードはその身に感じていた。


「守る者と封じる者。一つでは何の意味も持たない。サポートアームズとて、一人では何も出来ない。それと同じだ。守る者が居て、初めて封じる者の力が発揮できる。そのことを忘れるな」


 その言葉がウィンクロードの胸を打つ。今、その事を自分自身が実感していたから。

 男は手を翳す。ウィンクロードと彩の方に向けて。口元が微かに動く。何か呪文を言っている様だった。だが、どんな事を口にしているのかウィンクロードには聞えない。それどころか、男の手の平から光りが放たれ、視界を遮られた。

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